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2.婚約発表パーティー

 


「ヴィクトリア、君との婚約は破談とさせてもらう」

 

 本日正式に私の婚約者となるはずだった、第二皇子のイーサン殿下の口から残酷な言葉が紡がれる。

 

 我々の婚約発表パーティーの最中、男爵令嬢であるリリアン様の肩を抱いて登場したかと思えば、強い目線でこちらを睨んでいらっしゃる。

 招待した高位貴族が、まるでショーを見るかのように、声を潜めて、器用にざわめく。

 

 婚約発表の主役しか白いドレスを着てはいけないというマナーがあるのに、リリアン様の衣装は、ホワイトで統一されている。しかも王族しか許されていない、私が頂くために作られたティアラを被って。

 

 破談にするならば、婚約パーティーの前に内々で決めて欲しかったと、ため息をつきそうになるけど公爵令嬢としてのプライドが許さず、必死に飲み込む。

 

 扇で口元を隠して、どうしたものかとお父様とお母様の方を目線だけで様子を伺うと、二人とも怒りに震えてた。両陛下は青ざめている。なんていう事でしょう。

 

「おい、無表情女。何か言ったらどうなんだ」

「イーサン、あまり威圧したらヴィクトリア様が可哀想ですわ」

「あんな女に気を使うなんて、リリアンはまるで女神のようだな」

 

 軍人として磨かれたイーサン殿下は鋭い目でこちらを睨みつけてくるが、リリアン様には優しげに目尻が下がる。

 

 ――婚約者になるわたくしですら呼び捨てを許されたことがないのに。というか軽くも深くも関わったことがないわね……。

 

「一体、どういう事でしょう。婚約者になるものがいるのに、辺境で作った恋人がいらっしゃって、そのお相手とご結婚されたいということなのかしら?」

「白々しいな、ヴィクトリア。君はリリアンに嫉妬し、強姦を指示していたんだろう」

「強姦ですって? 何故私がそんな面倒な事を。そもそもこの婚約は王家と公爵家の血の繋がりを強固にするため望まれた物でした。結婚を約束されているのに何故私がそのように面倒な事をする必要があるのです?」

 

 そんな時間があるのだったら、ジャック皇太子殿下の覗きをしているわよ。本当にどうしようもなく馬鹿な男ね。

 

「よく回る口だな。お前以外に誰がそのようなことを計画するというのだ」

「つまり証拠はないのに、身に覚えのないわたくしを責め立て、犯罪者にしようとしていると」

 

 そもそも強姦にあっただなんて……、想い人が処女を失ったという醜態をよくパーティーで公言するわね……。ここまで単細胞の馬鹿だと思わなかったわ。馬鹿らしくて目もあてられない。

 

「婚約の取りやめについては承知しました。ですが、裁判をするのならば公平な判断が出来るような人選をお願いしますね」

「裁判をするまでもないよ」

 

 コツコツと優雅な足音を立てて現れたのは、第一皇子であらせられるジャック皇太子殿下だ。

 イーサン殿下はかなり頭が弱いけど、ジャック皇太子殿下は秀才と言われている。そんなジャック皇太子殿下が裁判するまでもないとおっしゃっている。

 

 ――もしかして、わたくしは、ジャック皇太子殿下にも断罪されるのだろうか。

 

 イーサン殿下のことは別に慕っていないので婚約がなくなったところで、わたくしには問題ないけれど。ジャック皇太子殿下については何をされるのか、想像も付かず、恐ろしくて手が震える。

 

「兄上が味方してくれるだなんて心強い」

「ふふ、馬鹿な弟がいると困るね」

「きゃあああ」

 

 ジャック皇太子殿下は、リリアン様の白いドレスに向かってグラスを投げる。必然と、赤ワインで白いドレスは、赤く染められていく。

 

「兄上、リリアンになんてことを……!」

「白いドレスは今日の主役であるヴィクトリア嬢しか似合わないからね。色を変えてあげたんだ」

 

 床にまでポタポタと赤ワインがたれている衝撃的なシーンに唖然とするも、平然としたジャック皇太子殿下は、こちらに向かって、歩みを進める。

 

「ヴィクトリア嬢、こんなに震えてしまって……。本当に申し訳ない」

「兄上!? なぜその女に……」

 

 眉毛を下げて、子犬のような表情を作ったジャック皇太子殿下は、私の手をぎゅっと握る。ひいいい!! お美しいご尊顔が目の前に……!!

 

「もう安心してね。僕が守ってあげるから」と耳元で囁かれ、顔が赤く染まってしまう。うひゃああ……!

 

 こんなに間近で、ジャック皇太子殿下の完璧なお顔を拝見して、手を握ってもらえて、天にも昇る心地だわ。まるで恋愛小説のヒーローのよう……!

 

 興奮しているのを、表に出さぬよう、必死に隠していると、ジャック皇太子殿下が私の手を離し、片手を上げると声高らかに宣言した。

 

「衛兵! イーサン第二皇子と、リリアン男爵令嬢を捕らえよ! 公爵令嬢への侮辱罪で拘束とする」

「え? あ、兄上? そ、そんな……やめろやめろおおおおお」

「いやああああ!!! 触らないで!!!」

 

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、衛兵は迷いなく第二王子と男爵令嬢を拘束する。そして、ジャック皇太子殿下は、リリアン男爵令嬢を指さして、口を開く。

 

「――リリアン男爵令嬢は、複数の男と乱交をしていたことがイーサンに見つかって、咄嗟にヴィクトリアに嵌められたと言ったようだな? この罪、軽くないことを明言する」

「リリアン、それは本当なのか?!?!?」

「そんなの嘘よ!!!! なんで私がこんな目に……こんなはずじゃ……」

 

 二人は衛兵に連れ去られ退場。パーティー会場は、混乱していたが、すぐに皇帝陛下によって収められた。

 

 パーティーは開かれてまもなく解散となり、両親の元へ行こうと足を進めるが、手首を掴まれた。振り返ると、私を助けてくれた、ジャック皇太子殿下だった。


 はうう……! イケメンすぎて罪……。でも眼福ですわ……! 手まで大きくて、ゴツゴツして素敵……!

 

「ねぇ、ヴィクトリア嬢。一緒に来てもらえる?」

「え、えぇ。勿論ですわ」

 

 ジャック皇太子殿下に手を引かれて、会場を出ると、たどり着いた先は、私室のようだった。ま、まさか、ジャック皇太子殿下のお部屋じゃないわよね……!? 何だか良い香りがするのだけれど……!?

 

「あの、皇太子殿下……?」

「全く君は、僕のこといつも熱っぽい目で見ているのに、イーサンと正式に婚約しようとするなんてびっくりしたよ?」

「えっ」

 

 遠くから覗きながら、心の中でイケメン拝んでいたのバレてた!? というかジリジリと皇太子殿下が迫ってくるのは何故ですの!?

 

 身の危険を感じて、一歩、また一歩と下がると、同じ分だけ近づいてくる。ひいいい、顔が良すぎるよぉぉ。

 とうとう殿下のヒジが、わたくしの顔横の壁にドンと、勢いよく突かれる。

 

「もう逃がさないよ。君は僕のものになったんだから」

「ど、どういう……? ジャック皇太子殿下は隣国の王女様と、ご婚約されていたのでは?」

「あぁ、王女なら死んでしまったから、婚約は無くなったんだ。心配いらないよ」

「死っ!?」

「君がヤキモチ妬いてくれるなんて嬉しいな」

 

 会話が噛み合いませんね……? うわわわ、顔近い! どんどん近づいて……!?? 顔近すぎて無理、息できない。顔が百点満点だし、中低音の透明感のある声も良いってどういう事でしょう……!??

 

「僕たちの仲を邪魔する弟とあの女は、偽の情報を流したら想像以上に手のひらで踊ってくれたよ。ふふっ。陛下には弟に何かあればヴィクトリアとの結婚は僕が代わるって話がついているし、もう僕らを妨げる障害はないよ。安心してね」

 

 ド好み顔が目の前にあって、緊張で息を止めていたからか、ボーッとしてきて、話は聞こえるが、内容が入ってこない。

 

「何事にも動じないお人形みたいなヴィクトリアが、僕の事になると感情が動いて息をするんだ。そんな君の事、愛しているよ。もっと僕で一杯にしたいな。ね、ジャックって呼んでみて」

「……うぁ、ジャック、さま……!」

「かわいいね。僕はヴィーと呼んでも?」

「はい」

 

 ジャックさまは、目を細めると、わたくしの顎を持ち上げて、流れるようにキスを落として下さった。ジャックさまが私を好きだなんて信じられない……。

 

 でも、わたくしはジャックさまのこと、好きになってもいいんだ。結婚出来るんだ。多幸感で胸がいっぱいになって、もう死んでもいいかもって、馬鹿みたいに心がふわふわとする。

 

「ヴィー、どうか僕以外をその綺麗な瞳に映さないで。君の目に他のものが入ると、きっと僕は壊してしまうから。約束だよ?」

「はい。ジャックさまもわたくし以外の人に触れないでくださいませね」

「勿論だ」

 

 自然と重なる唇。何度も角度をかえて、約束のくちづけを繰り返す。

 ――ファーストキスは、脳が麻痺するような甘い味がした。



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