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8.ガールズトーク

 


 初夏。爽やかな陽射しが、窓を通して部屋へと入り込む。

 いつものように、屋敷で大人しく過ごしてた時のこと。両親から呼び出されて、話を聞きに行く。

 そこには、険しい顔をしたお父様に泣きそうなお母様がいた。両親からの知らせを耳にして、わたくしは驚きのあまり息を呑む。


「――第二皇子であったイーサンさまが、地下牢を脱獄した……?」

「あぁ……、まだ公表されていない情報だが、ジャック皇太子殿下が直々に知らせてくれたんだ」

「ヴィクトリア、お願いだから、屋敷から引き続き出ないで。絶対に安全なところにいるのよ」


 両親が心配しているということは、つまり、わたくしが狙われる可能性があるのだろう。

 これまで以上に護身術を磨かなくてはいけないわね。


「それとヴィクトリア。……言いにくいのだが、妙な噂が流されたんだ」

「妙な噂……?」

「ジャック皇太子殿下の元婚約者であった隣国の王女の死に、ヴィクトリアが関わっているのではと囁やかれている」


 わたくしは、思わず目を見張る。

 そうか、全てのひずみは、わたくしのせいという風に誰かが仕立てあげているのね。


 隣国の王女の死、リリアン男爵令嬢への強姦、イーサン元第二皇子の脱落、その全ては、きっと、わたくしがジャックさまの婚約者になるためやった事だと言われているのかしら。


 行き着いた考えに、ぞっとして、鳥肌が全身に立つ。


「お父様、ジャックさまは、大丈夫なのでしょうか」

「大変忙しくされているが、彼の方は強くあられる。私も父親として公爵として、殿下に協力するよ。だから大丈夫」


 お父様からふわりと抱き締められる。


「ヴィクトリア、大きくなったな。渦中に巻き込まれて不安だろうに、自分のことより、ジャック皇太子殿下の心配をするとは。色々あったが、愛する人と一緒になれることは喜ばしい」

「はい。お父様、ありがとうございます」


 すると、お父様は、絞り出すように、「政略結婚を強いて、こんな目に合わせて申し訳ない」と小さな声で呟いた。



 ***



 お忙しいジャックさまとは、当たり前のように、会えない日々を過ごす。

 午前中は護身術の訓練を毎日行い、その後は、愛猫のルナと遊んだり、刺繍や読書、勉強をする生活が続いた。


 そんな中、わたくしの唯一の友人が屋敷を訪ねてきた。同じ公爵令嬢のシャルロッテ・ハイデンライヒだ。

 親同士が仲良く、幼い頃から一緒に遊んで育った彼女は、幼馴染のようなもの。


「シャルロッテ、ようこそ我が屋敷へ」

「ごきげんよう、ヴィクトリア。久しぶりね」


 しばらくぶりに会った彼女は相変わらず、艶やかなストロベリーブロンドで、綺麗な笑みを浮かべている。

 しかし周りをきょろきょろと見た後に、表情を曇らす。


「……随分と物々しいわね」

「ええ。近衛兵が守ってくれているのよ」


 そう。正式にジャックさまの婚約者になったので、数日前から、近衛兵の護衛がついている。

 それもジャックさまが手配してくださったということで、感動したところだった。


 シャルロッテとは親しい仲なので、私室にお茶の支度をして貰ってから、二人きりになった。

 扉の前とバルコニーを近衛兵が守ってくれている安心仕様だ。


「ヴィクトリア、心配しましたのよ。あの日、イーサン……元第二皇子殿下から、あの様な仕打ちを受けているところを見て、すぐ助けようとしたけど、ジャック皇太子殿下に止められたの。それに妙な噂まで出ているじゃない! お茶会に出ては否定して回ってるのよ」

「そうだったのね。もうすぐ嫁ぐ立場で忙しいだろうに、噂の火消しまでさせてしまって申し訳ないわ……」

「それは貴女もでしょう。ジャック皇太子殿下と結ばれるだなんて本当にびっくりしたわ!」


 思わず、苦笑いしてしまう。ええ、わたくしもジャックさまと婚約を結ぶことになるだなんて、吃驚しています……。


「ジャック皇太子殿下には酷い目にあってない? イーサン元第二皇子殿下の時だなんて、何度あの足を踏んでやろうと思ったことか……」

「ふふっ、シャルロッテ。本当のことだけど、余りに不敬よ。それに、ジャックさまには凄く良くしていただいているの」

「そのようね。リングの紫水晶が、殿下の瞳そっくり!」


 幼馴染のシャルロッテに突っ込まれると、なんだか恥ずかしくて、照れてしまう。そして数ヶ月ぶりに会うシャルロッテのマシンガントークは止まらない。


「そうそう、リリアン男爵令嬢なんだけど、辺境にある男爵領に謹慎になっているらしいわよ。許可が出るまで男爵領から出ないよう通達されたんだって!」

「まぁ……そうだったの……」

「私は国外追放が妥当かと思ったけど、温情をかけたって印象よねー。何でも余りに気の毒だって、ハーゲン皇弟殿下が口添えしたようよ」

「知らなかった……。それでもいつ許可が出るか分からず男爵領にずっと留まるだなんて、充分に厳しい罰だと思うわ」


 あの婚約パーティーは、随分な醜聞になった。リリアン男爵令嬢には、数多くのご兄妹がいるようだし、その方々の就職や婚姻も見つけるのが困難になるだろう。

 何だか、暗い話ばかりだ。もっと明るい話をしたい。わたくしは思いついた話題をシャルロッテに振ってみる。


「それより、愛しの次期宰相閣下とは、最近どうなの?」

「っ!!」

「わたくし、ずっと屋敷にいて飽きてきたのよ。今日はまだ時間があるし、たっぷりシャルロッテの恋の話を聞かせて欲しいわ?」


 赤面しているシャルロッテに沢山質問を投げて、きゃあきゃあガールズトークをして、それはそれは盛り上がった。

 その後、ジャックさまのことを聞かれて、シャルロッテに反撃されたのは言うまでもない。


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