38-2.掃討(2)
遥か彼方だが、一隊の姿を捉えた。場所的にも、あれがレオナード様たちの一行だ。私はステラの足を止め、地面に降り立った。
「ステラ、あなたのおかげで思ったより早く追いつけたわ。ありがとう。ここからお邸に帰れる?」
「ブルッ」
頷くような仕草を見せるステラに笑顔を向け、私は彼女の身体を撫で、最後に軽くトンと叩いた。すると、ステラは踵を返し、再び駆けていく。
「本当に賢い……」
あれは、絶対人の言葉がわかっている。嘘だとは思っていないけれど、彼女が育った地が恋しくてそこへ戻り、アイリーン様が悲しんでいることを聞いて再びオルブライト家に戻った、これは紛れもなく真実なのだろう。
私はステラを見送った後、隊を追いかけて、今度は自分の足で駆ける。
(まだ大丈夫だとは思うけれど、一応スキルを発動しておいた方が安全ね)
念のため、隠密スキルを発動して彼らを追いかけていく。その最中、私はそれに気づいた。
(誰……? 一、二、三……ううん、もっといる。彼らはレオナード様たちを狙っている……?)
ダニング侯爵たちを尾行する隊を、つかず離れずの位置から監視している者たちがいる。ダニング侯爵たちをマークする動きが察知されている……もしくは、情報が洩れているのだ。
(このままじゃ、不意を突かれる。何とかしなければ!)
一人二人なら、私が倒すことも可能だろう。しかし、さすがにそれ以上の人数を相手にするのは至難の業だ。
私は追いかけるスピードを上げ、監視者たちを追い越し、隊に近づいた。
「! お前は……っ」
スピードを上げたせいか、気配を悟られたらしい。声をあげた人物を確認すると、索敵スキル持ちであろう彼だった。
(うわー! また厄介なのに遭遇しちゃったわ!)
動きを察知されたら、隠密スキルも役には立たない。他の人間には気づかれなくても、彼にだけは私の姿が見える。
(仕方がない。応戦するしかなさそうね)
私は踵を返し、彼に向き直る。彼には通用しないが、他の人間に姿を見せるのは得策じゃない。隠密スキルはそのままに、戦闘態勢に入った。
勢いをつけ、彼の懐に入ろうとする。が、彼はそれを避けて私の背後に回る。その前に拳を繰り出し胴に当てるも、たいしたダメージは与えられない。
「チッ。女のくせに、いいパンチだな。だが……っ」
私を羽交い絞めしようとした彼が、背後から襲いかかってくる。それを避けようと、身を屈めたその時だった。
「ぐはっ!」
彼が地面に倒れゆく様を横目で見、私は驚きの眼で振り返った。
「汚い手でマリオンに触れるな! ……忌々しい」
サー……。自分の顔色が悪くなっていくのが、ありありとわかる。
エメラルドのような翠の瞳が冴え冴えとして、氷のように冷たい。これ以上なく整った容貌は、静かな怒りを湛えていた。
(ヒィッ! レオナード様に見つかった! で、とんでもなく怒っていらっしゃる!)
その瞳は、私を真っ直ぐに捉える。
(な、なんで!? 私、隠密スキルを……って、ああああ! レオナード様には効かないんだった!)
「レオナード様! どうかされましたか? うわ! この者は……」
異変を察知してこちらにやって来た騎士が、倒れて気を失っている彼を見て驚いている。
「問題ない。待ち伏せして我らを邪魔するつもりだったようだが、このとおり倒した。このまま追尾を続けてくれ」
「はっ」
騎士が持ち場に戻っていく。
待ち伏せしていた他の人間は、どうやら退散したらしい。一番のやり手だったろう彼がやられてしまっては、どうもこうもない。この隊を襲撃する計画は失敗だ。
レオナード様は彼を縄で縛った後、もう一度私を見た。
「さて……マリオン」
「……」
「俺には、普通に見えているからね?」
「……はい」
私はスキルを解いて、姿を現す。改めて見るレオナード様は、やはり怒っている。
「もしかしたら、何かやらかすかもしれないとは思っていたけど」
「あのっ……」
「よりにもよって、一人であんな手練れに立ち向かうとか! 俺が気づかなかったらどうするつもりだったんだ! こんな下衆に羽交い絞めにされて、動きを完全に封じられ、あんなことやこんな……っ、チッ!」
「レ、レオナード様?」
(レオナード様が舌打ちを!?)
「あ、あの、落ち着いてください、レオナード様!」
「これが落ち着いていられようか! ああああ、もう!」
「!」
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