21-2.アーネスト=サザランドの裏案件(2)
本日2回目の更新です。
(育成……それは、草木に限定されるのかしら? それとも、家畜などにも有効? もしそうなら、ダニング侯爵領は小麦の栽培が盛んだけれど、畜産業も盛んなはずよね? でも畜産を行っている話は聞かないわ。だとすると、スキルは草木に対してだけなのかしら。それとも、復元のスキル持ちで、育成ではない……? でも、それより……)
「ダニング侯爵は、いったい何を収穫しているんでしょう?」
これが気になる。これまで遠のいていた領地に足を運ぶのだから、よほど大事なのだろう。
「ラズベリーだろうという話だ。袋詰めにして運ばれるから正確にはわからないが、跡地を確認するとラズベリーがたくさんなっているそうだから。他にも薬草などがあるが、それなりに重そうだったことから草ではなく実だろうと」
「なるほど……」
でも、それでわざわざ領地に行くだろうか?
「マリオンの考えていることはわかる。俺も、侯爵がラズベリーを収穫するために領地に行くとは思えない。彼がわざわざ足を運ぶくらいだから、もっと重要なものだ。そうでないと、アーネスト様が調査している意味もない」
「そうですよね」
ラズベリーの実。
ジャムにしても美味しいし、クッキーなんかに入れても美味しい。ジュースにしてもすごく美味しい。私なら、ラズベリーがたくさんなっている領地があれば、しょっちゅう足を運んじゃうだろうけれど。
ラズベリーの実。赤い、実。
その時、天啓を受けたように私の頭にそれが浮かんだ。
赤い実! 私はそれを、意外な場所で拾っていた。
「レオナード様、こちらをご覧くださいっ!」
スカートのポケットに入れていたそれを取り出し、テーブルの上に置く。
たった一粒の、赤い実。
「マリオン、これは?」
「ギルヴァーナ学術院で拾ったのです。シャルロット様が通った後に見つけましたので、おそらく彼女が落としたものかと」
「シャルロット嬢が?」
レオナード様が慎重にその実を手に取る。
「ラズベリーに似ているけれど、違うね。これは……少し固い」
「はい。ラズベリーなら落とした時点で形が崩れそうなものですが、これは丸いままなんです。一見しただけではわからないんですが……これ、なんなんでしょう?」
新種か何かかと思って放置していた。だから、レオナード様に報告するのもすっかり失念してしまっていたのだ。
「ご報告が遅れてしまい、申し訳ございません」
「いや、関係がないと思ってしまうのも無理はない。今思い出してくれてよかったよ。……これを調べてみよう」
「はい。よろしくお願いします」
「お手柄だ、マリオン」
レオナード様が艶やかに微笑み、私をじっと見つめる。
その鮮やかな緑の瞳に吸い込まれそうになり、私は慌てて俯く。あまりにも美しい笑顔に、心臓が壊れそうになった。
「お、お手柄とか、まだそうと決まったわけじゃ……」
「いや、これはきっと、この件の鍵になる」
なんだか声が近いと思い、恐る恐る顔を上げてみると──
(いつの間にこっちに来たんですかーーーっ!)
レオナード様は私の隣に座り、顔を覗き込んでいたものだから、私が顔を上げた瞬間に唇が触れてしまいそうになる。
(あ、あ、あぶなーーーーいっ!)
先ほどの比でないほど、心臓が大変なことになっている。激しく脈を打ちすぎて、胸をぶち破って外に転がり出てしまうんじゃないかと思うくらい。
「惜しい」
「え?」
「いや、こっちの話」
ほんの小さな声で聞き取れなかったけれど、なんだか不穏なセリフだったような……。
とりあえず、いろいろと考えることを放棄し、私は勢いよく立ち上がった。
「そ、それではっ! 明日以降もシャルロット様をマークいたしますっ! お、おやすみなさいませっ!」
若干声がひっくり返っている私にクスリと笑み、レオナード様も立ち上がり、そっと耳元で囁いた。
「おやすみ、マリオン」
「(ヒィィーーーーッ)」
とんでもなく動揺していたけれど、お茶の片付けは無意識にしていたらしい。ふと気づいた時には、邸の廊下をワゴンを押しながら歩いていた。
ただし、ガラガラととんでもなく大きな音を立てながら。
すれ違った執事のダンさんが、目を真ん丸にしてこちらを見ていたのは、そのせいだったらしい。
ベッドに入る前にそのことに思い当たり、私は頭から布団を被って悶えたのだった。
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