04.スキル発動
アイリーン様のお話を聞いて、私はすぐに他の婚約者候補について情報を集めることにした。まずは敵の情報を正しく知ることが、戦に勝利するためには必須なのである。
もしもアイリーン様がこのお話に後ろ向きであれば、私はそのように動くのだけれど、どうやらそうではなさそうだ。
貴族の婚姻は家と家との契約で、互いの家を繁栄させていくため。だから、旦那様がアイリーン様とサザランド公爵令息様との婚姻を命じるなら、アイリーン様が拒否しようとそれはどうにもならない。
でも、私はアイリーン様の専属侍女なので、誰が何を言おうとアイリーン様の味方! だから、アイリーン様が嫌だと言うなら、どんなことをしても阻止してみせましょう! ふっふっふっ。
しかし、アイリーン様は戸惑いながらも、この話に前向きなのである。お相手が年齢の近いダニー様ではなく、少々年の離れたアーネスト様にもかかわらず。アーネスト様は公爵家の嫡男でもあるし、見目も人柄も抜群にいいという噂なので、アイリーン様もよしとしているのかもしれない。
というわけで、私はアーネスト様のお人柄を改めて確認するのはもちろんのこと、他の婚約者候補についても調査することにしたのだ。
そこそこ腕が立つとはいっても一介の侍女にそのようなことができるのか、と普通は思うだろう。……実は、できるのだ。
一日の仕事が終わり、使用人たちも寝静まる深夜。
私は、同室のエルシーさんを起こさないように注意しながら部屋を抜け出す。エルシーさんが眠ったのを確認してから、動きやすい服装にすでに着替えていたので、準備は万端。
「さて、スキルを発動しますか」
辺りに人の気配がないことを再度確認し、私はスキルを発動させた。
スキルとは、神様から与えられた特別なギフトのこと。これは誰にでも与えられるわけではなく、ごく一部の人間のみ授かれるものとされている。
ちなみに、身分は全く関係ない。そしてその種類も、有益なものからよくわからないものまで様々だ。人の能力や物の価値などを鑑定できる能力もあれば、どんな道でも普通に歩ける、なんていうものもある。
どんな悪路でも普通に歩けるなんて便利だとは思うけれど、平民ならまだしも、貴族ではその機会は少ないだろう。高位貴族なら、そんな機会などほぼやってこない。つまり、あっても意味はない。
スキルは、持つ人がその能力を必要とするかは関係ないのだ。そういったことから「神の気まぐれ」とも言われている。
そんなスキルだけれど、授かった人間は、本来国に届けることになっている。
ただ、数代前の王がそれを悪用し、スキル持ちの人間を無理やり酷使し、それがバレて大顰蹙を買ったことがあったそうだ。それ以来、王家は信用を無くし、スキルを申告する人が減ってしまった。またあんな風に能力を搾取されてはかなわないと、いまやスキル持ちの約八割が秘匿する事態となってしまったのである。
かくいう私も、その中の一人だ。
現王家は良き為政者として評価されているし、私の実家であるグレイ家は、一家総出で王家に仕えているようなもの。長兄は近衛で、次兄も王宮騎士、おまけに父は、元・王宮騎士団長で現在は後進を育てている立場。バリバリである。
にもかかわらず秘匿しているのは、念には念を、というやつである。私に甘い家族が、万が一にでも私が過去のようなことに巻き込まれないため、内緒にしておくことを決めたのだ。その代わり、この能力を悪用することは許さないと、両親にはよくよく言い聞かされて育ってきた。
閑話休題。
私のスキルは「隠密」である。
その名のとおり、隠れる、紛れるに特化した能力で、これを最大限に生かせるのは、主に情報収集。
私は武術にも長けているから、もし申告すれば、表立ってはもちろんのこと、裏の情報を集めたり、人知れず犯罪者を始末する「影」と呼ばれる組織に入れられる可能性もあった。そういった理由からも、王家には知られないようにしているのだけれど。
でも、ひとまずそれは置いておいて……
さて! 国内での様々な情報が行き交う場所、紳士倶楽部へ、いざ行かん!
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