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11話

 旦那様は何故か青ざめた顔でこの部屋に来たと思ったら扉をバンッと閉めるとまた出て行った。


 呆然とした私とマシュー。


「な、なんだったの?」

「あれは、勘違いされたんじゃないか?」


「「…………」」


 二人顔を見合わせてなんともいえない顔で無言になった。


 旦那様は何故かリュシアンをわたしが不倫してできた子供だと思い込んでいる。


 いや、それ、貴方でしょう?

 そう思ってはいるけどまだ声に出していない。


 追いかけるのも面倒だしそのまま放っておくことにしてマシューと仕事の打ち合わせを進めた。とりあえず離縁したら自分が立ち上げたお店や事業からの収益で食べていくしかない。

 切実な現実が迫っているので旦那様のことは頭の片隅に追いやりマシューと話し合いを続けた。このまま誤解が解けなければ慰謝料すらもらえないもの。


 



 マシューが帰ってリュシアンとの時間をゆっくりと取ることができた。

 散歩をしたり公園に行って遊んだりしながら久しぶりの二人の時間を過ごした。


「かあさま、きょうはたぁくさんあそんでくれて、ありがとぉ」


「こちらこそリュシアン、母様と遊んでくれてありがとう」


 二人で顔を見合わせて笑った。


 ほんの少しだけ片隅にあった旦那様のことが何度か頭をよぎったけど今はリュシアンとの時間を大事にしたい。





 リュシアンを寝かせて一人の時間、書類の整理をしていると仕事が終わって帰ってきたセバスチャンが申し訳なさそうに私に会いにきた。


 何故か深々と頭を下げるセバスチャン。私の方がお世話になっているのに。


「奥様、本日は申し訳ありませんでした」


「うん?」


「旦那様が奥様に会いにきたでしょう?」


「確かに突然現れてマシューと私のことを疑うような発言をしたけど……」

 なんだか旦那様の方が傷ついた顔をしていたわ。


「マシュー殿のことは説明はしておりませんでした。それは旦那様が奥様のことを自ら知っていって欲しいと思っていたからです。ジョンソンともそう話しておりました」

 セバスチャンもジョンソンも先代である義母と共に伯爵家を支えてきた人で、旦那様のことも息子のように思っている。


「ソフィアのこともあって私と旦那様の会話は上手くできていないわ。執務のこと以外会話がなかったし、私自身も旦那様とは距離はあけているの」


 だって報告のために書いた手紙も伯爵家の報告にだけ返事はくれても、リュシアンのことは全てなかったことにされていたんだもの。その理由が……私の不貞だと思われていたなんて……


 でも、ソフィアはリュシアンと数ヶ月しか歳が変わらない。私が不貞を行ったと彼が思ったのはリュシアンが生まれてからだけど、リュシアンがお腹にいた頃にはもう戦地で旦那様はさっさと愛人を囲っていたと言うことなの?


 長く家をあけた男の人はその場所で新しい女性を恋人にしたりして遊んでいると聞いたことはあるけど、旦那様もそんな男の一人だったのかもしれない。


 戦闘の中、気を鎮めるために女を抱くことはよくあることらしい。


 前世でもそんな話を聞いたことがあるわ。何かの本に載っていたような……


 だからと言って子供を作って妻である私に婚外子を育てろと言うのはどうかと思うけど。


 前世の人類皆平等なんて現代社会に生きた時の考え方はこの世界にはないし通用しない。

 倫理観は曖昧だし、貴族主義の考え方で平民は常に貴族からすれば二の次で、特権階級を支持する少数のすぐれた人だけが文化にかかわる資格があると思い込んでいる。

 当主が一番偉いと威張り散らし気に入らない者には平気で冷遇する世界だ。

 ーーあっ、これは私の実家だけかもしれないけど。


「セバスチャン、明日旦那様にお会いできるかしら?」


「すぐにでも調整させていただきます」


「えっ?ま、待って!」


 そう言って急いで屋敷へと戻っていったセバスチャンを止めようとしたのだけど、とても素早かった。

 




 リュシアンのこと、ソフィアのこと、話さないといけないことはたくさんある。避けてばかりでは前に進まない。


 前世と同じシングルマザーになるかもしれないけど、今世でもしっかり愛情を持って育ててあげたい。最近はリュシアンから笑顔が消えていたし、大人の都合に振り回されるのはもうやめなければ。


 次の日アンナにリュシアンを預けて旦那様に会いに行くことにした。


 執務室には思った通り不機嫌そうに椅子に座る旦那様がいた。


 私が部屋に入ると無言でジロリと睨まれた。


「ハァー」思わず小さなため息をついた。






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