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現実を知った話

 なんでもない日の放課後のことだった。


 その日、私は馬鹿なことに明日提出の課題を教室に置き忘れていて、しかもそれを家まであと半分くらいと言ったところで思い出して取りに行ったのだ。


 あのとき、もういいやって諦めてたらあんなに気まずいところを見ずに済んだのに。次の時間は急遽自習になるから課題はまた今度でいい、なんて知っていたら……なんて、後悔したってもう遅いしな。未来予知の能力が欲しい、切実に。


 来た道を戻ると、ちらほら同じ学校の制服の人とすれ違った。あの人の顔はなんか見たことあるな、あの人はないや、他学年かな?なんてくだらないことを考えながら学校に戻る。


 本当に自分馬鹿だな、なんて思ってたら案外早く着くことができた。


 部活動に励む体育会系の部活の声が響く。ご苦労なことだ。

 陸上部に所属する友達が、よく「部活だるい」とか「今日休んじゃダメかなぁ」なんて言って嘆いているけど、じゃあなんで入ったんだってなる。今度本人に聞いてみよう。


 私は玄関で上履きに履き替えて教室へ向かった。

 一年の教室は三階だ。なんでだ。

 小学校も中学校も一年生は一階だったのに、高校はどうして一年生が1番玄関から遠いんだ。解せぬ。


 ようやく自分の教室についた。扉の前でふぅっと一息ついて、開けようと取手に手をかけた。

 そのとき、私は聞いてはいけないことを聞いてしまった。


「……さん!好きです!俺と付き合ってください!」


 思わず膝から崩れ落ちた。

 聞いたことのある声、というか小学校から一緒の男の声だ。

 なんだこれは。なんなんだ。青春か?アオハルか?

 そこまで考えて私は、中に聞こえないように口元を押さえて笑った。


 まさか、まさかこんなに早く青春してる人が見られるなんて!

 私は少女漫画が大好きだ。三度の飯より少女漫画の女だ。こんなに胸熱な展開、私得でしかない。

 良いね青春!カップル誕生か!……なんて、現実はそう都合よくいくはずもなく。


「ご、ごめんなさい。私、そういうのよくわからないから……」


 私が告白した訳でもないのに胸が苦しい。でもこれは同情ではないと思った。理由はわからない。


「う、え……そ、そっか……そうだよね。急にこんなこと言われても困るよね」


 男子生徒は泣きそうな声で、けれど必死に笑おうとしているような、そんな声で言った。


「ごめんね……。本当にごめんね。あなたのこと、嫌いって訳じゃなくて……」


 対する女子生徒も、すごく申し訳なさそうな声をしている。


 なんだこれ……。思ってた告白と違う。


 告白とは、もっと、もっと甘酸っぱいものではないのか。こんなの、誰も幸せじゃないじゃないか。いや振られるパターンは漫画でもよくあるが、少なくとも振る方はノーダメージではないのか。むしろ自分はこの人に好かれているのだと、嬉しいものではないのか。


「……私用事あるからもう行くね。えっと、明日からも普通に仲良くしてくれる?……よかった。じゃあまた明日ね」


 まずい、教室からでてくる。聞かれてた、なんて知ったら双方のトラウマになるかもしれない。


 私はあたかも今きましたーなんて感じを装う為に来た方の廊下にちょっとだけ戻る。音を立てずに、かつ迅速に。


 ある程度戻ったところで教室の扉が開いて女子生徒と目が合う。

 彼女は驚いたように目を見開いた。


「あれ……?どうしたの?忘れ物?」


「うん。明日提出の課題忘れちゃって」


 私はできるだけ感情を悟られないように笑顔を貼り付けて、明るい声を出すように努めた。


「そうなんだ。……じゃあお先に帰るね。バイバイ」


 彼女はそう言って足早に帰路についた。


 たいして仲良くもない私に話しかけるなんて、動揺でもしてたのかな。それかたんに彼女がそういう性質の子という可能性もある。


 教室に入ると彼はぼーっと突っ立っていた。

 無視しようかとも思ったが、あまりに不自然な様子なので触れなかったら逆に違和感があるかと思って話しかけた。


「なにしてんの、そんなところで」


「わかんね」


「あっそ」


 その会話をして、自分の机から課題を取り出してこの場から去ろうとしたとき、「なぁ……」と声をかけられた。


「俺……なにやってるんだろうな。好きなやつ困らせて……」


 いやバレてる!?私は動揺を必死に押さえながらあくまで、あくまで聞いてませんよというスタンスを崩さない為に


「は?なに?告白でもしたの?」


 としらばっくれた。白々しかっただろうか。


「あ……いや。なんでもねぇ……」


 良かった。どうやら彼は気付いてなかったらしい。


 多少胸は傷んだが「私は帰るから。あんたも早く帰りなよ」と言って教室をでた。振り返ることはできなかった。背中越しに、嗚咽のようなものが聞こえたのは気のせいだろうか。気のせいということにしておこう。彼のためにも、私のためにも。


 漫画はあくまで漫画なのだ。フィクションなのだ。それを思い知らされた。知りたくなかった。


 明日、どんな顔をして彼らに会えば良いのだろう。それだけが気がかりだった。




最後まで読んでくださりありがとうございます。

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