7話・妖精さんは試験を受けるみたいです
「妖精を冒険者ギルドに登録するのか、うーむ」
「え? だめなの?」
ギルドマスターの一言にちょっとびっくりした。
もうシンディさんが登録してくれちゃったよ?
今更だめって言われても困っちゃうよ。
「いや、妖精の登録なんてしたことがなかったからな。ミサキと言ったか。お前さんはちゃんと戦えるのか? 冒険者は武力も必要だぞ。そもそもまともな体力はあるのか?」
「ぐふっ! 体力は自身ないですー。でも魔法使えるよー」
「ふむ。とりあえず試験をするか」
「ガーン!」
というわけで試験をすることになってしまいました。
試験といえば一夜漬けですよ。
眠い目をこすりながら頑張って覚えまくったっけなぁ、暗記科目は苦手なのに。
あれ? でもこっちの世界のこと何にも知らないよ。
試験なんて無理じゃん!
「では体力測定をするぞ」
あ、そっちですか。
お勉強はしなくてもいいのね、良かった。
そんなわけでギルドの裏手にある訓練場に移動しました。
なぜかゾロゾロとギルドにいた冒険者の人達もついてきました。
暇なの?
依頼受けないの?
お仕事しないの?
……なんてね、この状況だったら私でも見物に行っちゃうよね。
だって珍しい妖精の体力測定だもん。
気になっちゃうよんえ
これから一緒に冒険者として活動していくことになるはずの私が、何をできるのかをちゃんと把握しておきたいんだと思うの。
私の能力を見定めようと、みんな真剣なまなざしで私を見つめているはず。
あれ?
冒険者の人達はなんか雑談しながら適当についてきてるだけだ。
ほんとに単なるギャラリーなの? 暇なの?
なんとなく腑に落ちない気持ちになりながらも、最初の測定の準備ができたみたい。
駆けっこ。
50メートル走って速度を測るんだって。
でもストップウォッチとかは無いから、同時にギルドマスターも走って、どれくらい差がつくかで判断するんだって。
ちなみに時計自体は存在しているけど、とても高価でこんな辺境のギルドには置かれていないそうだ。
ラインの前で待っているギルドマスターの横に並んだ。
ギルドマスターは普通に立っているだけだけど、私はしゃがみこんでクラウチングスタートの姿勢をとった。
短距離走ならやっぱりこれだよね!
冒険者の人達がざわざわしてる。
やっぱクラウチングスタートを知らないんだろうね。
だってこれって競技として走るときにしか必要ないもん。
モンスターと戦ってる時にしゃがみこんでる暇なんてないし、そんなことしてたら危ないよ。
ちょっと得意になってスタートダッシュの練習をしてみる。
足の位置を確認して手を地面につけて、走り出す前の準備をする。
そして腰を上げて足に力を込めて一気に走り出す。
「おお」っという冒険者の人達の声が聞こえる。
ふふふん。きっとスタートダッシュの鋭さにびっくりしたのね。
うん、こんな感じでいいでしょ。
そして本番。
冒険者の人達が近寄ってきて私の後ろ側に回り込んできた。
え? こっちのほうが良く見える?
ま、いいけど。
後ろなら視界に入らないから邪魔にならないし。
審判役のシンディさんがスタートの合図をする。
「よーい」
準備の掛け声に合わせて腰を上げて前傾になり、グッと足に力を入れる。
冒険者の人たちの「よしっ!」という小さな声が聞こえた。
「スタート!」
掛け声に合わせて一気に飛び出した。
ギルドマスターはスタートに失敗したのか、少し遅れて走り出したみたいだ。
私は必死に足を動かす。
でも、あっさりギルドマスターに追い抜かれてしまった。
なんでー?
っていうか、当たり前だよ。
足の長さ、つまり歩幅が違いすぎるのだ。
いや、無理でしょ。勝てっこないでしょ。
そして気が付いたら、体が浮いていた。
早く進みたいって思っていたら無意識に飛んでしまったみたい。
キューンって飛んでギルドマスターを抜き返してゴールしちゃった。
「おい、飛ぶのはずるいぞ」
「え~、だって私妖精だよ。急ぐときは飛ぶのが普通なんだよ。だから問題ないよ!」
「いや、体力測定が目的だったんだがな」
ぐふっ!
でもね私は初心者だけど妖精なのだ。
飛ぶのが普通なのよ。
仕方がないのよ。
「まぁいいか。俺よりも早く移動することができるというのはわかった」
うんうん。
「つぎは腕力だな。どれだけ重いものが持てるか確認だ」
うあ。無茶を言いますね。
か弱い私にどうしろと言うのよ。
「そこに寝転がってみろ」
そう言って指さされた場所には、皮が張られた椅子みたいなものが置かれていた。
「え? どうするの?」
「ああ、俺がやって見せるから同じようにしてみろ」
そう言うとギルドマスターは、同じような椅子みたいなものにあおむけに横たわった。
そしてフックに掛けられていた鉄の棒を下から持ち上げた。
なるほど、ベンチプレスね。
それならわかるよ。
ギルドマスターの椅子とは違って、こちらはただの木の板に皮が張ってあるものだ。
「よいしょっと」
その椅子みたいなものを足を大きく開いて跨ぐように座った。
うーん、もうちょっと細いほうが踏ん張りやすいんだけどなぁ。
幅が広くて結構足を広げないと跨ぐことができなかったのだ。
「大丈夫か?」
「うん」
冒険者の人達も足元のほうに集まってきて、私の準備が整うのを見守ってくれていた。
でもなんで足元のほうにみんな集まるんだろう? と、ちょっと疑問には思ったけど。
それでもみんなに見守られながら返事をして、羽を折らないようにたたみながらあおむけに寝転がった。
さてと、私は何を持ち上げればいいのかな。
「まずはこれを持ち上げてみろ」
寝ている私に鉄のクギが手渡された。
「うん、これぐらいなら大丈夫だよ」
けど結構重いよ、これ。
そっか、今の私にはこれでも重く感じちゃうのか。
うーん、妖精って非力だなぁ。
「じゃ次はこれな」
渡されたのはちょっと太めの鉄の棒。
「お、重っ!」
ギルドマスターは片手で気軽に持っていたから大丈夫だと思っていたけど、私にはかなり重かった。
広げた足で踏ん張りながら何とか持ち上げることに成功した。
「じゃ次はこれな」
「ぐえっ」
さっきと同じ太さだけど、もうちょっと長い鉄の棒が渡された。
でももう腕だけでは支えることができずに、胸を圧迫してしまった。
やばい、重い、無理、つぶれちゃう!
とっさに身体強化の魔法を使ってしまった。
「うがっ」
あ。
力が急に入った反動で鉄の棒を投げ飛ばしてしまって、それがギルドマスターに当たってしまったのだ。
「ああ! ごめんなさい!」
「いや、大丈夫だ。それよりも今、魔法を使ったのか?」
「うん、そのままだとつぶれちゃいそうだったから」
「無詠唱で一瞬で魔法を発動? うーむ、すごいな。だが身体測定に強化魔法は使っちゃだめだろう」
「そうだけど、私にはあんな重いの無理よ」
「わかった。腕力の測定はここまでだな」
ふう。
やっと終わった。
「ねえねえ、ほかのみんなの結果はどんな感じだったの?」
「ん? みんな? お前以外にこんな試験したこと無いぞ」
「え?」
「ほかの奴らはたまに俺との模擬戦をすることがあるくらいで、登録すればそれで終わりだな」
「な、なんで私だけこんな面倒なことするのよ!」
「もちろん妖精だからだな。みんな興味があるんだよ」
それだけの理由なの? 興味本位だったの?
むぅ。
私、怒っちゃうよっ!
ミサキは気づかなかったのですが、冒険者たちの間では最高のポジションを巡って争いが起きていましたw
読んでいただきありがとうございます。
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……ストックがぁ