38-3.掃討(3)
本日より、完結まで2回更新となります!
突然、目の前が真っ暗になる。身体が動かない。息が苦しい。
何とかもがいて顔を上げると、レオナード様が切なげな瞳で私を見つめていた。
「レオナード……様……」
「おかしな気配がして振り返ってみると、マリオンが賊と対峙していた。それを目撃した時の俺の気持ちがわかるかい? 他にも数人いたようだし、マリオン一人に全員でかかってこられたらと……心臓が止まる思いだった」
レオナード様の腕が強まる。私は、レオナード様に抱きしめられていた。
どうしたらいいかわからず、とりあえず身体を離そうとするけれど、レオナード様の力には敵わない。少しでも動こうとすると、レオナード様は決して離さないとばかりに、更に引き寄せるのだ。
(こ、これはいったい何事なの!? 私……レオナード様に抱きしめられている? レオナード様がこ……こんなに近い……っ!)
こうなると、顔を上げたことを死ぬほど後悔した。少しくらい苦しくてもそのままでいるのだった。……だって、レオナード様の吐息が頬に触れるほどのこの距離に、私の心臓がもちそうにない!
「も……申し訳ございませんでした。でもっ……あのままじゃ隊が襲われて、尾行に気づかれてしまうと思って!」
「わかっている……わかっているんだ。マリオンのおかげで難を逃れた。だが……マリオン、もうこんなことはなしだ。今度やったら、邸に閉じ込める」
「え……」
「俺は本気だよ」
「(ヒィィィ!)かっ……かしこまりました」
レオナード様の迫力が怖い。とんでもなく怖い。これは、決して冗談ではない。この顔は必ずやる。絶対にやる。私はビクビクしながら、何度も首を縦に振った。
そんな私を見て、レオナード様の表情にようやくいつもの穏やかさが戻り、私は無事(?)解放された。
「さて……取り逃がした奴らが失敗を報告するだろうね」
「あっ! ど、どうしましょう……」
うっかりしていた。失敗したとわかれば、また何か仕掛けてくるかもしれないし、計画が延期されるかもしれない。
すると、レオナード様はおもむろに口笛を吹き、ポケットから小さな筒を取り出した。
「それは……?」
「他の隊に状況を知らせる」
「ピューイ!」
鳥の鳴き声が聞こえて上を見上げると、木の上に大きな鷹がとまっていた。レオナード様が手を上げると、鷹はレオナード様めがけて飛んでくる。
「ライン、これを本隊と別動隊に届けるんだ」
「ピュイ!」
筒をラインという鷹の足に括り付けると、鷹はすぐさま飛び立っていった。
緊急や秘密裡に連絡を取りあう際、こういった方法があることは知っていたけれど、実際に目にしたことはなかった。
ラインは、空の上からこの隊を追っていたのだろう。そして、口笛による招集に応じ、大切な仕事を引き受け、再び飛んでいった。
「ラインは王宮で管理されている伝達鳥だ。経験も長いし、間違いがない。それに速い」
「すごいですね……」
ステラといい、ラインといい、なんて頭がいいのだろう。
「で……ここから帰れと言っても君は聞かないんだろうね、マリオン」
「はい」
当然である。
レオナード様は大きく溜息をつき、苦笑いを浮かべながら首肯した。納得したというより、諦めたのだろう。
「わかった。……行こう、マリオン」
「はい!」
私はそのまま駆けていこうとしたのだけれど、強引にレオナード様の馬に乗せられる。
(こんなことなら、ステラを帰すんじゃなかったなぁ)
隊に合流するなら、馬に乗っていては隠密が使えず、すぐにバレてしまう。だから帰したのだが、こうなるなら待機してもらっていればよかった。
そう思えど、隊はもう結構先に進んでしまっていることもあり、追いつくには自分の足より馬の足。最後までついて行くつもりならやむを得ない。
「申し訳ございません」
「いいよ。俺にとっては役得だしね」
「え?」
レオナード様を見上げようとした瞬間、馬は走り出した。そして、ぐんぐんスピードを上げていく。
(こ、これは……とんでもないスピード!)
ものすごい風圧に、油断すると飛ばされそうになる。でも、そうはならない。何故なら、レオナード様が後ろから私を抱きかかえているから。
(こんなすごいスピードで走らせているのに、手綱を片手持ちって!)
いろいろと規格外のレオナード様に私は大混乱していたが、当の本人は涼しい顔のまま前方だけを見つめていた。




