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執事見習いミッシェル  作者: 貴神
3/6

(3)執事研修の始まり(後編)

太陽の館でのミッシェルの執事研修の始まりです☆


色々想像して貰えたら嬉しいです☆

太陽の館の朝は早い。


夏風の貴婦人は早朝に起きると道場でウォーミングアップをし、湯浴みをしてから朝食を摂る。


それから軍服に着替えて、怒涛の仕事の一日が始まるのだ。


ミッシェルはリンドンから数枚の紙を渡されると、説明を受けていた。


「此れが夏風の貴婦人様の今日のスケジュールの写しです。


此れを見ながら遅れる事なく行動しなさい。


外出時はファテシナが供について行きますから、彼女を見習いなさい」


「はい」


ミッシェルはしっかりと頷くと、白シャツに黒ベストの執事服姿で意気込む。


スケジュール表は折り畳んで、ベストの内ポケットに仕舞った。


「今日は午前中からジン男爵の御屋敷に、夏風の貴婦人様は行く事になっています」


「はい。書いて在りましたね」


「まず第一に、今日のスケジュールを夏風の貴婦人様に御伝えする事」


「はい」


「勿論、前日までに御伝えしていますから、今日の事は御存知であられます」


「はい」


「それでも必ず、もう一度確認を取ります。そして大切なのは馬車の手配です。


相手方の御屋敷までの距離は、どのくらいか。今日の気候は、どうなのか。


それによって馬車の走る速さも変わってきます。暑い日には水の用意を。


寒い日には厚手の外套も用意しておかなければなりません。


準備はメイドがしてくれますが、指示を出すのは私どもです。忘れたは通りませんよ」


「はい!!」


言われた事をしっかり頭の中に叩き込む、ミッシェル。


其処へ馬車の用意が出来た事をメイドが報告に来た。


「水は在りますね??」


「はい。御用意致しました」


「タオルの方は在りますか??」


「はい。揃っております」


抜かりのないメイドの返事にリンドンは頷くと、ミッシェルに説明した。


「夏場はタオルや御着替え等も御用意しておくのがベストなのです」


「成る程・・・・」


どんな状況でも対応出来る様に、馬車には備えを常にする様だ。


使用人たちが此処まで気配りをしていた事を、ミッシェルは今初めて知った。


実家の使用人たちは、どうだったのだろうと、脳裏で考える。


「では御用意が出来ましたので、夏風の貴婦人様を御呼びして下さい」


「は、はい!!」


はっきりと返事をして、ミッシェルは内心ドキリとした。


ええっと・・・・夏風の貴婦人様の御部屋は確か二階の・・・・。


昨日、案内して貰った通路を思い出し乍ら、ミッシェルは夏風の貴婦人の部屋へ向かう。


階段を上がり、二階の廊下を歩くと、左手に一際豪奢な扉が在る。


ミッシェルは大きく息を吸い込むと、コンコンコンとノックした。


「夏風の貴婦人様!! 御出掛けの御準備が整いました!!」


ミッシェルは背筋を伸ばして返事を待った。


が。


返事が無い。


声が小さかっただろうか??


ミッシェルが、もう一度扉を叩こうとすると、ガチャリと音が鳴り、


なんと反対側の扉から夏風の貴婦人が現れたではないか。


「何してんだ、御前は??」


軍服姿で出て来た夏風の貴婦人が怪訝な声を掛けてくる。


「え?? あ??」


夏風の貴婦人が出て来たは扉は執務室だった。


しまった!!


此の時間は、もう私室には居ないのか!!


ミッシェルは慌てて夏風の貴婦人の下へ駆け寄った。


すると。


「執事が屋敷ん中、走るんじゃないわよ」


一喝されて、ミッシェルは首をすぼめた。


「も、申し訳ありません!!」


夏風の貴婦人は、ふんと鼻息を荒くすると、大股で廊下を歩いて階段を下りて行く。


「な、夏風の貴婦人様!! 本日のスケジュールですが・・・・」


遅れまいと小走りになりそうな足をぐっと堪え乍ら、


ミッシェルは夏風の貴婦人の後をついて言う。


だが夏風の貴婦人は、


「判ってる!!」


そう短く言うと、大股で玄関ホールへと向かう。


ホールにはリンドンとファテシナを始め、四人のメイド達が並んでいた。


二人のメイドが扉を開けると、


「いってらっしゃいませ」


皆が一斉に一礼する。


「ん。行って来るわ」


夏風の貴婦人は使用人たちの間を堂々と通ると、外へと出る。


其の後をファテシナとミッシェルがついて行く。


玄関を出た処に馬車が待機しており、執事が見送りに来た。


ファテシナが馬車の扉を開けると、夏風の貴婦人が乗り込み、ファテシナも続こうとしたが、


「ほら、早くなさい」


ぼうっとしているミッシェルを促す。


「は、はい!!」


ミッシェルが慌てて馬車に乗り込むと、ファテシナも続き、執事が静かに扉を閉めた。


夏風の貴婦人と向かい合わせに座り乍ら、ミッシェルは行儀良くしていたが、馬車が走り出すと、


ふと疑問に思った事を言ってしまった。


「あの、蘭の貴婦人様は行かれないんですか??」


窓枠に肘を着いた格好で夏風の貴婦人は目だけ向けると、


「あいつは留守番」


ぶっきらぼうに答えた。


「蘭の貴婦人様は蘭の貴婦人様で、御仕事が在られるのです」


隣のチーフが小さく嗜めてきたが、ミッシェルはついつい言ってしまった。


「ああ!! もしかして、外の御仕事は夏風の貴婦人様で、


デスクワークは蘭の貴婦人様がされていらっしゃるんですか??」


そうなんでしょう??


挿絵(By みてみん)


興味津々に訊ねてくるミッシェルに、夏風の貴婦人が低く唸った。


「ミッシェル、御前、少し黙れ」


鋭い橙色の瞳に睨まれて、ミッシェルは一瞬、息が止まってしまった。


初めての執事研修で、つい興奮して話し掛けてしまった。


反省したミッシェルは、もう行きの馬車の中では一言も喋らなかった。









一方。


ミッシェル少年を送り出した翡翠の館の朝は、普段通りの朝を迎えていた。


いつもより寝坊した金の貴公子は寝台の上でごろごろと寝転がっていた。


「・・・・暑い」


日々熱を増す夏の暑さに、金の貴公子が起きるかどうか迷っていると、


「おっはようございまーす!! 金の貴公子様!!」


ノックと共に、元気良く若いメイドが入って来た。


「おはよ・・・・」


まだ半眼の金の貴公子にメイドは窓を開け乍ら、にこにこと笑顔で言う。


「新しい夏服持って来ましたよ~~!!」


メイドはガラガラと移動式ハンガーを押して、部屋の中に運んで来た。


「おお・・・・新しい服か」


先程まで起床を渋っていた金の貴公子は寝台から下りて来ると、


どれどれ?? と新しい服を覗き込む。


ハンガーには涼しげな色のデザインの服が十着ほど掛けられていた。


「おお、此れいいじゃん!! 此れもいいな~~!!」


眠気も覚めたのか、子供の様に目をきらきらと輝かせる金の貴公子。


「御飲み物は、どう致しましょうか??」


「あ、アイス珈琲。主の部屋でいいよ」


「かしこまりました~~」


明るい返事でメイドが部屋を出て行くと、金の貴公子は夜着姿の儘、


翡翠の貴公子の部屋へと向かった。


目覚めの珈琲は翡翠の貴公子の執務室で彼を見ながらと云うのが、金の貴公子の日課だった。


「主、おっはよ~~!!」


ノックもせずに執務室の扉を開けると、金の貴公子は中へ入った。


翡翠の貴公子は既に私服姿で窓辺に座って、風に当たっている。


「おはよう」


ぼそりと短く返事をするのは、いつもの事だ。


だが、いつもの事ではない事が突如として起きた。


涼しげに窓辺に座る翡翠の貴公子の姿に、金の貴公子の全身が硬直した。


今朝、金の貴公子の部屋に夏服が運ばれて来たと云う事は、翡翠の貴公子の部屋にも当然、


同様にされている筈だった。


そして窓辺に座る翡翠の貴公子が纏っている服は夏服だった。


其れは金の貴公子にとって、唐突過ぎる露出であった。


ノースリーブの襟刳りの大きく空いた、パステルブルーの夏服。


肩から手首まで、ほっそりとした皓い腕が伸び、首元には、


くっきりと皓い鎖骨が浮かび上がっている。


其れは予想を遥かに越えた刺激だった。


すると。


ぽたり・・・・と何かが床に落ちた。


と同時に、コンコンコンとノックが鳴った。


「失礼致します」


アイスコーヒーを盆に乗せた執事が入って来ると、其処には、


ぼたぼたと鼻血を零す金の貴公子が居た。









結局、此の日、食堂では翡翠の貴公子は一人で朝食を摂り、


金の貴公子は自室の長椅子で横になっていた。


其処へ朝食をトレイに乗せた執事が入って来た。


「金の貴公子様。少し治まりましたでしょうか??」


鼻血の様子を伺う執事に、金の貴公子はハンカチで鼻を抑え乍ら言う。


「んー・・・・微妙」


鼻声の自分に、内心、大溜め息の金の貴公子。


はぁー・・・・情けねぇ。


夏は薄着になるのは判ってはいたが、心の準備が出来ていなかっただけに、やられてしまった。


翡翠の貴公子は、どう思っただろう。


目の前で思いきり鼻血を流されて、嫌悪感を抱かれてしまったら、どうしよう。


いや・・・・鈍いあの人の事だから、自分が鼻血を流した理由など判ってはいないとは思うが。


どうやら鼻血が止まったのを確認すると、金の貴公子は上体を起こした。


執事がテーブルに朝食を並べてくれる。


「戴きま~す」


金の貴公子はスープの入ったカップを持つと、行儀悪くゴクゴクと飲む。


そして、ウィンナーにフォークを刺し乍ら、ふと思い出して言った。


「そう云えば、あの執事研修に来てたミッチェルンだかミッチューだかは、どうなったの??」


「ミッシェル=ド=ワイエルでございますね」


「そうそう。執事研修辞めたの??」


興味津々に訊ねてくる金の貴公子に、コホンと執事が咽喉を鳴らした。


「いえいえ。間も無く戻って参りますよ」


「どっか行ってんの??」


「ほほほ。間も無くです。では失礼致します」


珍しく可笑しげに笑うと、執事は答をはっきり言わないまま部屋を出て行った。


ミッシェル=ド=ワイエル。


どうやら、翡翠の館の期待の星の様だ。

この御話は、まだ続きます。


きびきびとした太陽の館の在り方に、遣る気になっているミッシェルは、


上手く執事見習いとして在れるのか?


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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