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12話

「旦那様、お話しましょう」


 旦那様は椅子に座ったまま仕事の手をとめて私を見た。


「………謝罪に来たのではないのか?」


 少し怒気のある声だった。


「謝罪?」


 何故私が謝らないといけないの?


「いや、もういい。あの子は……どうしてるんだ?」


「リュシアンですか?アンナにお願いしてみてもらっています」


「そうか………」


 何か考え込んでいるのにそれ以上の言葉を発しようとしない。


 私はゴクッと唾を飲み込み、覚悟を決めた。


「旦那様、何か勘違いされていると思いますがリュシアンは貴方の子供です」


 目を大きく見開き驚きを隠そうとしない。

 やっぱり何も伝わっていなかった?

 どうして?


「俺の子供?そんなはずはない」

 少し声が大きくなっていた。


「どうして信用してくださらないのですか?」

 あんなに手紙を書いたのに。


「そんな報告は一度も受けていない。屋敷に帰ってきて何か様子がおかしいと思っていたらまさかの隠し子がいて動揺しないわけがないだろう?」


 貴方は突然子供を私に押し付けたのに?


「報告を?手紙で妊娠したこともリュシアンがどんなふうに育っているかも書きました。なのに貴方は伯爵家の執務についてしか返事はしてこなかったではないですか?」


「手紙は伯爵家の執務の報告だけだった。そこに俺への心配や配慮などなかったし、まるで家令達からの業務連絡をもらっているようだった」


 ムスッとした旦那様は納得いかない顔をしていた。


「リュシアンは貴方との子供です。昨日私と居た男性はレーヴ商会の会長の息子のマシュー………私の従兄のマティアス・エヴァリアです。私の個人的な事業の相談に乗ってもらったりレーヴ商会と共に仕事をしております」


「はっ?言い訳だ。君が男に現を抜かしていることは噂で耳に入っているんだ。俺が戦争に行っている間、屋敷に若い男を引き込んでいたとね」


「それは誰が?」

 なんて事を?私がそんなことを?

 子育てと伯爵家の執務、その上個人的な事業と、忙しくて寝る間も惜しんでこの四年間過ごしてきたのに。


 確かにマシューとは従兄だし気安い会話はするけど、仕事の関係はとてもシビアで親戚だからと言ってそこに甘えは許されなかった。

 セバスチャンやジョンソン、伯爵家の使用人達は見てきたはず。私とマシューに恋愛関係などあり得ないことを、だって真剣に仕事の話をして時には喧嘩腰の会話になってしまうことも度々あった。


 もちろん仕事の話が終われば、幼い頃の思い出話に花が咲くことはあった。


 今回だって旦那様の噂を聞いて心配して、従兄として会いにきてくれた。


 でも、そこに恋愛感情なんてない。


 旦那様は唇を噛み締め強く拳を握りしめていた。そして……


「屋敷に戻ってからいろんな人たちと仕事上、会うことが多い。その度に『奥様の活躍はとても素晴らしい』とたくさんの人に褒めの言葉をいただいた……しかし一方で『公爵子息の愛人らしい』とひそひそと話す言葉が耳に入ってきた」


 えっ?『愛人』?


「友人に直接言われたよ。『奥さんも君が戦争に行っている間寂しかったんだろう』と言われた時の俺の気持ちがわかるか?」


「っ……そ、そんな噂知りません!」


 私の耳にはそんな噂は入ってきていない。だって必死で頑張ってきたもの。脇目も振らずに必死だった。


 もしかしてマシューが私の耳に入らないようにしてくれていたの?


『ルシナは好きな仕事をしてたらいい。あとは俺に任せて』

『しっかりうちの商会を稼がせてくれ』


 いつも笑って言っていたのは……


 


 手紙は……誰かが改竄して旦那様に届けられていた?そのうえ私の悪い噂を戻ってきて耳にして……旦那様は私の言葉を信じていないようだ。

 ほんのひと月の結婚生活しかしていなかったのだから信頼関係はなかったのかもしれない。


 でも……じゃあ、貴方は?


 ソフィアは?







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