27.グレイ男爵家
家に連絡したら速攻で返事があり、打ち合わせには、狭いけれどうちの邸を提供することが決まった。
うちは騎士団関係の人たちもよく出入りするし、レオナード様やアーネスト様も目立たずに訪問できるから、というのがその理由だ。
公爵家や侯爵家の人をお迎えするに相応しい家とは言い難いけれど、お二人とも父や兄たちともそれなりに面識があるらしく、顔を合わせてからすぐに打ち解けていた。
「お久しぶりです、クレマン殿」
「こちらこそ。アーネスト殿のご活躍は、かねがねうかがっておりますぞ」
「アンリとこうして顔を合わせるのは、いつぶりだろうね?」
「顔を合わせるのは久しぶりですが、手紙……もごっ」
「アンリ、余計なことは言わないように」
「ふぁい」
お父様とアーネスト様はともかく、アンリ兄様とレオナード様の会話はなんだか不穏……? というか、この二人も知り合いだったなんて。
「まさか、レオナード様とアンリ兄様がこれほど親しいとは知りませんでした」
「私の次に、剣技大会で三連覇を成し遂げた後輩だからね、アンリは」
「レオナード様は、毎年剣技大会には顔を見せてくださるんだ。それで、声をかけていただいたんだよ」
「なるほど」
二人の年は三年離れているので、学院時代は被っていない。でも、剣技大会が二人を結びつけていたのだ。
(レオナード様が剣技に長けているのは知っていたけれど、卒業後も見に行くくらいお好きだとは知らなかったわ)
レオナード様の知られざる一面を知れたようで、私は少し嬉しくなってしまった。
私も、兄様たちと自分の在学中には毎年行われる剣技大会にいつも顔を出していて、白熱していた。本当は出場したかったが、それは家族の反対にあって叶わなかった。「女の子が怪我をしたらどうするの!」「もし顔にでも傷が残ったら大変じゃないか!」という風に。
卒業後は騎士になるつもりだったから、そんなことは一切気にしていなかったのだけれど、それは私だけだったらしい。
顔合わせの後は、いよいよ本題に移る。
アーネスト様から現在調査中の案件について詳細が語られると、お父様もアンリ兄様も厳しい表情になった。
ちなみに、上のディオン兄様は第三王子であるユーグ殿下の近衛で、今日はお仕事で家にいない。そもそも、お休みでも家に帰ってくることは少ない。王宮の離れに宿舎があるので、いつ呼び出されてもいいようにそこで寝泊まりすることがほとんどなのだ。
「ダニング侯爵領で秘密裏に栽培しているその実が、ロメロだという証拠はもう掴んでいらっしゃるのか?」
お父様の問いに、アーネスト様が首肯する。
「はい。実だけを見るとラズベリーと区別がつきにくいのですが、収穫される前の葉を見れば見分けがつきます。管理人を置いた畑で栽培されているのは、間違いなくロメロの実です」
「なるほど……。それで、実が収穫された後はどこかに運び出されるとのことですが、行先はわかりますかな?」
「残念ながら、そこまではまだ掴めておりません。あちらも用心深く、畑の存在と場所を確認することには成功したのですが、収穫したものはラズベリーであり、ジャムなどの加工品にして、とある新興の商会に卸していると言い張っているのです。シャルロット嬢と正式に婚約した後に、その仕事を手伝ってほしいとは言われているのですが……」
(こっちが何も知らないと思って、嘘ばっかり……)
アーネスト様を完全に取り込んでから、諸々の秘密を明かそうというわけね。
といえど、婚約だと完全に取り込んだことにはならないと思うのだけれど。明かした途端に破棄されたら、どうするつもりなんだろう?
「向こうから暴露してもらった方が簡単ではありますが、避けた方が無難でしょうな。退路を確保しておくためにも、こちらで暴いた方がいい」
「私もクレマン殿に賛成です」
お父様の意見に、レオナード様が賛同する。私も心の中でコクコクと頷いた。
あちらから秘密を明かされ、油断させるためとはいえ一時的に仕事を手伝ってしまった場合、それはアーネスト様の弱みになりかねない。任務のためとはいえ、万が一世論が悪い方に誘導されてしまった際には、アーネスト様の、いや、サザランド公爵家の醜聞になってしまうことも考えられる。
バックにはランドルフ王太子殿下がついているので、それらは一時的なものだろう。しかし、避けるに越したことはない。
それに、もしそんなことにでもなれば、アイリーン様が悲しまれる……。
(それはだめ、絶対!)
ということで、向こうの秘密はこっちで暴く。これがベストだ。
幸い、オルブライト侯爵家の諜報部員さんたちがいい働きをしてくれていて、逐一報告が入ってくるんだしね。




