06.レオナード=オルブライト
レオナード=オルブライトは、オルブライト侯爵家の嫡男で後継者だ。
銀色の髪にエメラルドのように煌めく双眸、性格も穏やかでありつつ、物事を平等に客観的に見る冷静さも併せ持つ。
もちろん学院時代の成績は常にトップ3に君臨し、同級であった第二王子の信頼も厚かった。側近にと熱望されていたが、それ以外の働きで王家に尽くしたい、と辞退した話はあまりにも有名である。
この件で少々変わり者だと貴族たちに認識されてしまった彼だが、それくらいのことでレオナードの求心力がどうこうなることはなかった。
人望もだが、主にご令嬢方からの熱視線。見目麗しく、成績優秀、品行方正、その上筆頭侯爵家の嫡男という超優良物件なのである。釣り書きが山のように届くのは当然で、何度断っても懲りずに送ってくる家も多々あるほど。
というのも、レオナードにはいまだ婚約者がいない。だから、皆が一縷の望みにかけているのだ。
「こちらが南方地区から提出された要望書で、こちらが対策案となっています。確認していただいて問題がなければ、すぐに対応を進めていきます」
「ありがとう、レオナード。お前の案はいつも的確で、間違いがない。念のため目は通すが、進める準備を始めて問題ないだろう」
「承知いたしました」
「レオナード、少し待て。話があるのでそこに座りなさい」
「……はい」
父であるオルブライト侯爵の執務室に書類を届けにきたレオナードは、父に言われるまま執務室のソファに腰掛ける。控えていた執事がそっと部屋を出て行く。飲み物の用意だろうか。
本当はすぐに退散したかったのだが、腰を落ち着けての話となると少々長引くだろう。
レオナードは密かに溜息をつき、目の前の父と視線を合わせた。父、ジョルジュは真剣な眼差しを向けている。
この顔を見れば、話の内容はわかる。レオナードは内心うんざりしながらも、これから始まるお小言に心構えをする。
「失礼いたします」
先ほど部屋を出た執事とともに、メイドが中に入ってくる。彼女は速やかにお茶を準備し、湯気の立ち上るカップをテーブルを置いた後、部屋を出て行った。ワゴンは残されたままなので、追加の必要があれば執事が対応するということだろう。
執事が出て行ってから戻ってくるまで僅か数分。あらかじめこうなることがわかっていたのだろう。レオナードは小さく肩を竦めた。
「レオナード、聡いお前なら、私の言いたいことがすでにわかっているのだろう?」
「もう何度も言われておりますし、父上がそのような顔をされる時はいつも同じですので」
「そうか。なら、返事を聞かせてくれ」
「変わりませんよ。アイリーンの婚約が決まるまで、私は誰とも婚約しません」
「……はぁ」
ジョルジュは大きく息を吐き、項垂れた。
「お前がアイリーンを大切に思うのはわかる。私だってアイリーンを愛している。だから、お前が私たち家族同様にアイリーンを大切にする令嬢でなければ婚約も婚姻も認めない、という気持ちも痛いほどわかるのだ。だが、お前は次期オルブライト侯爵なのだぞ? なのに、いまだに婚約者が決まっていないなど……」
「サザランド公爵家のアーネスト様もそうですよね? 候補はいても、確定していないのですから。あ! それでは私も候補を幾人か選べばよいでしょうか」
「レオナード!」
三大公爵家は王家とも繋がりが深い。だから、候補数人から婚約者を選ぶというのも認められる。だが、筆頭とはいえ侯爵家が同じことをすれば、大なり小なり非難があるだろう。
本来、婚約者を数人キープするなどありえないのだ。令嬢は、キープされている間はどうにも動けない。挙句の果てに、選ばれなかった場合、瑕疵はつかないとはいえよからぬ噂の的になる、なんとも理不尽な立場に立たされるのだから。それが許されるのは、見合う責任と位があるからである。
レオナードとて、そんなことはわかっている。言ってみただけだ。
「第三王子、ユーグ殿下との婚約が成されなかったアイリーンは、これまで以上に自分を出せなくなってしまいました。致し方なかったとはいえ、不憫でなりません。だから、私はアイリーンを守りたい。婚約者候補だった頃から、アイリーンは様々な悪意に晒されてきました。私の相手は、私よりもむしろアイリーンを大切にしてくれる人でないと困るのです。ですが……これまで釣り書きが送られてきたご令嬢の中に、そのような方はいません」
「ぐっ……」
「その上、アイリーンはまた婚約者候補に選ばれてしまった。断りたかったのにそうできなかった父上のお気持ちはよくわかります。私も同じ気持ちなのですから。だからこそ、今は自分のことなど考えられません。まずはアイリーンです。アイリーンの行く末が決まるまで、私も伴侶について考えようとは思いません。そして万が一、今回も選ばれなかったなら……」
「……わかっている。アーネスト様の思惑がどこにあるのか、お前が見定めようとしていることは」
「父上」
「そしてそれを、私は許している」
「はい。……ありがとうございます」
オルブライト侯爵家の家族仲は良い。
父であるジョルジュと母、アナベルは政略結婚とはいえ、婚約者時代から心を通わせてきた。二人は親愛の情で結ばれ、結婚後は子宝にも恵まれ、家を繁栄させてきた。
ジョルジュとアナベルは子どもたちを愛していた。特に、一人娘であるアイリーンへの愛情は深い。それは兄であるレオナードも同じ。レオナードの本性を知る者は、皆口を揃えて「妹馬鹿」と言うくらいなのだから。
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