表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/108

砕かれた心、それでも君を想う

 ニューロードの意識が、深淵へと引きずり込まれる。それは、言葉では言い表せない、未知の感覚だった。膨大な情報が、彼の脳内を駆け巡る。意味を理解することはできない。ただ、その奥底に、何か巨大な存在を感じ取る。それは、神にも似た、畏怖すべき存在。彼は、その存在の片鱗に触れ、そして、わずかに交わる。


 それと同時に、ニューロードの身体に異変が起こる。


 これまで経験したことのない、奇妙な感覚。チート能力の拡大解釈によって引き起こした相転移テレポートとは、全く異なる次元のものだった。それは、まるで、彼の存在そのものが変容していくかのような、不思議な感覚だった。


 ニューロードは、本能に従い、指先を遠くに見える山へと向ける。そして、力を解き放つ。


 次の瞬間、彼の指先から、凄まじい衝撃波と閃光が放たれる。それは、太陽フレアを思わせる、圧倒的なエネルギーの奔流だった。彼方からの一撃。形容するならばそう呼ぶべきか。


 強い地響きが轟く。


 遠くの山肌が、まるで削り取られたかのように消え去る。地形が変わり、大地が裂け、草木がなぎ倒される。それは、天変地異を思わせる、終末的な光景だった。

 ニューロードは、自らの指先から放たれた破壊の力に、息を呑む。彼は、己の身に起きた変化に、恐怖と興奮を同時に感じていた。


 それは、新たな力の誕生。新生ニューロード。チート能力のウェイクアップである。


 ニューロードは、神にも等しい力を手に入れたのだ。


 ニューロードの瞳に、戦慄の色が走る。彼のチート能力「オール・オア・ナッシング」は、物理現象をゼロにするか、観測可能な最大値にする力。しかし、今しがた起きた出来事は、その能力の範疇を遥かに超えていた。


 それは、無限のエネルギーの解放。


 指先から放たれた衝撃波は、山肌を削り取り、大地を裂き、世界を塗り替えた。ニューロードは、自らの手を見つめ、震えが止まらなかった。


 「まさか……これは……」


 彼の脳裏に、一つの確信が浮かび上がる。

 先ほど、彼の体内に吸い込まれた鉱石。それは、紛れもなく「シャイニング・トラペゾヘドロン」だったのだ。


 チート能力を付与する力を持つと噂される、謎の鉱石。しかし、ニューロードは知らなかった。既にチート能力を持つ者がそれを手にした時、更なる爆発的な力を得ることができるということを。

 ニューロードの心臓が高鳴る。彼は未知の力に覚醒したのだ。それは彼を新たな高みへと導く、禁断の力。


 「は、は、ハハ!そういうことかフィアレス!なるほどこれは確かに脅威だヴェイン!これなら、これならあの魔王だって!オールマンだって超えられる!」


 ニューロードの笑い声が、空虚に響き渡る。それは、狂喜と興奮に満ちた、獣の咆哮のようだった。

 彼は、自らの手にした力を確信していた。


 ゼロと無限。


 この力があれば、魔王フィアレスにも、最強の異世界転生者オールマンにも、届くことができる。これまで彼の前に立ちはだかってきた、高い壁を乗り越えることができるのだ。

 フィアレスが感じていた脅威。それは、まさにこのことだったのだと、ニューロードは確信した。


 彼はもはやフィアレスの操り人形ではない。自らの力で、運命を切り開くことができるのだ。

 そう、彼のチート能力は「オール・オア・ナッシング」。彼方からの使者、ニューロード。

 その瞳は、野心と欲望に燃えていた。新たな力を手に入れ、世界を支配することから可能な夢を膨らませる。


 しかし、その夢は、あまりにも脆く、儚いものだった。

 彼は、まだ知らなかった。

 その力が、破滅へと導く、禁断の力であることを。


 「今、理解したぜヴェイン?お前は今、このときのためにいたんだ!俺が真の力に覚醒するために用意された、この瞬間のためだけに生まれてきたんだ!」


 ニューロードの言葉は、高慢と嘲笑に満ちていた。彼は、うずくまるヴェインを見下ろし、まるで虫けらを見るような目で言い放つ。その姿は、もはや人間のそれではなく、傲慢な神を思わせる。


 「このときの……ため?ルキナは、ルキナは、お前が殺したんだろう、お前は……お前は……!」


 ヴェインは怒りと悲しみに震えていた。最愛の恋人、ルキナ。彼女の死は、今もなお、ヴェインの心を深く抉る。


 「ルキナ?誰のことだ?俺は七星天だぞ?お前みたいなモブの知り合いなど、殺すどころか知り合うこともありえねぇだろ、自覚しろ」


 だが、それをニューロードは冷酷なまでに突き放す。彼にとって、ヴェインは取るに足らない存在。ルキナの死など、記憶の片隅にも残っていない。


 「忘れたのか!お前がジェネシスビルで謝罪した男のことを!お前が殺した女性の恋人のことを!!」


 叫びは空虚に響き渡るのみ。ニューロードは、ただ「あー」と気だるそうに相槌を打つ。その態度は、ヴェインの怒りを煽るだけだった。

 二人の間には、深い溝が横たわっていた。それは、決して埋まることのない、絶望的な溝だった。


 「いたなぁ、あのときの陰気な男か、なるほど、なるほどな?」


 ニューロードは、しゃがみ込み、ヴェインと視線を合わせる。その口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。それは、残酷な愉悦に浸る、悪魔の笑みだった。


 「あの女を殺したのも、全部この時のためだったってことか。お疲れさん♪」


 ルキナの死さえも、彼は嘲笑う。踏み台であったと、今までのヴェインがしてきたことを、彼女の死さえも、ニューロードの力の覚醒に利用されたという事実に、ヴェインは激しい怒りと憎悪を覚える。


 「お前ぇぇぇーッ!!」


 ヴェインは叫び声を上げながら、全身の痛みを無視して、ニューロードに飛びかかろうとした。しかし、折れた両足は思うように動かず、砕けた腕はニューロードを掴むことすらできない。虚空を掴むその姿は、あまりにも無力で、痛々しかった。

 そんな彼の抵抗を嘲笑うかのように、ニューロードは軽々と彼を突き飛ばす。ヴェインの身体は、地面に叩きつけられる。


 「ガッ……!ガハッ!」


 地面に転がる。むき出しになった骨が地面に突き刺さり、更に激痛を加速させる。その姿が滑稽なのか、ニューロードは指をさして嘲笑った。


 「殺す……!殺してやるニューロード……ッ!」

 「おーこわ♪なら今から、俺がお前にすることは正当防衛だな?」


 ニューロードの指先から、エネルギー波が放たれる。そのエネルギーは、ヴェインの左肩を貫き吹き飛ばす。さらにその余波で、周囲の建造物は崩れ、瓦礫が舞う。

 圧倒的な力だった。勝てるはずもない力量差。

 気力だけで保っていた意識も、途絶えそうだった。最早痛覚もなく、ただ温かな感覚が身を包み、夢見心地だった。


 「ハァ……ハァ……」


 浅い呼吸だけが、彼の生存を証明していた。

 意識の淵で、ヴェインは考える。

 なぜ、父はシャイニング・トラペゾヘドロンなるものを自分に渡したのか。ヴェインはそんなことを考えていた。そんなものがなければ、ニューロードを進化させることなどなかった。

 勇者パーティーの人たちが求めていたのも納得だった。あれだけの力なら、確かに魔王フィアレスにも届きうる。

 でも今は、こんなものなんてなければよかった。

 父は、自分にチート能力に目覚めてほしかったのだろうか。そんなものを託して、何がしたかったのか……。


 いいや、違う。あれはただの貴重な薬草だ。


 幼き頃から、「名もなき村」のみんなは知っている。

 あれはただの薬草だ。父が自分に渡したのも、ただ単に自分の仕事を知ってほしかったからだ。効能は回復と活力を与えるもの。もしかしたらチート能力を若干強くさせるかもしれないが、チート能力を与えたり、別次元に進化させるなんてことは、ないはずだ。妄想だ。ニューロードの妄想に騙されては駄目だ。


 意識の底で、記憶の断片が走馬灯のように駆け巡る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、レビューなどを頂けると作者の私は大変うれしいです。
更新報告用Twitterアカウントです。たまに作品の内容についても呟きます。
https://twitter.com/WHITEMoca_2
過去作品(完結済み)
全てを失った逆行転生者と没落令嬢のやりなおし!~復讐者と守銭奴の偽装婚約~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ