01.婚約者候補!?
新連載をはじめました。よろしくお願いします!(本日は多めに更新します)
「マリオン、私、サザランド公爵令息様の婚約者候補になったのですって」
「は……?」
(はっ! いけない! 専属侍女としてあるまじき返答、そしてたぶん、今私はとんでもない顔をしている!)
(落ち着け私、冷静になれ私、頭に血が上った時は深呼吸よ、ヒッヒッフゥ~~! あれ? なんか違う? )
「マリオン?」
「え、あ、はいっ! 失礼いたしました! 少し(いや、とんでもなく)動揺してしまったのですっ」
大慌てで深々と頭を下げると、衣擦れの音がした後、麗しい声が間近で聞こえた。
お仕えするお嬢様、アイリーン様がわざわざ椅子から立ち上がり、側まで来てくださったのだ。
「そうよね。驚かせてしまってごめんなさい。私も先ほどお父様からお話を聞いて、少し動揺してしまったの」
顔を上げると、僅かに瞳を伏せ、胸の上で祈るように指を組んでいるアイリーン様のお姿があった。その細く長い指先が微かに震えている。それは不安というより、これをどう捉えるべきなのかわからない、といった戸惑いが強く見て取れる。
(はぁ……睫毛なっが! 伏せた瞳も物憂げで素敵だけれど、願わくば、ラピスラズリのように美しく煌めくその青色の双眸にじっと見つめられたいわ……っ! いや、その度に呼吸困難に陥るんだけど。死にそうになるんだけどね!)
「マリオン……」
(おっと、いけない。つい妄想に耽ってしまったわ。私の最推し、至高の存在が、こんなにも戸惑っていらっしゃるというのに私ったら!)
「アイリーン様、アイリーン様が動揺されるのも無理はございません。あの……ちなみに、サザランド公爵令息様はお二人いらっしゃいますが、次男のダニー様、ですよね?」
サザランド公爵家には、三人のお子様がいらっしゃる。
長男のアーネスト様、次男のダニー様、そして末っ子のご令嬢、クレア様だ。クレア様はアイリーン様と同じ年で、親しい仲。だから、サザランド公爵家とも親交があり、ご縁を結べるのは喜ばしいことである。
アイリーン様は現在十六歳。年齢的に近いのは次男のダニー様だけれども、ダニー様は公爵家を継ぐ立場にない。となると、アイリーン様の嫁入り先としてはどうなのか。力を持つ家なので、他にも爵位を持っていそうだし、それを譲り受けるのだろうか。
でもそれより! 婚約者候補って何!?
王族や高位貴族の場合、婚約者候補を数人確保して一番優れた令嬢を婚約者にするというケースもなくはないけれど!
でも! 次男にもそれ、適用する? しかも、容姿端麗、成績優秀、品行方正、貴族令嬢としての気品やマナーも完璧パーフェクトな私のアイリーン様に、それ、必要!?
心の中でぜーぜーと息を切らしている私をよそに、アイリーン様は冷静に答えた。
「いいえ。実は、嫡男のアーネスト様なの」
「な、なるほど……そうでございましたか」
公爵家嫡男とあらば、数人の候補の中から婚約者を選ぶということもある……だろう、きっと。
でもでも、世界中の誰よりも最高に素晴らしい、大事な大事な私のアイリーン様に、「候補」って何っ!?(二回目)
候補が何人いたって、アイリーン様がぶっちぎりの一番に決まってるでしょうが! この国の貴族令嬢が束になってかかってきても、アイリーン様には敵わないんだからね!
嵐のように吹き荒れる心の内を決して悟らせまいと必死に平静を装うけれど、上手くいっている気がしない。
内心どう思っていようが、それを表に出すのはよろしくない。品よく穏やかな微笑みを浮かべるのが、貴族令嬢として嗜みである。
そういう意味では、私はまったくもって貴族に向いていない。いや、どういう意味でも向いていないのだけれど。
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