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隠密侍女は推し令嬢を幸せにしたい!〜推しの兄は同士ですが、何故だか私にも甘いです!?〜  作者: 九条 睦月


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20.二人きりのお茶会

 シャルロット様が自慢していた、アーネスト様とのお茶会。

 オルブライト侯爵家にもきちんと招待状が届き、私は心底ホッとした。

 ダニング侯爵家よりも後に到着したことにはもやもやするけれど、アイリーン様も喜んでいらっしゃったし、ひとまずよしとしよう。


「エルシー、マリオン、どうかしら? おかしなところはない?」


 何度も姿見で確認するアイリーン様は、先ほどから右を向いたり左を向いたりと忙しい。


(もう壮絶に可愛らしいんですが! もう、もう、もう、私はいったいどうすれば!? 胸が……幸せすぎて苦しい! 死ぬの? ねぇ、私、死ぬのかな!?)


「おかしなところなんてありません! とっても素敵ですよ」

「でも、マリオンが何か言いたそうよ?」

「いえ、これはいつもの発作です。アイリーン様があまりにもお美しいので、感動に打ち震えているのでしょう」

「そう……なの?」

「よね? マリオン?」

「は、はいぃーーっ!」


(エルシーさん、ナイスアシスト! まったくもってそのとおりです!)


「アイリーン様がお美しくて、そしてお可愛らしくて、もう私はっ……どうすればいいのかっ!」

「マリオン……」

「いだだだっ!」


 エルシーさんが私を正気に戻すため、両の拳で頭をグリグリとする。手加減の欠片もないそれに、私はようやく正気に戻ることができた。


「マリオン、大丈夫?」

「だ、大丈夫です! 失礼いたしました!」

「本当にもう、マリオンったら。私をリラックスさせようとしてくれたのよね。ありがとう」


 眦が柔らかな弧を描き、瑠璃色の瞳が僅かに細まる。アイリーン様の優しい女神の微笑みに、私はまた正気を失いそうになった。


(あぁ……もう死んでも悔いはないっ……!)


「マリオン、今日は正念場よ。しっかりして。……頼んだわよ」


 小声でそう囁くエルシーさんに、私は彼女にだけ見えるようにサムズアップする。エルシーさんは力強く頷くと、私の服装も整えてくれた。


「そろそろお時間です」

「ありがとう、エルシー。それでは行ってくるわね。マリオン、今日もよろしくね」


 私たちは、満面の笑みで答える。


「いってらっしゃいませ」

「かしこまりました! お任せください!」


 こうして、私たちは二度目のお茶会へと出発した。


 *


 この間はガゼボで行われたけれど、今回は別の場所に案内される。


「ごきげんよう、アイリーン嬢。よく来てくれたね」

「い、いえ……こちらこそ、本日はご招待いただきありがとうございます。あの……よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしく。どうぞこちらへ」


 部屋の中には、すでにアーネスト様がいた。

 互いに挨拶を済ませると、アーネスト様はそっと腕を差し出す。アイリーン様は少し驚いたようだけれど、その腕を取った。


(……す、素敵すぎる! 今この瞬間のお二人を絵画にして、部屋に飾りたいっ!)


 アーネスト様にエスコートされるアイリーン様は、遠慮がちではあるけれど、それがまた初々しい。透き通るような頬が、ほんのりと赤く染まっているのもたまらない。

 アーネスト様はアイリーン様の方を向いて、優しく微笑んでいる。その微笑みにはどこか甘さが含まれているようで、どこからどう見ても相思相愛としか思えない。


 相手がシャルロット様の時も、彼はこんな風に微笑んでいたのだろうか。

 それを自分の目で確かめられなかったことが、今更ながら悔やまれる。実は、こっそり忍び込もうとしていたのだけれど、何故かレオナード様にバレ、阻止されてしまったのだ。


(なんでバレたのかなぁ? バレないように、細心の注意を払っていたっていうのに。シャルロット様、散々自慢してたんだよねぇ……。アーネスト様が手ずからお茶を淹れてくださったとか、ずっと微笑みを絶やさずにいてくださったとか、躓いて転びそうになったのを抱きとめてくださったとか。……躓いたのは、きっとわざとだよね。転びそうになったのなら、助けるのは当然。それを、いかにも自分に気持ちがあるからだ、みたいな言い方をしてさ)


 例のごとく、取り巻き令嬢たちと周囲に向けて宣伝していたシャルロット様を思い出し、ムッとする。

 この話も、わざわざアイリーン様に聞かせるように言っていたのは明白。アイリーン様は冷静に流していたけれど、私は身を隠しながら必死に怒りを堪えていた。

 シャルロット様にも今と同じ顔を見せていたのなら、アーネスト様は相当な遊び人だ。こんな表情で見つめられたら、大抵の女は落ちる。自分に気があると信じてしまう。


「ここが、今日のお茶会の会場だ」


 そのまま部屋の奥に通され、私たちは思わず目を見張った。

 そこはまるでガーデンテラスのようになっていて、部屋の中だというのに外にいるような開放感があった。光がふんだんに差し込み、階下に広がる庭園がゆったりと見渡せる。


「私はうちの庭園が好きでね、部屋にいる時も庭を鑑賞できるようここを作らせたんだ」

「……素晴らしいですわ」

「気に入ってくれたかな?」

「はい!」


 珍しく、アイリーン様が興奮気味である。

 その気持ちはよくわかる。私だってそうなのだから。

 ここはそう……「浮かぶガゼボ」とでも言えばいいのか。とにかく、とても素敵な空間だった。

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