40.断罪
ダニング侯爵の裁判が始まる。
アーネストによって証拠はまとめ上げられ、それらは全て関係する機関に提出済み。また、精査も完了していた。
証拠を一つ一つ提示する度、彼は反論する。それが無駄なことだとわかっていないところが、呆れを通り越し、哀愁を誘う。
傍聴席に集まった高位貴族の面々が眉を顰めている。その中には、ロイス伯爵の姿もあった。彼の領地の土が、ダニング侯爵の秘密の畑に使用されていたのだ。
「そのような畑はございません! ましてや、そこでロメロの実を栽培していたなど……!」
「だが、収穫された実が証拠として存在する」
「それは、我が領で自生しているものでしょう! 領をご確認いただいてもいい、畑など存在しないのだから!」
「すでに確認済みである。畑はすでになくなっていた」
「なら……!」
「しかし、その場所からその方の領とは異なる成分の土が採取された」
「そ、そんなものは知りません! それに、他の領からも人が訪れるのですから、土が混じるなど珍しくありません!」
「混じる、という程度ではない。辺り一帯から、大量に採取されたのだ」
「……っ」
その土は、ロイス伯爵領のものだった。ロイス伯爵領でも、ロメロの実が自生している。それをダニング侯爵に利用されてしまったわけだが、それほど大量の土が運び出されていたことに、ロイス伯爵は気づいていなかった。
領地の隅々まで人の目は届かない。農作物や鉱物などは盗まれないよう監視を厳しくしても、土に注意を払う者などいない。
「ロメロの実を違法栽培するだけでも大きな罪であるが、それをエルス王国に輸出するなどもってのほか。更には、かの国からスカーヴを輸入するなど、情状酌量の余地はない」
「百歩譲って、違法栽培は認めましょう! ですが、スカーヴの輸入などしておりません! 証拠はあるのでしょうか!」
百歩譲って罪を認めるとは、どういうことか? 譲るもなにもない。これ以上ない証拠があるのだから、いい加減素直に認めればいいものを。
ここにいる全員がそう思っているであろう。だが、ダニング侯爵はみっともなく悪足掻きを続けている。
「その方の娘、シャルロットが所持していた」
「は? まさか……!」
「その罪により、昨日、夫人ともども鉱山奴隷として、辺境での労役が決まった」
「そんなっ……」
裁判は別々に行われる。そして、その結果を各々が知ることはない。故に、ダニング侯爵は妻と娘がすでに裁かれていたことを知らなかった。
「また、その方の息子クラークが、スカーヴを使用していたことがわかっている」
「!」
ここで、ダニング侯爵は顔面蒼白になり、身体をわなわなと震わせた。
傍聴席は、裁判官のとんでもない発言にざわつく。
「使ったって、誰に?」
「スカーヴを使えば奴隷になるのよね? 令息は、誰を奴隷にしたというの?」
「なんということだ! 彼は、王太子殿下の侍従ではないか!」
ダニング侯爵子息であるクラーク=ダニングは、王太子ランドルフの侍従である。
彼は、それなりに優秀ではあるが、あまり目立たないタイプの人間だ。しかし、ランドルフの侍従という立場から得られる情報を、逐一父親に報告していた。
立派な守秘義務違反である。しかし、彼の罪はそれだけではなかった。
「クラークが奴隷にしていたのは、侍従仲間である。ランドルフ殿下の他の侍従、そして、第三王子ユーグ殿下の侍従一名が該当した」
「そ、それは……」
先ほどまでの威勢はどこへやら、声を張りあげる気力ももはやないらしい。
ここまで罪を暴かれておきながら、どうしてこれがバレていないと思ったのか。




