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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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28.事が動く

 皆が寝静まっているであろう時間にもかかわらず、明かりの点いた応接室には二人の人間がいた。


「一ヶ月後に、ダニング侯爵が出国します」


 諜報部員からの報告に、レオナードは眉間に皺を寄せる。


「出国先は?」

「ノースエンド公国です。ラズベリーの輸出について、契約の見直しが行われるとのこと」

「確か、小麦の輸出はしていたようだが、ラズベリーも?」

「少量ですが。量を増やすよう、あちらから要望が出ているとのことです。しかし、それは真実ではないでしょう」

「というと?」

「ノースエンドは、我が領地の倍にも及ばぬ小さな国です。各国を渡り歩く商人ならいざ知らず、他国の貴族、しかも高位貴族が来るとなると、それだけで国中の噂になるそうです。実際、ダニング侯爵が訪れる際は、国王まで出張ってくるほどです」

「それはすごいな」

「ですが、かの国に動きが一切ありません」

「……それはおかしいな。なるほど、だから「真実ではない」んだね」

「はい」


 ダニング侯爵は出国の準備を進めている。ということは、向こうもすでに侯爵の訪問は既知であり、それが噂になっていたり、歓待の動きがあるのが自然だ。しかし、それがない。

 諜報部員たちは、ダニング侯爵の出国の情報を掴んですぐ、ノースエンド公国の様子も探りに行った。その上での報告なのだから確かだろう。


「決まったな。行先は……エルスだ。エルスとノースエンドは、目と鼻の先だ」

「と思われます。これまでに収穫したロメロの実の引き渡しが行われるのでしょう」

「……うちの人間は、出国メンバーには?」

「残念ながら」

「さすがに無理か」


 ダニング侯爵家に潜入している諜報部員たちの誰か一人でもそのメンバーに入っていたなら、現場を押さえることは容易になったろう。だが、さすがにそこまでは望めなかったようだ。


「一人、厄介なのがいるんだったね?」

「はい。もちろん、彼はメンバーに入っております」


 ダニング侯爵が雇っている護衛の中に、かなりの腕利きが数人ほどいる。戦闘能力が高いのはもちろんだが、中でも一人、索敵能力がずば抜けている者がいるのだという。諜報部員にスカウトしたいほどだというのだから、相当だろう。


「その者に気づかれず、尾行することは……」

「難しいと思われます」

「そうか……」

「申し訳ございません」

「いや、もしかするとスキル持ちかもしれないし、それは仕方がない」


 諜報部員で難しいとなると、例え王家の影を使わせてもらったとしても同じこと。オルブライト家の諜報部員は、彼らと遜色がないのだから。


「現場を押さえるのが一番なのはわかっているが、下手に動くとエルスを刺激することになる。とにかく、あちらはこっちと争いたくてうずうずしているからね」


 エルス王国は、ギルヴァーナ王国の豊かな資源を欲し、何度も戦争を仕掛けてきている。

 血気盛んな国王は、数々の小国を武力で制し、国土を拡大してきた。それでも、資源が豊かな国を傘下に置けず、国土の大きさの割に、それほど豊かではない。

 豊かさで言えば、ワイズバーン王国の方が何倍も上だが、国土も資源も軍事力も、全てにおいて何倍も格上の国に戦いを挑むほど馬鹿ではない。だから、国土という点では格下のギルヴァーナを狙うのである。


「うちは小国だけど、軍事力はほぼ互角、資源で優っている点でうちに分がある。それに、後ろにはワイズバーンも控えている。にもかかわらず、毎度懲りないよね」

「いまだワイズバーンの手を借りたことがない故、それほど友好関係は築けていないと勘違いしているのかと……」

「ありうるね」


 幸いなことに、ワイズバーンの手を借りなくてはいけないほど、あの国に追い詰められたことがない。向こうがそれを自分たちのいいように解釈している可能性は十分にある。

 彼らとの緊張状態が何十年も続いている背景には、そのようなことが関係しているのかもしれない。


「仮に現場を押さえたとしても、向こうでの取引の場合、裁けるのはダニング侯爵だけ。なにせ、あっちは合法なんだからねぇ……。人を薬で奴隷化して無体を強いても構わないなんて、国としても、人としてもありえない」


 どうせなら、こちらで取引をしてくれたらいいのに。そうすれば、エルス側にも仕置きができる。どうにか、そう仕向けられないものか。


「ダニング侯爵をこちらに引き留めておく方法はないか。なんとかして、畑で収穫した実を手に入れられるといいんだが……」


 マリオンが拾ったロメロの実と、畑で収穫した実に関連性があれば。


(だが、どうやって手に入れる? ある程度気を許してもらっているアーネスト様でさえ、困難だというのに)


 その時だった。


 ガタン!


 その音に、レオナードと諜報部員が素早く反応する。


「誰だ!」


 身構える二人の前に姿を現したのは……


「マリオン!」

「す、すみません……。応接室にメモを落としてしまったようで、探していたらお二人がやって来て、なんか、あの、咄嗟に隠れてしまったのです! 本当に、本当に、申し訳ございませんでした!」


 頭が膝につくほど身体を折り曲げて謝罪する彼女を見つめ、レオナードは天を仰ぎ、深い溜息をつくのだった。

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