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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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07.面白い令嬢

 レオナードは、同年代の男連中と比べ、女性というものに興味がない。これはおそらく、物心ついてから現在に至るまでの女性遍歴故だろう。


 超優良物件な彼は、幼い頃から令嬢たちに追いかけられていた。中には、犯罪スレスレという手段を行使するご令嬢もいた。強引に迫ってくる肉食獣のような令嬢もいれば、こちらを見ているだけという草食系の令嬢もいたが、こういうケースも油断ならない。見ているだけとはいえ、見張られているのかと思うほど執拗だったりするのだ。怖すぎる。

 それでも女性嫌いにならなかったのは、愛しい妹、アイリーンのおかげとも言えた。

 心を許せる女性は、母親と妹だけ。それが、これまでの彼だった。


 だがあの日、それが覆された。


『マリオン=グレイと申します。よろしくお願いいたします』


 侯爵家の侍女として雇われるため、面接にやって来た女性。

 グレイ男爵夫人とアナベルは、学院時代からの親友同士だったらしい。親友の娘ということで、面接といっても顔合わせという意味合いが強かった。しかし、母はレオナードにもその面接に同席するようにと言ったのだ。

 新たに人を雇い入れる際、その面接に必ず彼は立ち会っていた。彼の人を見る目を頼りにしているのだろう。


 確かに、レオナードは人をよく見ている。多角的に観察し、その人となりを分析、理解し、接する。それはもう、彼にとっては息をするのと変わりない、それぐらい自然なことだった。

 オルブライト侯爵家に面接に来る者は、当たり前だが身元はしっかりしている。社交界に影響力を持つ家からやって来る者もいるほどだ。

 彼らはこの家で働こうと、必死になって自分を良く見せようとする。面接なのだから当然だ。オルブライト家で働くに相応しい能力を持っている、気品も兼ね備えている、そう思われる者だけが面接まで辿り着ける。


 だが、人の本心は覗けない。はっきり言うと、下心なしという人間はとても少ない。ここで働く恩恵にあずかりたい者が大多数にのぼるのだ。

 それはそれで構わない。しかし、それだけを期待して仕事を疎かにされるのは困る。下心があるとしても、しっかり真面目に仕事をする気概があるのかどうか。

 レオナードは、そういったことを見抜くことに長けているのだった。


 だから、マリオンと相対した時、驚いた。

 貴族として、ありえないと思えるほどに無欲だったのである。

 彼女は、この家と繋がりができることで得る恩恵について、全く興味を示さなかった。それどころか、不採用であっても構わないくらいに思っていることがありありとわかった。


 だからといって、不愛想だったわけではない。

 こちらの話をきちんと聞いているし、何かを尋ねても明確な答えが返ってくる。笑顔を絶やさない。

 そして何より──レオナードを目の前にしても、平然としていたのだ。


 彼を見た令嬢のほとんどは、まず見惚れ、頬を染め、上目遣いで見つめてくる。冷静を装う者もいるが、その視線は落ち着かない。

 なのに、マリオンは何の反応も見せなかった。面接官、もしくは上司を見るような視線で受け答えをする。そんな令嬢と出会ったのは初めてだった。


 これだけで、もう合格である。まったくもって問題なし。ぜひ来てもらいたいと思った。

 彼女になら、アイリーンを任せてもいい。いや、任せられる。

 それに、マリオンには普通の令嬢にないものがあった。レオナードだから、それを知ることができた。


 そして、初日を迎える。

 マリオンは、アイリーンと顔を合わせるやいなや、レオナードには見せなかった顔を見せた。頬を染め、アイリーンに熱い視線を送ったのだ。


(ここ? ここなのか!?)


 と、レオナードが心の中で盛大につっこんだのも無理はない。しかし、そこまでアイリーンを気に入ってくれたのなら重畳である。


(面白い令嬢が来てくれた)


 レオナードは、数日後にはマリオンをアイリーンの専属侍女にすることを両親に推挙したのだった。

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