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(10)悪魔がメイドに冥土のことを話してくれます

 ガブローエン様が去られた後、倉庫から出ようとしたら、入り口の戸は堅く閉ざされていた。私と悪魔はガブローエン様によってこの部屋に閉じ込められてしまったようだ。

「ねえ、あなたならこの戸を開けられるんじゃない?」

 私が聞いたら悪魔が言った。

「開けるのは簡単だが、この戸はガブの警告だ。葬式をどこかで眺めているガブが、俺たちが聖堂の中をウロウロしているのを見つけたら何をするかわからん。今はここでおとなしくしていよう。葬式が終わったら奴は地上から去るはずだから、その後にここを出れば良いだろう」

「さっきと違ってなんだか弱気ね。でも、そうね。丸焼きは嫌だわ」


 私は部屋の中から腰かけられるものを探して座った。

「暇だから、冥土の仕組みっていうのを聞かせてよ」

「ああ、少しは知っておいたほうがいいだろう」

 そう言うと悪魔は話を始めた。


「こっちの世界とは違う場所に、ガブをはじめとする神の使いや聖人たちが住んでる世界がある。そこにいるのはみんなこっちで死んだ奴らだ」

「死後の世界?」


「死後の世界ではあるがちょっと違う。選ばれた死者が招き入れられる特別な世界だ。こっちの死者が全員行けるわけではない」

「神に選ばれし……特別な世界……」

「いや、選んでいるのは神ではない。最高会議が選んでいるんだ」

「神じゃなくて、最高会議?」


「冥土には最高会議というのがあって、それに属する数人の委員がすべてを決め、すべてを管理している。数人の委員というのも、元はといえばみんなこっちの世界で死んだ奴らだから、神じゃない」

「神様はいないの?私たちはそんな最高会議みたいなものに祈っているわけじゃなくて、神様に祈っているのよ」

「あいつらは、教団を組織して、こっちの世界の住人に神つまり造物主の存在を語っているのだが、俺は神なんてものを見たことはない。あいつらの誰もそんなものは見たことはないだろう」

「??」


「なぜ存在しない神を語るかというと、最高会議や聖人では、こっちの世界の住人が納得しないし、祈ってくれないからだ。そうだろう?」

「確かに、私はそんな怪しげな会議には祈らないけど……でも、なんでその人たちは私たちに祈ってもらわなきゃいけないわけ?」

「いいことに気がついたな。さすがマスターだ」

「変にほめてもなんにも出ないわよ」

「いや。失礼した」


「実は、あっちの世界の住人はこっちの世界から魔力を吸い取って、その魔力によって存在している。そして、こっちの世界の住人たちから魔力を搾取するために教団が作られたのだ。教団の名の元に神の存在を語り、神に祈らせてこっちの世界の住人たちを管理し、魔力の搾取を効率よく行うって寸法だ」

「はぁ?なにそれ?」

 全知全能の神様がいらっしゃって、この世に平穏と幸福をもたらしてくださっている。神様に従う神の使いや聖人の方々は、神様のお手伝いをして、私たちを善の方向へ導いてくださっている。って、そういうんじゃなかったの?


「なんだかよくわからないけど、今のは神様のいらっしゃる「白い国」のことだと思うんだけれども、悪魔のいる「闇の牢獄」はどうなっているのよ?」


 悪魔はニヤニヤして、なんだか得意そうに話す。

「奴らがお前らに伝えている「闇の牢獄」は、たいそう酷いところのようだが、実際は暗くもないし牢獄でもない」

「じゃあ、どんなものなのよ」

「俺たち悪魔と呼ばれる者たちは、みんな元々はマスターの言う「白い国」にいた者たちだ。俺たちは、奴らのやり方がいろいろと気に食わなくなっちまってな。ある時、最高会議から袂を分かって、少々異なる領域で過ごすようになった。ただそれだけだ」


「白い国から脱走したってこと?」

「まあ、そういうことかな。だから、こっちでは闇の監獄とか言われているようだが、そんなことはない。なかなか普通に過ごしやすいところだぞ」

「はぁ?あんたら悪魔は過ごしやすいかもしれないけれど、白い国にいけなかった罪人はひどい扱いを受けてるんでしょう」

「そんなことはない。そもそも罪人なんて入ってこない。まあ、たまに希望者がやってくるがな。みんな平等に自由にやっているぞ」

「????」


 「白い国」の話とおんなじで、なんだか、私が聞いている「闇の牢獄」と随分違うわ。この世で罪を犯した人たちが、光のない牢獄に押し込められて、罪を償うために毎日酷い目に会っているんじゃなかったのかしら?


「神の使いや聖人とはいっても、さっき見たガブみたいな奴らばかりだ。最高会議に逆らった俺たちを目の敵にしやがる。俺たちを悪魔と呼び、俺たちの領域を酷いところだと語り、自分たちに逆らった者たちを貶めて、俺たちが地上の人々から魔力を集められないようにしているんだ」

「白い国が悪魔を目の敵にしているんだったら、戦いとかは起きないの?」

「あいつらが簡単には手を出せない程度に勢力を保っている。だから、小競り合いは起こるが、本格的な戦いは起こっていない」

「はぁ、まあ、なんというか……」


 確かに、あのガブローエン様の振る舞いは私の知っている神の使いのそれとは大分違っていた。

 私の知っている神様や白い国の話が全部真実というわけではなさそうな気もするのであった。

 この悪魔の言っていることはどこまで本当なのかしら。


「ところで、ガブローエン様って神の使いなのに、どうしてあんなに柄が悪いの?」

「ガブは昔からああいうやつだ」

 まあ、神の使いがたくさんいれば、ひとりぐらいはああいうのもいるかもしれない。

 たぶん、あれは特別よね。そうだわ、あんなだからいつまでも下っ端なのよね。

 とりあえず、私はそのあたりで納得することにした。


「ガブリーエン様が今日ここにいらしたことについて、さっきなにか言っていたけれど、ガブローエン様は今日はどうしてここにいらっしゃったの?」

「今日の葬式で誰かを聖人として迎えに来たのだろう」

「それって素晴らしいお仕事だと思うんだけど……下っ端仕事とか言ってなかったっけ?」

「ああ。楽じゃないが誰にでも出来る簡単なお仕事だ」

「はぁ?」

 なんだかどこかで聞いたことがあるお仕事だわ。


「でも、たまに、予想外に魔獣が出ることがある……それから悪魔とか豚とかが出ることがな……」

「はぁぁ……?」


「面白くなかったかな?」

「うーむ」

「いや。失礼した」


 悪魔の言ったいろいろなことは話としては聞いておくけど、すべてをそのまま信じるわけにはいかないと私は思った。

 神様がいないとか言ってるけれど、もし、悪魔の言うようなあちらの世界があるとしたら、それは人々の平和と安息のために神様がお作りになったものなのではないのかしら。


 神の使いのガブローエン様にいろいろと酷いことを言われてしまったけれども、確かにこんな悪魔を従えている今の私は白い国に行く資格なんてないし、闇の牢獄に落ちるべき者なのだろう。そう、今の私はね。

 けれども、これからたくさん善行を重ねれば、こんな私でも、神様に神のしもべとして認めてもらえるんじゃないかしら。

 うん、私、やるわ。


 この悪魔はいまひとつ信用できないし、なにかを企んでそうな気がするんだけれども、私がマスターなんだから、悪事はさせずに善い行いをさせましょう。そして、これからの私自身の正しい行いと悪魔の善行で、私が罪人ではないと神様に認めてもらうのよ。

 道は険しいかもしれないけれど、闇の牢獄なんかには絶対に落ちたくはないものね。


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