41.星空の下で
「マリオン! 一番端のテーブルのお料理を取り替えて!」
「はい!」
「それが終わったら、デザートの準備!」
「はいーっ」
大規模なパーティーというのは、ある意味戦場だと思う。
オルブライト侯爵邸でもっとも大きな部屋であるバンケットホールには、華々しく着飾った多くの貴族たちが集まり、ダンスや食事、交流などを楽しんでいる。
今夜は、アイリーン様とアーネスト様の婚約披露パーティーだ。
サザランド公爵邸でもすでに行われ、アイリーン様はアーネスト様の婚約者としてお披露目は済んでいたが、オルブライト侯爵家でも改めて行われている。
高位貴族の場合、両家それぞれでお披露目をすることは決して珍しいことではない。今回は特に、公爵家と筆頭侯爵家とが結びつくということもあり、どちらも豪華仕様となるのは当然だった。
「マリオン!」
「デザートの準備、終わりました! こちらの飲み物を運びますね!」
「ありがとう!」
華やかな会場の裏では、使用人たちが必死の形相で走り回っている。猫の手も借りたいほどの忙しさで、もうてんやわんやである。
それでも皆が懸命なのは、ひとえにアイリーン様の晴れ舞台を最高のものにするため。
裏では鬼の形相でも、会場ではひたすら余裕を装い、優雅に振舞わなければならない。なかなかにハードである。
でも、表舞台でキラキラと輝くアイリーン様を見ていると、疲れなど吹き飛んでしまう。アイリーン様の側には常にアーネスト様が寄り添い、二人はとても幸せそうだ。
(あああああ、アイリーン様が微笑んでいる! 女神様! 天使様! 背中に真っ白い羽と後光が見えるわっ! 眩しいっ! 美しすぎる! 尊すぎる! はうぅぅぅ~~~!)
招待客もアイリーン様に見惚れている。これまでとは違った雰囲気に、皆が魅了されている。
これまでは、何があっても動じず冷静、ほぼ変わらない表情。淑女の中の淑女と評価は高いけれど、冷たいなんて陰で揶揄されていた。それは、完璧すぎる故のやっかみもあっただろう。
しかし、今は違う。
(恋は人を変えるって言うけれど、本当だったのね……)
アーネスト様と想いを通わせ、アイリーン様は変わった。肩の力が抜けたというか、警戒心が緩んだというか、そんな感じがするのだ。
アイリーン様自身が強くなったこともあるだろうが、アーネスト様の愛情に包まれて得た安心感みたいなものがあるのかもしれない。
それは、家族から与えられるものとは少し違う。愛情には、様々な形があるのだ。
アーネスト様からの深い愛情は、アイリーン様の少々過剰ともいえる警戒心を解きほぐした。そのことにより、アイリーン様本来の姿が表に現れたのだろう。
「はああああ! ようやく一息つけるわね」
使用人たちが使う休憩室では、皆がぐったりと伸びていた。ひとまず山場を越え、互いに健闘を称えあっている。
デビュタントを含んでも、夜会に参加したことなんて数回ほどしかない。こういった煌びやかな場は得意じゃなくて、避けられるものは避けていたけれど、こんな風に裏方ならいいかも、なんて思ってしまう。
準備も大変で、当日だって目の回る忙しさだけれど、こうして皆と協力して、頑張って、それを称えあって……こういった連帯感や達成感はとても心地いい。
「しばらくは自由行動で大丈夫ですよ。ですが、すぐに戻ってこられるようにしてください」
ダンさんの言葉に、皆が思い思いの場所へ散らばっていく。料理の余りを狙って厨房に行く人や、一旦自分の部屋に戻る人など様々だ。
私はどうしようかなぁ、なんて考えていたら、ダンさんから用事を言いつけられた。
「マリオン、庭園で花をもらってきていただけますか?」
「はい。こちらに持ってくればよろしいですか? それとも会場に……?」
「こちらで」
「はい、かしこまりました」
「休憩なのに、すみませんね」
「いえ! それでは行ってきます」
他の皆と比べ、あまり疲れていないように見えたのかもしれない。というか、そのとおりなのだけれど。
あちこち走り回るのは常日頃からだし、元々騎士を目指していた身で、鍛錬は欠かさない……というほどではないけれど、それなりにはやっている。だから、体力はまだ有り余っているのだ。
(花をもらってくるってことは、すでに用意されているのよね? 庭師さんに用意させているのかしら?)
必要な花は事前に準備されていたはずなのになぁ、なんて思いながら、私は庭園に向かう。




