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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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37.不穏なお茶会

 校内には食堂の他に、主に高位貴族が使用する「サロン」という場所が存在する。

 校舎の奥、日当たりのよい一角がそれで、窓からの景色もいい。食堂と同じ一階にあるので、ランチや放課後のちょっとしたお茶会などによく利用されている。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 一番奥の、特に上等なサロンに案内され中に入ると、そこには侍女が二人いて、お茶の準備を進めていた。ドアの外には護衛が一人待機している。侍女も護衛も、学術院で雇われている者たちだ。


 アイリーン様は勧められた席に座り、シャルロット様と向かい合う。余裕のあるシャルロット様とは違い、アイリーン様の表情はいつも以上に硬い。

 私は隠密スキルを発動したまま、アイリーン様のすぐ側で全員の動きを警戒する。


(たった二人のお茶会なのに、侍女を二人も用意するなんて。一人で十分だと思うけれど……)


 人数が多いならわからなくもないが、二人なら侍女一人で対応は可能なはず。一人が新人で、もう一人が監督のためにつくというならわかるけれど、そういった雰囲気でもない。彼女たちの動きには迷いがなく、菓子やお茶が速やかに用意されていく。

 ポットから注ぎ入れられる明るい赤褐色の液体をぼんやり眺めていると、ふとそれが遮られた。


(ん……?)


 紅茶を淹れている侍女とは別の侍女が、おもむろに場所を移動したのだ。


(なんで移動したの? 必要なくない?)


 首を傾げる私をよそに、彼女たちはそのまま作業を続け、アイリーン様とシャルロット様の前にお菓子とお茶が用意された。一礼し、侍女らは部屋の隅に移動する。


「さぁ、召し上がって」

「あの……」


 アイリーン様が躊躇しながらも、口火を切った。


「先に、お話を聞かせていただいてよろしいでしょうか」

「でも、せっかく用意したのだから……」

「大変失礼なのは承知しております。ですが、私もすぐに家に戻らなくてはならない事情がございます。……お願いいたします」


 アイリーン様が小さく頭を下げる。

 今日は、私たちにとって大切な日だ。こんなところでのんびり人の相談に乗っている場合ではない。できるだけ早く戻り、アーネスト様たちの無事を祈り、朗報を待ちたいのだから。

 シャルロット様は一瞬ムッとした顔をするが、すぐににこやかに微笑み、アイリーン様の言葉に頷いた。


「それでは、単刀直入に申し上げますわね」

「はい」


 次の瞬間、シャルロット様の目が鋭くなり、アイリーン様を射抜くように睨みつけた。


「アーネスト様の婚約者候補を、降りてくださらないかしら?」

「え……」


(うぉっとおおお! いきなり喧嘩売ってくる!?)


 アイリーン様が大きく目を見開き、硬直している。

 そんなアイリーン様に向かって、シャルロット様は更に言葉の刃をふるった。


「ご存じかと思うけれど、アーネスト様は常に私を優先してくださり、今では領にも足を運んでくださるほどなの。アーネスト様のお気持ちは私にあるわ。彼の婚約者になるのは私。だから、アイリーン様にはさっさと候補を降りていただきたいのよ」

「ですが……」


 アイリーン様が真っ青になっている。膝の上に置かれた手が小刻みに震えており、それが痛々しくてたまらない。


(アイリーン様、ここで怯んではいけません! シャルロット様なんかに負けないで!)


 私は心の中で懸命に応援するけれど、アイリーン様は唇を強く噛みしめ黙っている。シャルロット様は優越感に浸っているのか、その表情は恍惚としていた。


「アーネスト様が私を婚約者として指名しないのは、あなたが筆頭侯爵家の力を使って縋りついているからでしょう? 公爵家とはいえ、筆頭侯爵家を無碍にはできませんもの。……あぁ、なんてお可哀そうなアーネスト様! 好きでもない女に纏わりつかれるのは、さぞやご不快なことでしょう!」


(なに言っとんじゃあ、ごるらああああっ! その言葉、そっくりそのまま返してやるっ!)


 頭の中で、何かがブチリと切れる音がした。

 たまらず口を出そうしたその刹那、凛とした声が響く。


「それは、アーネスト様の本心なのでしょうか? アーネスト様がそんなことを本当におっしゃったのでしょうか? おそらく、そうではないでしょう。それなら、私は候補を降りるつもりはありません」

「は?」


 シャルロット様が令嬢らしからぬ声をあげ、私は呆気にとられた。


(うわぁ、お嬢様でもこんな声出すんだ……。というか、よほどびっくりしたんだろうなぁ……)


 素っ頓狂な声をあげたシャルロット様の顔が、段々険しくなっていく。でも、アイリーン様は元の冷静さを取り戻し、シャルロット様を真っ直ぐに見つめていた。


(アイリーン様、素敵! かっこいいっ!)


 私は脳内で狂喜乱舞する。てんやわんやのお祭り騒ぎだ。


「アーネスト様がお優しいからですわっ! アーネスト様が選ぶのは私です! もう決まっているのです!」

「でしたら、わざわざ私に降りろなどと言わずともよいのでは?」


(おおおお! アイリーン様、負けてない! むしろやり返したっ!)


 シャルロット様は恐ろしい形相でアイリーン様を睨みつけるけれど、アイリーン様は眉一つ動かさない。


 たぶん、アイリーン様は怒っている。私もブチ切れたあの言葉に、アイリーン様もブチ切れたのだ。それによって、いつもの冷静さを取り戻した。

 敵を追い詰めたつもりが、逆に追い詰められることになってしまった。これは、シャルロット様からすれば予想外だろう。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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