30.告白
(レオナード様が、スキル持ち……?)
「レオナード様、私はこれにて失礼いたします」
「ご苦労だったね。引き続きよろしく頼む」
「はっ」
私が呆然としている間に、諜報部員さんが応接を出て行った。その後ろ姿をぼんやり見送っていると、レオナード様が私に声をかける。
「マリオン」
「……」
「マリオン、座って」
「あっ……はい」
私が向かいのソファに腰掛けると、レオナード様は眉尻を下げながら言った。
「俺がスキル持ちだということは、家族とダン、一部の諜報部員しか知らない。いや、届けは出しているから、国も知っているね」
「届けているのですか?」
「うん。筆頭侯爵家として、叛意がないことを示すためにね。届けていない貴族もいるだろうけど、一応高位貴族は届け出ることが望ましいから」
「そう……なのですね」
ほんの一部の人しか知らない、レオナード様のスキル。そんな大切なことを、私に明かしてよかったのだろうか。
もしかして、いやしなくても、私が強硬手段に出ようとしていたから言わざるを得なかったのか。
(でも、レオナード様なら本気になれば、私を止めることなど造作もないはずだわ。わざわざスキルのことを明かす必要はない……)
「マリオンが何を考えているのか、大体想像はつくけど。俺は、マリオンになら話してもいいと思っていたよ。まぁ……こんなタイミングで話すことになろうとは思わなかったけどね」
「申し訳……」
「謝らなくていい。謝っても、マリオンの意思は変わらないのだろう?」
「……」
私は唇を噛みしめ、小さく頷く。
「慢心しているわけじゃないね?」
「失敗すれば、私だけの問題では済まないこともわかっています。慎重に進めるつもりです」
「はぁ……。話を聞かれたのは失敗だったなぁ」
瞳を閉じ、レオナード様が嘆息する。
レオナード様は失敗だったと言うが、私は聞けてよかった。
アイリーン様とアーネスト様が早く結ばれるよう、応援したい、協力したい。アイリーン様をあらゆる悪意から守りたい。
そう思ってはいるけれど、現実的に私がやれることなどたかが知れていて、いつももどかしさを感じていた。
私がもし普通の侍女であれば、それでも仕方なかった。でも、実際はそうじゃない。
私には「隠密」というスキルがあって、元王宮騎士団長の父や、第三王子近衛の長兄、現役の王宮騎士である次兄に鍛えてもらった武力があるのだ。それを、今使わずして、いつ使うのか。
「レオナード様の「本質」というスキルは、私の「隠密」が通用しないのですね」
「そう。俺は、スキルを発動したマリオンがはっきりと認識できる」
「……私がスキル持ちだと、最初からわかっていたのですか?」
「いや。俺の「本質」スキルは、相手がスキルを発動して、初めて認識できるものなんだ」
レオナード様は、自分の持つ「本質」スキルについて話し始めた。
それによると、「本質」スキルでは、人や物の本質がわかる。大雑把に言うと、善悪や真贋といったものらしい。
人だと、本性などがそれにあたる。愛情深いとか、正義感が強いとか、欲望に弱いとか、身分主義だとか。その人間の思考の大部分を占めているものが見えるのだそうだ。だから、使用人の面接や取引相手の選別などには、レオナード様が関わることが多いとのこと。
(オルブライト家の使用人が信頼に値する人たちばかりなのは、こういうわけだったのね……)
物に対してだと、真贋。それが本物であるか偽物であるか。鑑定に近いけれど、それが何なのかまではわからないらしい。
「そこまでできれば、マリオンの拾った赤い実を見た瞬間に、ロメロだとわかったものを。物質に対しては、あまり役には立たないんだよね」
そうは言うけれど、真贋がわかるのは大きいと思う。
「自生しているロメロがどこのものかがわかるというのは、鑑定スキルを持っている人が?」
「うん。ただの成分分析じゃ、そこまではわからない。アーネスト様も「詳細に記録されている」と言っていただろう? 鑑定スキルを通すと、それ以上の情報がわかるんだよ。ただし、鑑定スキルにも階級があるんだけどね」
「階級?」
「マリオンの拾ったロメロの実と、畑で栽培されているロメロの実。同じ区域のものかどうかの鑑定は、鑑定スキルの中でも上級に属するものなんだよ。自生しているロメロの実の管理に際しては、その鑑定者が深く関わっている」
「……あの、ここまで聞いておいてなんですが、これって……」
「トップシークレット。絶対に内緒だよ」
(ヒイィッ! 内緒だよ、じゃないですっ!)
操り人形のように何度も首を上下に振る私を見て、レオナード様がようやくいつもの笑顔になった。
「あの! 相手がスキルを発動することで、それが認識できるというのは?」
これ以上とんでもない秘密を聞くのが怖くて、慌てて話を変える。
レオナード様は、「これもね、便利なのかそうでないのかよくわからないけど」と前置き、説明してくれた。
「その人の本質を見極めるという点で、スキルを持ちかどうか、どんなスキルを持っているのかもわかってよさそうなものだけど、それは何故かできない。スキルは万能じゃないからね……」
それについては同感だ。
私の隠密スキルだって、完璧じゃない。例えば、声を出したり大きな音を立ててしまえば、たちまちバレてしまうのだから。どうせなら、全部隠してくれたらいいのに。
「でも、スキルが発動されている状態の人間を見ると、それがわかるんだ。偶然マリオンがスキルを使っているのを目撃して、マリオンがスキル持ち、それが隠密であると知った。こんなに身近にスキル持ちがいるなんて、と驚いたよ。そして、面白いスキルだとも思った」
「どうしてレオナード様にスキル持ちだってバレているのか謎だったんですが、これですっきりしました」
「あはははは、ごめんね」
少しの間、和やかに二人して笑っていると、突然レオナード様が沈黙し、ぶつぶつと何やら小声で呟き始めた。
「レオナード様……?」
「……やはり……だが……あの件はダンに……」
私は、オロオロしながらレオナード様を見守る。何かを真剣に考え、あれこれ采配しているように見えた。
「よし」
「レオナード様……」
レオナード様は私を真っ直ぐに見つめ、こう言った。
「俺も行く」
「え? 行くって……どこへ?」
「決まっている。ダニング領の畑だ。ロメロの実を採取しに行く」
(ええええええーーーーーっ!?)
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