29.マリオンの決意
「聞いて……たよね?」
「……はい」
私はこれ以上ないほど身体を小さくして、何度も何度も頭を下げる。
(意図しなかったとはいえ、これじゃ盗み聞きだもの……。レオナード様がお怒りになるのも無理はないわ。……私、クビかもしれない。ううん、きっとそうよね……)
お二人が来た時点で、いることを申告すればよかったのだ。でも、条件反射のように隠れてしまった。別に悪いことをしているわけでもないのに。
仕事をする上で指示されたことや、気づいたこと、それらをメモするために、私はいつも紙とペンを持ち歩いている。
寝る前にそれを確認するのだけれど、メモがないことに気づき、部屋のあちこちを探し回った。でも、見つからなかった。それで、自分の行動を思い返してみて、ふと思い出したのだ。
(応接に飾られた新しい絵について、奥様からいろいろお話を聞いて、それをメモしていたんだったわ! その後にすぐ用事を頼まれて、それが急ぎだったものだから慌てていて……もしかしたら、応接室で落としたのかも!)
そこで、ここへこっそり探しに来た。
明かりを点ければよかったのだけれど、場所の見当はついていたし、拾ってすぐに戻るつもりだったからあえて点けなかった。だから、お二人は誰もいないと思ったのだろう。
明かりが点いてお二人が話し始めた時にも、出て行くタイミングではあった。けれど、なんとなく出て行きづらくてまごまごしているうちに、とんでもない話になってしまった。それで、ますます出て行けなくなってしまったのだ。
それに、話を聞いていくうちに、どうしてもやりたいことができてしまったから──。
「レオナード様、お叱りは受けます。罰だって受けます。クビだというなら……悲しいけれど、受け入れます。ですが、その前にどうしてもやりたいことがあるのです!」
大きく一歩前に踏み出した私に、レオナード様が若干仰け反る。初めて顔を合わせる諜報部員さんも、何を言い出すんだこいつは? というような顔で私を見ている。
私は、お二人の話を全て聞いてしまった。本来なら、それは許されないこと。それでも、聞いてしまったからには後には引けない。だって、私にしかできないことがあるんだもの!
「レオナード様、私がダニング侯爵領の秘密の畑に潜入し、実を取ってきます」
レオナード様と諜報部員さんが大きく目を見開く。でも、いち早く我に返ったレオナード様が強く反対した。
「だめだ!」
「ですが、その実があれば……」
「だとしても、だめに決まっている! そんな危険なことを、マリオンにさせるわけにはいかない!」
「でもっ……」
「絶対に許さない!」
「レオナード様!」
レオナード様が反対するのは当然だ。私に何かあった際、オルブライト侯爵家にとって大きな傷になる。でもそれ以上に、使用人思いで優しいレオナード様は、私のことで酷く悲しまれる。
それでもやっぱり引けない。私には、話を聞いてしまった責任がある。それに何より、私自身が力になりたいのだ。
「これは、私自身が望むことなのです。レオナード様に責任はございません」
「そういう問題じゃない!」
温厚なレオナード様らしくなく、バンと両手を机に叩きつける。
誰か起きてくるのではないかと思ったけれど、扉がきっちり閉じられている。ここは防音もしっかりしているので、外に漏れることはないだろう。
レオナード様は鋭い視線で私を射抜き、淡々と言った。
「聞いていたならわかっていると思うけど、向こうには索敵に特化した奴がいる。そいつに見つからずに実を採取することは不可能だ」
「……スキルを使います」
「向こうもスキル持ちだったら?」
「向こうもスキル持ちで、私の能力より上なら……その時は逃げ帰ります」
スキル持ちが対峙した場合、能力の弱い方がそのスキルを破られる。
仮に向こうが索敵のスキルを持っていて、隠密スキルを使った私と対峙した場合、向こうの能力が上なら私はあっけなく見つかってしまう。でも、私の方が上なら……見つかることはない。
「そいつは戦闘能力も高いという。もし逃げ切れなかったら? こんな危険なことを許せるはずがないだろう!」
「なら、勝手をさせていただきます」
「なっ……!」
レオナード様はもちろん、諜報部員さんも呆気に取られている。
それはそうだ。主に背くと言っているのだから。
「……スキルを使って、俺を欺くと?」
「はい」
「それは無理だ」
「無理では……っ」
「不可能だよ。俺もスキル持ちだ。「本質」……人や物の本質を見極めるスキルだ」
「!」
私は、一瞬にして言葉を失ってしまった。
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