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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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23.極秘の訪問

「マリオン、今日は私の補佐をしてほしい」

「え? あ……はい。かしこまりました」


 レオナード様からそう言い渡され、私は訝しげにしながらも了承する。

 ここ最近は、ずっとギルヴァーナ学術院に行っていた私だけれど、今日は邸にいろということか。


「レオナード様の補佐ってなに? マリオンって、何か特別な技能でもあるの?」

「マリオンって、男爵令嬢の割に礼儀作法はレベル高いし、頭もいいものねぇ……」

「ちょっと意外だけど」

「ね、ほんと意外だけど」


 皆様、好き放題に言ってくれていますが。

 人は見た目に寄らないわね、程度で済ませてくれるオルブライト侯爵家の使用人の皆様は、本当に善良だと思う。これが他の家だったら、絶対にあれこれ悪口を言われているだろう。


(だって、一介の侍女が、次期侯爵様の補佐とか! 普通ありえないでしょ!)


 もっと何か上手い言い訳がなかったのだろうかと思いつつ、レオナード様の用件が気になる。

 私を邸に残すということは、何かあるのだ。それはいったいなんだろう?


「マリオン、行きましょう」

「はい、ダンさん」


 私は執事のダンさんに連れられ、レオナード様の執務室に向かった。


「失礼いたします」

「マリオンです。入ります」


 ダンさんと一緒に中に入ると、レオナード様は人払いをする。側近の方々も全員部屋を出たところで、レオナード様はソファを指し、私に座るように言った。


「あの……」


(ダンさんは立ったままなのに、私は座るの?)


 ついダンさんを見てしまったけれど、彼は涼しい顔をして、どうぞと言わんばかりだ。彼はきっと、レオナード様がこれから話す内容をすでに知っているのだ。

 私はおとなしくソファに腰掛ける。そして、向かいに座るレオナード様を見つめた。


「まずは、諜報部員からの報告を共有しよう」


 そう言って、レオナード様は諜報部員さんたちが集めてきた情報を話し始めた。


 彼らによると、ダニング侯爵は、何やら怪しげな取引を行っているらしいとのこと。慎重に動いているので、内容や相手まではまだ把握できていないそうだけど、それがそもそも怪しい。また、それは領地と関係していることは間違いないだろうということだ。


「あの赤い実が関わっているんですよね?」

「うん。で、あの実だけど、植物に詳しい人に見てもらったところ、やはりラズベリーではないそうだ」

「ですよね。見た目はそっくりですけど」


 見た目はそっくりでも、触り心地は違った。あれは確実にラズベリーじゃない。なら、何か。


「ただ、その人もそれが何の実かはわからなかったんだ。なので、今度は専門家に見てもらうことにした」

「そうなのですね」


 あの実は、専門家じゃないとわからないような代物だったのか。ますます怪しい。


「あと、シャルロット嬢が父親を急かしているようだよ」

「急かす? もしかして、婚約をですか?」

「うん」


 親を急かしたからといって、どうなるものでもないと思うのだけれど。

 婚約者を決める権限はアーネスト様にあり、こちらがそれを急かしたり、私を選べと強要したり、ダニング侯爵家にできるはずもない。もちろん、オルブライト侯爵家にも。王家以外、公爵家の意向には逆らえないのだから。


「というのも、ここ最近、アーネスト様はシャルロット嬢にご執心のようだからね。勝機があるとみたのだろう」

「は……?」


(な、な、な、なんですとぉーーーーーっ!?)


「ご執心? どういうことですか? だって、アーネスト様は明らかにアイリーン様をっ……」

「落ち着いて、マリオン」

「落ち着けませんっ! だって、だって、アイリーン様だけがアーネスト様の私室に入ることを許され、シャルロット様にも内緒って……!」


(あんな思わせぶりなことをしておいて、実は本命はシャルロット様だったと? そんなの、絶対に許せないっ!)


「マリオン、思い出すんだ。アーネスト様はダニング侯爵家を調べている。そしてそのダニング家は、何か怪しいことに手を出している。……この意味、わかるよね?」

「!」


 その言葉で、ハッと我に返った。


(いけない……。アイリーン様が絡むと、つい感情的になってしまうわ……)


「……はい。失礼いたしました」

「よかった。いつものマリオンに戻ったね」

「申し訳ございません。冷静さを欠いてしまいました」

「仕方ないよ。アイリーンを裏切るだなんて、許されることじゃない。それが真実なら、公爵家の令息でも容赦はしない」


 昏い微笑みを浮かべるレオナード様は、悪魔のように恐ろしい。でも、私だって完全同意だ。


「シャルロット様にご執心というのは、真実ではないのですよね?」

「あぁ。俺はそう見ている」

「なら、そうなのだと思います。……よかった」


 他ならぬレオナード様がそう見るのであれば、そうなのだろう。だって、レオナード様の見る目は、いつだって正確なのだから。


「俺の見立てを支持してくれるんだね」

「もちろんです!」

「……嬉しいよ。ありがとう」

「い、いえ! 当然……です」


 レオナード様があまりにも無邪気に笑うものだから、なんだか調子が狂ってしまった。

 この家の誰もが、レオナード様がこうだと言うなら、それを支持するだろう。それだけの実績があるのだ。

 だから、こんな風にお礼を言われてしまうと、どうしていいのかわからなくなる。それに、レオナード様の笑顔が本当に嬉しそうだから……。


(そ、そんな可愛らしい笑顔は反則ですってば!)


「それに、見過ごせないことがあってね」


 その言葉にピクリと反応する。

 緩んでいた表情を引き締めると、レオナード様の瞳が鋭く輝いた。


「どうやら、ダニング侯爵は、アーネスト様を巻き込もうとしているようだ」

「……それはっ」


(悪事に巻き込もうってこと!?)


 ダニング侯爵の行っていることをすっかり悪事にしてしまっている私だけれど、それはきっと私だけじゃない。

 レオナード様も真剣な顔をしているし、側で静かに私たちの話を聞いているダンさんの表情だって厳しい。


 しばしの沈黙の後、おもむろにノックの音がした。

 思わず飛び上がりそうになってしまった私とは裏腹に、ダンさんは素早い動きで何事かを確認しに行く。そして、彼は告げた。


「サザランド公爵令息様がご到着されました」


(え? え? ちょっと待ってください! いったいどういうことですかーーー!?)

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