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(6)私たち3人で城下のネズミを駆除するんですか

 夕方、廊下の清掃が終わって、疲れて部屋に帰ると、ウィーネとイオナとシロニャンはもう部屋に戻っていた。そして、ふたりから今回の事件のことをさらに詳しく聞くことができた。

 事件の現場にいた私の知らないことがいろいろと判明していた。


 その中で一番驚いたのは、赤い血の狐に殺された衛士のなかにラガリオさんがいたことだ。

「ラガリオさんって 四か国武闘大会で優勝した猛者だったんじゃないの?」

 私が聞くとウォーネが答えた。

「私を負かした唯一の人よ」

「は?……あれはウィーネの……負けなの?……っていうか、ウィーネって今まで負けたことないの」

「ええ」

「お父さんとか……」

「父は騎兵だし、剣の立ち回りはヘボだし……」

「学校の先生とか……」

「先生は基本はしっかりしてるけど実践的じゃないし、腕のある年寄りは反応が遅いし・・・だから、私より強い人がやっと現れたと思ったのに……」

 ウィーネはなんだかすごく落ち込んでいて、悲しそうだった。


 イオナが言う。

「それでね。そんな強いラガリオさんたちをあっさり片づけた暗殺者たちが、どうしてあんな風に自殺したのかが謎なのよね」

「そうよね……謎よね」

 私はそう言うと、その謎が解明されないことを心から祈った。


 警備の4人の死は公爵邸を侵入者から守った名誉の死として扱われることとなり、公爵様が自ら取り仕切って、彼らの葬儀を盛大に行うことになったという。

「だから、アリサ、侵入者は自殺じゃない、彼らが侵入者を倒した、というのが公式見解よ。それで、それ以外の事件のことは一切合切外部には秘密よ。気をつけてね」

 とイオナに言われた。

「メイド長にも言われた。公務の秘密保持に慣れてない新人は特に気をつけろって……」


 でもイオナが言った公式見解を聞いた私は、警備の4人が侵入者を倒したということで事件を治めて、侵入者がなぜ自殺をしたかという謎の究明なんてやめてくれればいいのに、と思ったのでした。


 さて、次の日の朝のこと、私はイオナとウィーネと一緒に衛士長の部屋に呼び出されたのよね。なにか仕事があるという。


「君たち3人に来てもらったのは他でもない。実は最近、城下の東3番地区で、ネズミが大量発生しておって、住民から駆除の依頼がでておるのだよ」

 衛士長がそう言うと、ウィーネがすぐ答えた。

「地下水道ですね」

 すると、イオナもなんだかわかっているように答える。

「わかりました。例のやつですね」

 イオナの返答を聞いて、衛士長がイオナに言う。

「そうだ。魔法学校でも訓練済みだろう」

 そして、衛士長が我々3人に言うのである。

「そういうわけで、人手が足りないので今回は3名でなんとかやってくれ」

「はい、了解です」

「はい、承りました」


 ウィーネとイオナはわかったみたいだけど、私には何のことやらさっぱりわからないわ。ふたりは学校でなにやら訓練を受けてるみたいなんだけど、私は学校では大量のネズミの駆除なんて教わらなかったわ。地下水道でなにかするのかしら?

 仕方ないので、衛士長に質問した。

「あのー……私は飽くまでメイドなんで、よくわからないんですが……」

 衛士長より早くイオナが私に言う。

「補助役だからアリサならなんとかなるわよ」

 ウィーネがうなずく。

「うん」

 で、衛士長が私に言った。

「メイド長の許可ももらっているので、慣れないことかもしれないがよろしく頼むぞ」

 なんだかよくわからないうちに、私もふたりと一緒に城下で大量発生したネズミの駆除をすることになったのでした。


 イオナとウィーネのふたりはさっそく準備にとりかかった。必要な物をリストアップして、邸内を歩いてどんどんそれらをそろえていくのを見ていると、やっぱりこのふたりは有能なのよね。私は、ただふたりの後ろを着いて歩いているだけなんだけど、これから何をやるのかよくわからないんだから仕方ないわよね。


「ねえねえ、なんでメイドが補助役なの?補助役って何をするのよ」

 イオナが教えてくれる。

「ネズミの巣は地下水道にあるから、これから地下水道にはいって、巣を探してネズミ退治をするのよ。補助役は、つまり荷物持ち。アリサは、私たちふたりに付かず離れず行動するの」

「は?荷物持ち?」

「いや。付かず離れずがポイントよ。これがなかなか難しいんだけれど、私たちは仲良し三人組ってことで組まされたんだと思うから、アリサはいつも通り私たちと行動してくれればうまくいくわ」

「うん、うまくいく」とウィーネも言う。

「はぁ、そういうもんなの?」


 イオナが言う。

「魔道院本部や剣兵本部は普段の仕事に加えて事件の捜査で忙しいし、お葬式の準備もしなきゃいけないし、本来は公爵邸の仕事じゃないけど、まだ仕事についてない私たち新人にまわしたわけね」


「みそっかすの仕事ってこと?」

 そう言った私にイオナが言う。

「ネズミ駆除は、楽じゃないけど新人にもできる簡単なお仕事よ」


 午前中に準備を終えた我々は、昼食後にさっそく現地に向かうのでした。


 東3番地区は庶民の住宅地といったところだけれども、大聖堂がある地区だからお葬式の前にネズミ駆除はしておきたいわよね。


 まず、町会長さんの家に寄ると、私たちのことはすでに連絡が行っていて、今日は各家は地下水道にものを流さないようになっているとのこと。

 よろしく頼む、と言われたってことは、やっぱり小娘3名で十分できる仕事ってことね。


 地下水道の入り口まで送ってくれた町会長さんはいい人だと思ったわ。


「はい、じゃあ、我々3人に魔法をかけます。アリサとウィーネは身体の力を抜いてください」

 地下水道の入り口の前で、イオナが何やら魔法をかけた。そして、ブゥーっとイオナが盛大なおならをする。全然臭く感じなかったんだけど、近くにいた町会長さんが顔を歪めたから臭い一発だったんだろう。臭い消しの魔法はその効果を確認するためのおならまでセットだったっけね。若い娘が使う魔法じゃないわよね。


 さて、いよいよ地下水道に入ります。


 ランタンで足元を照らすのは私の役割、少し暗いし遠くは照らせないけど、いざとなったらイオナが魔法で明るく照らすとのことです。


「はじめてだから緊張するわ。ウィーネとイオナは訓練とかで入ったことあるのよね」

「よく歩かされたわ」

「魔道院でもよく歩いたわ。なにせ城下の防衛戦の基本だからね」

 私の通ってた職業学校とは教わることがずいぶんと違うのね。


 地下水道に降りる階段を下っていると、突然、頭の中にあの悪魔の下衆い声がした。

「よう、マスター」

 は?……なに?……なんなの?

「嫌な予感がする……気をつけろ」

 は?……よくわからないわよ?……何に気をつけたらいいの?

 でも返事はなかった。


 あいつが出てきたってことは、また私に何か危険なことが起こるのかしら?

 でも、ネズミ駆除は誰にでもできる簡単なお仕事でしょう?



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