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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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37-3.不穏なお茶会(3)

(アイリーン様が! 私を、私を庇ってくださって……!)


「この者は私の専属侍女です。手を上げることは許しません」

「ですがっ……」

「マリオン、理由を説明しなさい」


 アイリーン様の言葉に頷き、私は話し始める。


「彼女たちは、アイリーン様のお茶に粉を混入しておりました。アイリーン様には見えないよう、一人がお茶を淹れている間にもう一人は壁になっていたのです」

「そ、そんなことして……」

「でたらめよ!」


 また痛い思いをしたいの? というように私が二人を睨むと、彼女たちは揃って下を向く。


「そこのカップの中をお調べください」

「は……はい」


 護衛がアイリーン様のカップを覗く。すると、彼は驚いたようにバッと顔を上げた。


「確かに、溶けきっていない粉のようなものが見えます! 注意して見なければわからないほどですが」

「まぁ! 学術院の侍女ともあろう者たちが、このようなことを? 恐ろしいこと……」


 護衛の言葉に反応し、シャルロット様がわざとらしく声をあげる。そんなシャルロット様の裏切りに、二人の侍女は顔面蒼白になった。


「シャルロット様!」

「ダニング侯爵令嬢!」

「汚らわしい! 早くこの者たちを捕らえ、牢に入れなさい!」


 侍女二人は、しきりにシャルロット様の名を叫び続ける。しかし、シャルロット様がそれに応えることはない。


 この二人は、きっとシャルロット様に何か弱みを握られていて無理やり言うことを聞かされているのだ。それは、自分一人だけの問題ではない、家族を巻き込むものだろう。

 だから、助けてくれとは言えても、あなたに命令されたとは言えない。彼女たちの様子を見て、それが痛いほどよくわかった。


(なんて卑劣な……! 絶対に逃がさないから!)


 私は打ちひしがれる侍女たちを解放し、シャルロット様に向き直る。


「彼女たちは、あなたの命令でそうしたのですよね? ダニング侯爵令嬢」

「……アイリーン様、このような無礼な者を専属侍女にするなんて、オルブライト侯爵家は人材不足なのかしら?」


 シャルロット様の嫌味に、アイリーン様は毅然として答えた。


「いいえ。我が家の使用人は皆……特に、私の専属侍女は優秀ですのよ」


(くぅぅぅぅ! アイリーン様に褒められたあああ! じゃなくて、信頼されてるぅ~~~っ!)


 顔がにやけてくるのをなんとか堪え、私はシャルロット様に詰め寄る。


「彼女たちがお茶を淹れている間、あなたはそちらを気にしていましたね。時折、視線を向けていました。なら、見えたはずですよね? なのに、どうして何も言わなかったのですか?」

「何を根拠に……! 私は何も見ていないわ。見ていれば、咎めるに決まっているでしょう?」

「いいえ、見ていました。あなたは確認していたのです。侍女たちがアイリーン様のカップにちゃんと粉を入れるかどうか」

「だから! どうしてあなたにそれがわかるというの? 目撃したとでもいうの? そんなわけないわよね。だって、ここにいたのは……」


 シャルロット様がハッとして、私をマジマジと見つめる。


「待って……。あなた、急に姿を現したわよね?」

「えぇ。実は私、スキルを持っておりまして」

「!」


 皆の息を呑む音が聞こえた。

 それはまぁ、驚くだろう。スキル持ちなど滅多にお目にかかれない。そんな人間が目の前にいるのだから。


「な、な、な……」

「スキルを使い、私は最初からこの部屋におりました。そして、ずっとあなたたちの様子を見ていたのです」


 私がそう言うと、突然ドアが開き、二人の屈強な男が入ってきた。


「お、お前たちっ! この者たちを捕らえなさい!」


(チッ! 味方を控えさせていたのね!)


 私は襲い来る男たちの間をすり抜け、アイリーン様の手を取る。


「アイリーン様、こちらです! そして、しばしご辛抱を!」

「マリオン!」


 私はワゴンに乗っていたポットを手に取り、窓に向かって思い切り投げる。

 窓ガラスが派手に割れ、外気が部屋の中に入ってくる。しかし、入ってきたのはそれだけではない。


「ぐあっ!」

「ぐふっ!」


 一瞬にして、男たちが床に倒れる。制圧したのは、諜報部員のラックさんだ。振り返ると、ジョンさんが侍女二人とシャルロット様の動きを封じていた。ポットで窓ガラスを割るなんて強引な手段をとった私の意図を、正確に汲み取ってくれるなんてさすがである。

 学術院の護衛だけが、ポカンとした顔で突っ立っていた。


「マリオンさん、私は彼女たちとその野郎どもを、王宮に引き渡してきます」

「お願いします、ジョンさん。ラックさんは……」

「私はお二人を護衛します。すぐに邸に戻りましょう」


 ジョンさんは、全く状況のわかっていない気の毒な護衛に手伝ってもらいながら、王宮に連行する者たちをまとめて馬車に放り込む。シャルロット様は、何事かと集まってきた野次馬たちに助けを求めていたが、この物々しい雰囲気に手を出せる者などいない。

 彼らの視線を搔い潜るようにして、オルブライト侯爵家の馬車にアイリーン様と私が乗り込む。すぐさま、ラックさんが馬車を動かすよう御者に指示を出した。

 ジョンさん一行が乗る馬車の方を確認すると、彼らはどこからか現れた騎士たちを伴って王宮へと向かうところだった。


「王宮騎士団も待機していたんですね」

「えぇ、令嬢の方もマークしておりましたので。それでは、私はこれで」


 そう言って、ラックさんは姿を消す。彼は、姿を隠して護衛にあたるようだ。


「マリオン……私、もう何が何だか……」

「そうですよね。詳しくは、全てが終わってからご説明いたしますので」

「そうね。お願い」


 馬車が動き出すと、アイリーン様は背にもたれかかる。


「さすがに……疲れてしまったわ」

「ここには私しかおりません。どうぞゆっくりとおやすみください」

「えぇ、そうさせてもらうわね」


 そう言って、アイリーン様が静かに目を閉じた。


(ひゃあああ! アイリーン様の寝顔! って! 違うでしょ、マリオン!)


 うっかり大はしゃぎしそうになった気持ちを引き締める。

 化粧で誤魔化しているけれど、アイリーン様の目の下にはうっすらとクマができている。昨夜、いや、今日の計画が決まった時からずっと、あまりよく眠れていないのだろう。


(こんな不安な日々も今日で終わりです。だから、もう少しだけご辛抱を……)


 私は流れる景色を見つめながら、強く拳を握りしめるのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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