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ロックンロールベイベー

作者: Ness

 私は大きな過ちを犯した。今となっては、本当に後悔している。あんなことを考えつかなければ……


 二一三〇年六月十五日。私は、いつも通り福宮高等学校へ通学した。担任のAT(AI搭載型Teacher)ヒューマノイドタイプバージョン02−13(十三号とみんな呼んでいる)に出席を確認され、席に着いた。今では当たり前になっているが、昔は「教師」という職業があったらしい。学校での教育活動を全て人間の手で行なっていたという。考えただけでもゾッとするようなことだ。現在のように、机が電子式の画面になっていない状態でどうやって授業をするのか想像ができない。色々な事務作業や問題行動への対処、保護者への連絡、成績処理など全て人間が行なっていたのだという。現在の科学の発展に感謝しなくてはならないと改めて思った。

 しかし、私は一点だけAIには未だに理解できていないであろうと感じることがある。

 −−−音楽−−−

私の家は、古くから音楽一家だ。今は音楽もコンピュータで作成することがほとんどになったが、うちには古き良き時代のギターもピアノもある。実際にそれらを演奏している歌手は今はもう見ない。私は楽器が好きだった。機械では作り出せない生の音色。これだけはAIには理解できないだろうと思っている。そこで私は、ある計画を思い付いた。その時は、大したことない、小さな反抗のつもりだった。


 私は、クラスの友人と三人でバンドを組んでいた。どこかで披露したりするでもなく、近所の潰れた音楽スタジオに忍び込んで、ひっそりと練習していた。ある日、私はメンバーの二人にある提案をした。

「門松、久保田、聞いて欲しいんだけど……十三号を音楽でギャフンと言わせたくないか。」

「あの冷酷無情のロボットがギャフンというようなことがあるかよ。」

二人は呆れた顔をしている。

「明日の六時間目がホームルームの時間だろ。その時間にクラス全員を体育館に集めてライブをするんだよ。そしたら、教室に誰もいないから十三号も俺たちを探しに体育館に来る。そしたら、あいつにもロックを聴かせることができるだろ。それを聴いたら学習型AIは何を感じて、どんな反応をするのか……」

「ちょっと楽しみかも……学校生活にもちょっとくらい刺激があった方が人間らしいよな。」

「いっちょやってみるか。」

三人は、どうやって体育館でサプライズライブを実施できるか必死で考え、下準備に入った。機材の準備、クラスメイトへの連絡等着々と準備を進め、当日を迎えた。


 迎えた当日。五時間目まで平静を装って全員で授業を受け、休み時間になると必ず一度職員室へ戻る十三号を見送り、一斉に体育館へ忍足で移動した。六時間目のチャイムが鳴ると同時に、三人のライブは始まった。百年前に流行ったという昭和、平成あたりの有名なのか有名じゃないのかもわからないようなロックナンバーを二曲やり終えたところで、十三号が体育館にやってきた。最初は演奏をやめるように言ってきたが、構わずに演奏を続けた。さらに二曲ほど演奏し、十三号も諦めた様子で体育館後方から私たちを見ている。やはり、AIも生の演奏によるロックは理解できないから止めることができないんだと確信した。そして、最後の曲に移った。

「最後は、俺たちのオリジナル曲を聴いてください。“ロックンロールベイベー”」


 最後の演奏が終わった段階で、十三号は私たちも含め全員に、とりあえず教室へ戻るように指示を出した。私は十三号が怒る前に、このことを謝った方がいいよなと思っていたが、そんな間もなく十三号は教室に入るや否や、全員に、

「着席し、一言も喋らず静かに待つように。」

という指示を出した。考えていた。AIが音を立てて唸っているかのように考えていた。そして、十三号は顔を上げた。AIの自己防衛システムのようなものであろうか……十三号は教室の全てのドア、窓にロックをかけ、そのシステムを作動させた。


 今となっては、もう謝って済むような問題ではなかったと思う。取り返しがつかない状態まで十三号を追い込んでしまっていた。その後、十三号は粉砕され、跡形もなく処理された。そして、教育科学ロボット省はATの採用に関してもう一度考え直す必要があるとし、教育を根本から見直す方針を固めた。つまり、音楽が教育の世界を変えたのである。結果として、AIをギャフンと言わせることができたのかもしれない。音楽は偉大だ。しかし、今、私はこの報道を自分の耳で聞くことができない。本当に後悔している。世界はどんな狂気に満ちているかわからない。自分以外の犠牲は出してはいけない。どんなロックンロールベイベーだったとしても。


朝刊の見出し

 −−−ATが授業放棄した生徒全員を殺害−−−


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