27-3.グレイ男爵家(3)
「レオナード様……私、全く聞いておりませんが!」
抗議の視線を投げるが、レオナード様はどこ吹く風だ。
「アイリーンにもエルシーにも口止めをしたからね」
「なっ……! ひどいです!」
「あはははは!」
「レオナード、これはいったい……」
困惑の表情を向けるアーネスト様に、レオナード様は笑いを引っ込め、そっと背中を押すようにこう言った。
「あなたから、此度の件について全てをお話してくださいませんか? そして……あなたの想いを、ぜひアイリーンに伝えてやってください」
「……っ」
絶句するアーネスト様に穏やかな笑みを向け、レオナード様は私の肩を抱いて促す。
「あの……」
「ここに俺たちがいるのは、野暮だろう?」
周りを見ると、お父様もアンリ兄様も扉に向かっている。
(あぁ、そうか。アイリーン様とアーネスト様、二人きりにて差し上げるのか。お二人の、想いを通わせ合う場面が見られないのはすっごく残念だけど……。それこそ、野暮も野暮。馬に蹴られて死んでしまうわ)
私たちが部屋を出ると、ちょうど案内されてきたアイリーン様と鉢合わせた。
部屋の外で立ち話でもするような形での挨拶は無作法なのだろうが、皆が承知しているのであれば致し方ない。ただ、アイリーン様は戸惑っていらっしゃるけれど。それでも、淑女の微笑みで完璧な挨拶をするアイリーン様は、本当に神々しい。
「アイリーン、中にアーネスト様がいらっしゃる」
「アーネスト様が?」
「大切なお話があるそうだから、心して聞くのだよ」
「……はい。わかりました、お兄様」
レオナード様に頷いた後、アイリーン様は私を見つめる。いつもより少し心細そうなその視線に、胸がきゅっと締め付けられた。
私はアイリーン様に近づき、小声で激励する。
「大丈夫ですよ、アイリーン様。素直にお心を開いて、委ねていいのです」
「マリオン……」
私が笑顔で頷くと、アイリーン様も同じように頷いてくれた。
(あぁ、本当に尊い……!)
執事が扉をノックし、アイリーン様を部屋の中へと案内する。アイリーン様の表情は硬いけれど、出てくる頃には解れているはずだ。
「でも、お二人きりにしてしまっていいのでしょうか?」
まだ一応「候補」なのだし、そういった立場の男女が部屋に二人きりというのはどうなのか。野暮だとしても、やっぱり私がいた方がいいのでは?
でも、そんな私の心配は一蹴された。
「アーネスト様の鋼の理性を信じているし、アイリーンも他家で羽目を外すことはしないだろう。ただでさえ、しがらみの多い二人だ。第三者がいる状態では、素直に気持ちを打ち明けることなどできないと思うよ」
「もし気持ちが高ぶってどうにかなっても、外に漏れることはないのでご安心を」
「アンリ兄様!」
「冗談だって!」
(お二人を信じると言っているレオナード様の前で、それはないわよ……。ほら、レオナード様の表情がだんだん不穏になってきているじゃない!)
「アンリ、私と手合わせをしようか」
(うわ! レオナード様が好戦的! こてんぱんにぶちのめしてやるって言いたげな顔をしている!)
でも、好戦的なのはアンリ兄様も同じだ。なにせ脳筋。勝負を挑まれて、否という選択肢などない! むしろ、喜び勇んで飛びつく習性だ。
「ぜひ! レオナード様とは一度手合わせしたいと思っていたので、願ったり叶ったりです! さ、早速我が家の修練場へ行きましょう! すぐに行きましょう!」
「え、アンリ……?」
「やったぁ~~! レオナード様と手合わせだ! ひゃっほー! お互い本気で、真剣勝負をしましょうね!」
(まさか、乗ってくるとは思わなかったんだろうな)
レオナード様は半ば引きずられるように、アンリ兄様に修練場へ連れて行かれてしまった。
「やれやれ、あいつは相変わらず脳筋だな。まぁ気持ちはわからんでもないが」
(お父様、そう言いながら、ちょっと羨ましそうですよ?)
そんなお父様は、これまでとは打って変わり、にこにこ笑顔で私を振り返った。
「さて、マリオン。お前はこっちだ。ガゼボでクリステルが待っている。お父様とお母様に、これまでのお前の働きぶりを聞かせておくれ」
お母様には、一応定期連絡として諸々報告しているのだけれど。それでも、私の口からいろいろ話を聞きたいのだろう。
私は仕方がないなというように笑い、お父様と一緒にお母様のいるガゼボへと向かった。
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