16.シャルロット=ダニング
ダニング侯爵家は、今代から特にであるが、筆頭であるオルブライト侯爵家をライバル視していた。
当主同士が同じ年齢ということも大きいだろう。学術院時代から、二人は勉学や武術など、様々な面で競い合ってきた。
……といえど、ダニング侯爵が一方的に挑んでいただけなのだが。しかも、ことごとく負けを喫してきたのだからたまらない。
いつかは我が家が筆頭になるのだと闘志を燃やすダニング侯爵は、妻や子どもたちにもそれを強いた。
嫡男はどこ吹く風といったような態度だが、妻と娘はオルブライト家を敵視した。娘のシャルロットは特にだ。
元々虚栄心の塊のような性格で、己が一番でないと気が済まない。そんな彼女にとって、一つ年下のアイリーン=オルブライトは、目障りな存在だった。
ユーグ第三王子の婚約者選定の際は、アイリーンとシャルロットの一騎打ちだろうとダニング家は考えていた。だが蓋を開けてみると、ダニング侯爵家に打診はなく、打ちひしがれたものだ。オルブライト侯爵家には打診があったというのだから、業腹であった。
だが、こちらから王家に打診することなどできるはずもなく、さっさと気持ちを切り替えて別に照準を合わせることにした。それが、サザランド公爵家のアーネストである。
王家がダメなら、次に位の高い公爵家。アーネスト=サザランドは王太子の側近もしており、将来性が高い。まだ婚約者がいないことをこれ幸いと、すぐに婚約の打診をした。
しかし、答えはNO。アーネスト自身が多忙で、婚約者どころではないという。
この時も散々粘ったのだが、結局は折れるしかなかった。だが、彼の動向は逐一チェックしていた。
そして、再びの打診。
さすがに今度は向こうが折れたのか、シャルロットとの婚約を考える旨、返答があった。
しかし──
「お父様、どういうことですの!? どうして婚約者候補? おまけに、もう一人がアイリーンだなんて!」
サザランド公爵家の意向は、候補を立てて検討したいとのことだったのだ。
王子妃を選定する場合にはよくあることだが、他の貴族の場合はほぼほぼない。それでも、三大公爵家のうちの一つとなれば、なくもない。
ダニング侯爵家は、それを呑むしかなかった。
「よりもよってアイリーンだなんて! ユーグ殿下の時は、横槍が入ってざまあみろと思ったのに!」
第三王子ユーグの婚約者として打診されていたアイリーンだが、友好国からも婚約の打診があり、そちらが優先されたのである。
それを知った時、シャルロットはこれまでの苛々が払拭され、気分爽快となった。そして、自分は打診されなくてかえってよかったとさえ思った。そのおかげで、アーネストとの関係を進めることができたのだから。
彼に婚約を打診し一旦断られながらも、彼女はアーネストと良き関係を築こうと努めた。
手紙も数えきれないほど送ったし、偶然を装って出会い、話しかけることもした。夜会では必ず声をかけ、ダンスを一緒に踊ってもらったこともある。
シャルロットは、他のどの令嬢よりもアーネストに近い存在だと自負していた。
それなのに、候補でよければなどというのだ。しかも、もう一人の候補がアイリーン。
筆頭侯爵家の娘だから、候補として挙がったのだろうか。それとも、第三王子との婚約がなくなった時に慌てて打診をしたのか。だとすると、図々しいにも程がある。
「あっちがダメならこっちだなんて、卑しい女……!」
愛らしいと評される顔をこれでもかと歪め、シャルロットはギリッと歯ぎしりをする。
「いいわ……。あんな鉄仮面女なんて、さっさと蹴落としてやるから。アーネスト様の婚約者は私。未来のサザランド公爵夫人は私よ!」
「当然だ。オルブライト家など、取るに足らん。我が家こそ、そしてシャルロット、お前こそ、アーネスト様にふさわしい」
「そうよ、シャルロット。あの娘は「淑女の中の淑女」だなんて言われているけれど、いつも人形みたいな顔をしている可愛げのない女よ。あなたの魅力にはとても敵わないわ」
両親の言葉に、シャルロットは大きく頷く。
「もちろんよ、お父様、お母様。私、アイリーンになんて絶対負けないから!」
どんなことをしてでもアイリーンを排除してやる。
シャルロットは、強く心に誓った。




