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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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26.禁断の実

 数日後、私はいつものようにレオナード様の執務室にて、彼と向き合っていた。

 基本的にはいつも穏やかなレオナード様だが、今日の表情は少々険しい。何かあったのだろうか。


「マリオン、これを見てもらえるかな」

「はい。拝見いたします」


 レオナード様から書類を渡され、それに目を通す。

 数枚に渡るそれは、私がギルヴァーナ学術院で拾った、あの赤い実についての報告書だった。

 最初はワクワクしながら読んでいた私だけれど、だんだん顔色が悪くなっていくのが自分でもわかった。


(これって……めちゃくちゃヤバくない!?)


「レオナード様!」

「ってなるよね」

「なりますよ! というか、かなりヤバ……いえ、これってかなり大変なことでは?」

「大変だね」


 報告書によると、赤い実の正体は「ロメロの実」だそうだ。

 実物は見たことがなかったけれど、ラズベリーに似ているという話は聞いたことがあった。あったけれど、あの実がロメロの実だなんて想像もつかなかった。だって、あんなヤバい代物が、まさかあんな場所に落ちているなんて思わない。


「マリオンは、ロメロの実についてどれくらい知ってる?」

「それほど詳しくはないのですが……ロメロの実は、ラズベリーと見分けがつかないほど非常によく似ていて、間違えて口にすると、酩酊したみたいに正常な判断ができなくなると」

「うん、正解。よく知っているね」


 ギルヴァーナ学術院で薬草学の授業を取っている生徒なら、必ず耳にしたことがあるはずだ。ただ、自由選択の授業なので、貴族令嬢の中でもどちらかといえば下位の者が多く、上位のご令嬢は知らない方も多いだろう。

 あの実を持っていたのは、おそらくダニング侯爵令嬢、シャルロット様。ラズベリーと間違えたのだろうか。


(いやいやいや、そんなはずないでしょ! それに、侯爵令嬢がラズベリーを持ち歩くってどうなのよ!)


 思わず自分につっこんでしまった。


「レオナード様、あの実がロメロの実だとすれば、いったいどこで手に入れて……」

「ロメロの実は厳しく管理されている。自生している領では、その規模と場所を国に届けることになっているね。だけど、ダニング侯爵領では自生しているものとは別に、他の場所で栽培している疑いがあるな」

「ダニング侯爵領で、ロメロの実が自生しているんですか?」

「あぁ。でもそれが、危ないことに足を突っ込むきっかけになったのかもね」


 ロメロの実は、人を酩酊状態にするだけで強い毒性などはない。けれど、扱いによってはとても危険なものなのだ。だから、自生は仕方がないにしても、栽培は禁止されている。


 例えば、御者にわざと食べさせて馬車を引かせれば事故に繋がるだろうし、契約相手に食べさせて不当な契約を結ぶなど、様々な犯罪に利用できてしまう。

 でも、それよりもっと恐ろしいことがあるのだ。


「願わくば、どこぞの国に輸出などしていなければいいね」

「……っ」


 ロメロの実の本当の恐ろしさは、別のものと組み合わせることにある。


 「ユメミ草」という薬草がある。この薬草は痛みを軽減する働きがあり、我が国をはじめ、他国でも広く栽培されている。薬が効いてくると夢見心地になることから、この名前がつけられたそうだ。

 夢見心地といっても、酩酊状態とは違う。まるで夢のように痛みが引くことでそう名付けられたのだが、これはちょっと大袈裟かもしれない。おそらく、初めてその効果を実感した人がそう感じただけだろう。夢見心地とまでは言わないけれど、痛み止めとしてはとても優秀な薬草だ。


 で、厄介なのが、このユメミ草とロメロの実を混ぜた時。

 この二つを混ぜ合わせてできるのが「スカーヴ」という薬になるのだけれど、これは絶対に作ってはいけないし、作ってしまったとしても他人に渡してはいけない、輸出なんてもってのほかである。

 何故なら、「人を従わせることができる」という効能を持つから。早い話が、服用した人間を言いなりの奴隷にしてしまうという、とんでもない代物なのだ。

 我が国では、もちろん禁止薬物に指定されている。ただ、これが禁止されていない国もあるのだ。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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