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2話

「さて、どうしようかしら」


 ソフィアを抱きかかえて屋敷の中へ入った。

 さきほどの侍従に

「誰か手が空いているメイドに子供用の部屋を整えることとお洋服を準備するように伝えてちょうだい」と伝えた。


 我が家は男の子のリュシアンしかいない。流石にお下がりを着せるわけにはいかないのでいつもお願いしている子供服専門のお店に来てもらえるようにお願いした。


 まだこの屋敷の雰囲気に慣れないソフィアを抱っこしたままリュシアンのいる部屋へと向かった。


 扉を開けると「かあさま!」と飛びついてこようとしてピタッと止まったリュシアン。


「だ、だれ?」


 母親を盗られたと思ったのか半べそで私を見上げるリュシアン。


「この子はソフィア。今日からリュシアンの妹になるの。あなたはお兄ちゃんになるのよ?」


「……おにい…ちゃん?」

 意味がわからずキョトンとするリュシアン。


「ええ、おにいちゃん」

 微笑んでリュシアンの頬を優しく触れた。

「………優しくしてあげられるかしら?」


「やさしく?なんで?」


 リュシアンには理解なんてまだできないみたい。それはそうよね、いきなり妹と言われても。


 うーん、なんて言えばいいのかしら。私だってまだどうしてあげたらいいのかわからないもの。


「ソフィアはリュシアンより小さいの。だから守ってあげないと。ね?お母様がリュシアンを守るように、あなたが小さなソフィアを守るの。いや?」


「ぼく、きしさまぁ?」


「ふふっ、そうね。かっこいい騎士様ね?」


「わかった!ソフィアはぼくが、まもるっ!!」


 ずっと甘えん坊で赤ちゃんみたいだったリュシアンが突然お兄ちゃんらしくなったように感じた。

「ソフィア、おいで」と手を差し出した。


 ソフィアは最初私の胸に顔を埋めて隠れていたけどリュシアンに呼ばれるとおずおずと下におりたがって体を動かした。


「おりる?」


「……うん」


 まだ3歳にも満たないソフィアだけど言葉はリュシアンよりしっかりしている気がする。


 怖々と床におりたらすぐにリュシアンと手を繋ぎ絨毯の上に座ってくっついておもちゃで遊び始めた。


 リュシアンの部屋には積み木や木馬、ぬいぐるみが置かれている。それをリュシアンが一つ一つ説明しながらソフィアに貸していた。


 その姿が可愛くて思わずキュンとなって……やばい!すっごく可愛いすぎ!!!

 ここにカメラがあったら……この世界にはカメラなんてないし……私の前世の記憶では作ることなんてできないし……もう目にしっかり焼き付けておくしかない!!


 カメラは作れないけど私が動物や花の絵を描いて切って作ったパズルや、数字遊びのカードなどはここにはある。


 この世界ってまだまだおもちゃの種類が少ない。乗り物も馬車や馬だし。


 私の記憶をフルに使い今自転車を試行錯誤しながら作っている途中なの。その前にとりあえず三輪車!!


 リュシアンのために製作中なんだけど、なかなか上手くいかなくて、それでもなんとか頑張ってるところなの。


 馬車作りの職人たちを雇い入れて、成功すれば伯爵家から売り出すつもり。

 ついでに馬車も新しいデザインを提案して作って売り出した。

 乗合馬車は荷台に乗って適当に座るのでぎゅうぎゅうで苦しいしお尻も痛い。前世のバスの座席のように木の椅子を固定させ足元に荷物が置けるようにした。もちろん雨よけの幌もあり乗客が少しでも楽に乗っていられるようにと考えた。


 まだ売り出したばかりだけど乗合馬車の事業を行っているところからも問い合わせが来ている。


 こうして私は新しい事業を提案しながら実家と業務提携をしているワイン工場もうまく軌道に乗せ、それなりに利益が上がるようになった。


 ネージュが執務室へ向かったので、子供達はリュシアン付きのメイド達にお願いして私も執務室へと向かった。


 廊下を急ぎ歩いているとふと気がついた。


 ーーまだ……リュシアンのこと……何も話してない……


 一切リュシアンのことを触れてこない夫に私はとても不安に感じた。

 ネージュにとって我が子のことはどうでもいいのかしら?ソフィアは夫に懐いているようで安心して抱っこされていた。


 どんな事情であの子を連れてきたのか説明すらされていない。


『俺の大切な人の子供だ』


 この言葉だけを鵜呑みにするなら……戦地でできた愛人の子供?かな。


 前世で離婚した理由や夫のことはなぜか思い出せない。だけど……なんだか感じるこの変な気持ち……うん、多分浮気だわ。浮気?不倫?何が違うんだろう?


 まぁいいか。


 別に夫を愛しているから今まで我慢して過ごしてきたわけではない。この伯爵家を守ってきたのも私にとっては可愛いリュシアンのため。リュシアンがいずれ伯爵家を継ぐ時に借金で首が回らないなんてことになっていたら困る。だからしっかり領地運営もしているし、新しい事業も拡大してそれなりに成功を収めてきた。


 だけど、突然子供を連れて帰ってきて

『この子を俺たちの子供として育てる』と言ったのには呆れる。子供はおもちゃではないしペットでもない。


『はいそうですか』と簡単に育てられるものでもない。


 この世界では養子縁組は当たり前ではあるし、貴族の男が別の家庭を持っているのなんて驚くことでもない。よくある話。


 愛のない政略結婚をして後継ぎをつくる。できてしまえばあとはお互い別に愛する恋人を作って適当に暮らす。


 ネージュもそう思っているのかもしれない。だけど、全く我が子は無視?


 執務室の前に着くと大きく深呼吸。


「失礼します」


 扉を開けるといつも私が座って執務をしていた場所にネージュは座っていた。


 眉根を寄せてとても怖い顔だった。


 リュシアンのことを話そうと意気込んで部屋に入ったのに思わず怯んだ。


「…………」


 私の方へ視線を向けることもなく言った。


「この書類に書かれている事業はどう言うことだ?説明して欲しい」


「あ、あの、それは……「お前に言ってない」


 家令であるジョンソンは私を庇って説明しようとしたがネージュの冷たい物言いにぐっと黙り込むしかなかった。


「旦那様、まずはご挨拶からさせてください」

 私はまだ挨拶すらしていない。目すら合わせていない。


「長い間お疲れ様でございました」


 私は20歳になりそれなりに大人になったと思う。嫁いできたばかりの頃の初々しさなんてもうとっくにない。そして、ネージュにほのかな恋をした時の気持ちなんてもうとっくの昔に消え去ってどこかへ行ってしまった。


 私達の関係は政略結婚。

 今もこれからも、ここに『愛』なんて必要ない。だけど、可愛い息子を守るためなら悪役になってもいい。


「ああ」

 旦那様はぶっきらぼうに答えた。


「で、何をお聞きになりたいのですか?私のこの4年間についていくらでもお話ししましょう」


 私は意気込んでこれまでの領地運営、新しい事業、実家の侯爵家との事業提携について延々と話した。


 ーーリュシアンのこと話すの忘れてしまった……それにソフィアのことも聞きそびれてしまった。


 でも……子供に興味すらなさそうな人だから……別にいいかな。旦那様が気がついたら話そう。


 私はネージュに対して意地悪なことをつい思ってしまった。


 リュシアンは私が産んでこれまで育ててきた。この人は一度もリュシアンのことを聞いてこない。だったら態々私から話してあげる必要はないわよね。





 



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