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たのしいおはなし

作者: 可笑師司

あるところに最強の暗殺者がいました。それはそれは男の子な暗殺者でした。


彼はおはなしを読むのが大好きでした。でもそんな彼には悩みがありました。


人の書いたおはなしの中には、たまにクソな話が混ざっていました。


その度に彼は胸を痛めつけられました。


クソな話とは、読んでいて苦しくなる話です。むごたらしい話です。


彼は楽しい話が大好きでした。なぜかというと読んでいて楽しくなります。当たり前ですね。


彼は苦しい話が大嫌いでした。なぜかというと読んでいて苦しくなるからです。これは当たり前ですね。


そんな彼はかなしいおはなしをどうにかこの世の中からなくせないかといつも悩んでいまいした。


そんな彼はある日またかなしいおはなしに出逢いました。


それは娘を殺された父親が男を自殺に追い込むというお話でした。


前半は凄く楽しかったので、そのおはなしのオチにまたショックを受けました。


なんでこんな思いを受けなくてはいけないのだろう。男は泣きました。叫びました。


そこでふとある事に気がつきました。


そうだ。こんな悲しい話を書くやつらをひとりひとり殺してゆこう。


そう決めました。


とりあえずその父親の話を書いた人の自宅を訪ね殺しました。


人の気持ちの分からない人はこうなって然るべきなのです。その人が自分の生み出したキャラクターにしたように。それを通して心を痛めた者達の仇を討ちました。


男はもうひとり浮かびました。その作者の自宅を訪ねていってチェンソーでそいつを殺しました。


次は視覚障害者がむごたらしい人生を過ごす話を書いた人の自宅へ飛び、そいつの目玉をくり抜いて殺しました。


お次は最愛の人の首をしめて殺すといった悲劇を書いた作者の元を訪ねて殺しました。そんなものは感動でもなにもありません。


男の考えに反するものでした。男は常日頃からこう思っていたのです。


悲劇をいい話と捉えるのはただの吊り橋降下の転用であると。感情が揺さぶられて好きだと、凄いと勘違いさせられているだけなのです。


男にはもうひとつ考えがありました。それは苦しいものをつくるというおかしさにです。


そもそも、物というものは生活を豊かにする為のものです。楽しくするためのものです。その為に人々は冷蔵庫を生み出しました。こたつを生み出しました。電気ポットを生み出しました。テレビを生み出しました。ネットを生み出しました。SNSを生み出しました。


それはそもそも人を楽しむ為のものでした。中にはそうではなくなりつつあるものもありますが、それは仕方のない事です。何故ならばそれは使う人の手に委ねられるからです。


ノーベルの生み出したダイナマイトは、最初は削窟用の道具でした。それを兵器として使い出す者が現れ、人を傷つける道具としての側面も持ちました。


でも、我々は原初の気持ちを忘れてはならないのです。


おはなしは人を楽しくする為、人生を豊かにする為の娯楽でなければいけないのです。


物は人を幸せにする物でなければなりません。

人を苦しめる物はただの拷問器具です。

あなたがたは拷問器具を宛がわれて、痛みを心地よさと勘違いさせられているただの奴隷、捕虜、下僕なのです。


男はそんな風に、思っていました。


そんな思いで、男は悲しいおはなしを生み出すおそれのある経験者を殺していきました。


するとどうでしょう。世界からはかなしい話を作る人間が一人残らず消えて行きました。


そして絶えず彼は目を光らせ、かなしいおはなしを作り出す人間を殺していきます。


そのうち世間も気付き、かなしい話を書いたら殺される、そんな空気感に包まれました。


そして世の中には楽しい話が溢れるようになりましたとさ。めでたしめでたし。

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