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(7)地下水道でのネズミ駆除

 城下に地下水道が張り巡らされていることは誰でもk知っていることなんだけど、普通の住民で内部に入ったことがある人はほとんどいないんじゃないかしら。


 私もはじめて地下水道に入ったんだけど、思ったよりも広いのよね。


 天井は高いし、狭い所でも私たち3人が余裕で並んで歩けるし、広い所には中央に汚い水が溜まった水路があったりする。今日は各家が下水を流さないようにしてくれているからだろうけれども、いつも下水が流れ込んでいるにしては意外ときれい……かな。イオナが言うには定期的に清掃が入っているということだ。


 ウィーネは衛士の軽装で、腰に剣を吊るしていて、手にはネズミを潰すための特製のながーい金槌を持っている。

 イオナは魔法使いのローブを着てその下に魔法素材をいろいろと身につけている。

 私はと言うと、大きなリュックを背負っていて、手にはやはり特製のながーい金槌を持たされている。リュックの中にはいろいろ入っているがその大部分は「火粉」である。


 普通、剣士と魔法使いの役割は、攻撃して撃滅するのが剣士で、魔法使いは探索と防御を担当するのだが、地下水道のネズミ相手の場合は魔法による火攻めが主な撃滅の手段なんだそうだ。

 それで、そのための大量の火粉を私が背負っているのだった。


 迷路のような地下水道を右に左に歩いているうちに、私は自分がどこにいるのか分からなくなっちゃったんだけど、イオナは地下水道の地図を手にして周囲を魔法で探索しながら迷うことなく進んでいるようだった。


「ねえ、イオナ。今どのあたりにいるの?迷ってないわよね」

 と、ちょっと聞いてみた。

「今はちょうど3丁目10番のアルバートさんの家の下よ」

 そんなこと言われてもどこだかわからないわよ。聞かなきゃよかった。

 でも迷子にはなってないようね。さすがだわ。


「あ……巣を見つけた」

 イオナがネズミの巣を見つけたらしい。ウィーネとイオナはふたりで地図を見ながらなにやら相談をはじめた。


 ふたりの話が一通り終わったら、イオナが私に簡単に説明をしてくれた。


「じゃあ、アリサにこれからやることを説明しておくわね。

私がネズミの集団に対して火粉を投げる、魔法でネズミの上に振りかけて、魔法で発火、仕留め損ねたネズミをウィーネが金槌で潰す。で、これを繰り返すのよ。

潰し損ねて逃げたネズミは四散するけど、最後にはまた巣に集まるの。ネズミは巣に戻る動物だから。それで、巣のまわりを迂回しながら、徐々にネズミを駆除していって、最後に巣に集まったネズミを完全駆除するのよ」

「じゃあ、私はイオナに火粉を補充すればいいのね。でも、この金槌で私もウィーネと一緒に潰すの?ネズミを?」

「たぶん、私ひとりで大丈夫だけども、多い時は手伝ってね。アリサはこういうの得意そうでしょ」

 どうしてウィーネは私が得意とか思うのだろう。

「私、ネズミなんて潰したことないわよ」

「アリサは私よりうまいと思うわ」

 とかイオナも言うんですけど、大丈夫かしら。

 まあ、でも、そういう時がきたら、仕方ないのでやってみようと思った。

 長い金槌を軽く振り回してみた。それなりに使えそうな雰囲気ね。


 曲がり角の手前でイオナが言った。

「あ……ネズミ発見」

 角から3人で覗き込むと、暗い中にたくさんの光る眼がうごめいていた。

 その量の多さに驚いて、ふたりに囁いた。

「なんだか、すごく多くない?」

 でもふたりとも平然としている。

「こんなもんよ」

「そうそう」


「じゃあ、いきます」

 イオナが私のリュックから火粉を一摘み握るとネズミに向かって投げた。粉は空中を流れていって、ネズミたちの上方に広がって、そして発火した。ボンッ。


 チューーーーー。

 チュー。チュー。チュー。チュー。チュー。


 火のついたネズミがのたうちまわっている。

 ウィーネは素早くネズミの燃えている方に走った。

 ネズミは全部が燃えているわけじゃなくて、こちらに向かって逃げ出したネズミがたくさんいて、ウィーネはそれらを一匹一匹潰し始めた。


 チュー。グチャ!

 グチャ!グチャ!グチャ!チュー。グチャ!グチャ!グチャ!チュー。グチャ!グチャ!チュー。グチャ!


「ごめん、そっちに行った」

 ウィーネが潰し損ねたネズミが、私とイオナの方に向かってくる。意外と多いわ。ちょっと、ウィーネ、何やってんのよ。仕方ないわね。


 チュー。グチャ!……………………

 グチャ!………………グチャ!………………グチャ!………………チュー。グチャ!…………グチャ!…………グチャ!……チュー。グチャ!……チュー。グチャ!


 ネズミの動きもそんなに早くないのでなんとかなりそうね。でも、ネズミが無残に潰れる姿を見るのはあまり気持ちよくないので、ちょっと手加減してみた。


 チュー。コン!

 潰れない程度で殺す加減って難しいかも、と思ったんだけれども、これはこれでなんとかなりそうね。


 チュー。コン!………………

 コン!…………コン!…………チュー。コン!……グチャ!

 おっと、強すぎた。


 チュー。コン!……コン!……チュー。コン!……コン!……コン!……コン!…………コン!……コン!コン!コン!

 ふー、まだ来るわ。


 チュー。コン!コン!……チュー。コン!…コン!・コン!・コン!コン!コン!コン!コン!


「またー、アリサったら、なに器用なことやってるのよ」

 ウィーネがこちらに戻ってきて手伝ってくれて、やっとまわりに生きたネズミがいなくなった。

「はい、作戦終了」

 イオナが言って、みんなで今来た道をネズミの巣と反対方向に少し戻った。


 イオナが言った。

「ねえ何かちょっと変じゃない?」

 何が変なんだろう?私にはわからなかったが、ウィーネが答える。

「うん。あんまり逃げない。それに、火の効きが少し悪い」

「そうよね……でも、さっき決めた通り、次に行きましょうか」

「うん、次行こう」


 私たちは、迷路な地下水道を迂回し、別の方向からネズミの巣に迫った。


「へい、マスター」

 曲がり角の手前に来たところで、頭の中で突然あの悪魔の声がした。

 急なことで、びっくりしたわ。

 ななななーによ。

「これからいろいろ起こりそうだが、俺が付いているからマスターは大丈夫だ。安心しろ」

 私は大丈夫?

 で、ふたりは?

「は?」

 は?じゃないでしょ。イオナとウィーネ。

「ふははは、もちろんわかってる。大丈夫だ」

 まったく本当にわかってたのかな。

 とか頭の中で会話してたら、イオナが言った。

「あ……ネズミ発見」


 私たちはまだ曲がり角の手前なので、私にはその先は見えない。でも、曲がり角の先にはさっきみたいな大量のネズミがいて、さっきみたいな駆除をするわけね。


 火粉を渡す用意をしようとしたら、急にイオナが言った。

「あ……ネズミが気づいた……えっ……向かってくるわ」

「は?向かってくる?」

「迎撃体制。アリサ!早く粉ちょうだい」

「はい」

 イオナは私のリュックから火粉を摘むと曲がり角の方に投げた。ウィーネは金槌を構えた。


 火粉が曲がり角の付近に漂うのとほぼ同時に大量のネズミがこちらの方に走り込んで来た。

 ボンっと発火。

 チューーーーーー!


 焼けなかったネズミが私たちに向かって走ってくる。

 イオナが再び投げた火粉がネズミたちをおおう。

 ボンっと発火。

 チューーーーーー!


 燃えなかったネズミがこちらに走ってくるのをウィーネが潰す。

 グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!

 グチャ!グチャ!グチャ!グチャ!

 ウィーネがいくら潰しても、ネズミは燃えた仲間のしかばねを乗り越えて続々と現れた。

「撤退よ」


 徐々に下がりながら、追ってくるネズミの群を何度かイオナの火で焼き殺し、生き残りをウィーネが金槌で潰していると、そのうちネズミは追ってこなくなった。


「これで一息かな。でもネズミが攻撃してくるなんて、なんか変」

 ウィーネが言うとイオナが言った。

「あ……なんだかすごいのが来る……」


 ずいぶんと遠く離れた曲がり角に、牛ほどの大きさの巨大なネズミが1匹、顔を覗かせた。


「魔力を感知」

「魔獣対応ね」

 ウィーネが、金槌を私に渡して、腰から剣を抜いて構えた。

 魔獣が現れるなんて……誰でもできる簡単なお仕事じゃなかったの?これが、あの悪魔が言っていた、いろいろ起こるってことなの?


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