6話・妖精さんはギルドに登録するようです
そして到着しました冒険者ギルド。
入り口の扉は開いたままで中が見えるようになっているよ。
ゴクリ。
中に入るのがちょっと怖い。
そう、だってきっとテンプレが発動するのだから!
ああ、考えていてもしょうがない。
入り口で待っていてくれたアキトとともに、中へと入っていった。
中に入っていくと、目ざとく私を見つけた人が何人かいた。
その人たちは皆、目を見開いて私を凝視している。
私は開き直ってそちらに向かって手を振った。
「こ、こんちはー♪」
「おおう! 妖精だ! 妖精がいるぞ!」
「やべー、妖精超可愛い!」
「しかも裸だぞ! 裸の妖精だぞ! なんで裸なんだ!」
うわー、やっぱり大騒ぎになっちゃったよ!
最初に気付いた人だけではなく、ギルド内にいた冒険者全員の注目を浴びてしまったのだ。
大勢の、それも冒険者という厳つい男性たちの視線に、私はさらされている。
その視線が胸や腰のあたりに集中しているのがはっきりとわかり、恥ずかしさで体を隠したくなる。
はうぅ、アキト、何とかしてー!
そんな冒険者たちに対して、アキトが一言返した。
「ん? 妖精だから裸に決まってるじゃないか」
いや、えーと、アキト君?
だからね、そこに対しての返事じゃなくてね、私が妖精だっていうことのほうが重要なんじゃないの?
どこで出会ったとか、そういう話をするんじゃなかったの?
「そうか。妖精なら全裸でもしょうがないな」
「確かにそうだな。妖精が全裸なのは当然だよな」
「可愛いんだから裸でも問題ないな」
いやいや、冒険者の皆さん。
それで納得しちゃうの? それでいいの?
でもほんとにその答えで満足したのか、騒ぎは収まっていってしまった。
私に対して集まっていた視線も一気になくなっていったのだ。
えー。
私妖精だよ。
初心者だけど妖精だよ。
絶滅危惧種で絶賛行方不明中の妖精だよ。
それが100年ぶりに現れたんだから、そっちに注目が行くんじゃないの?
ま、まぁ、騒ぎが収まったのはいいことだから、なんか釈然としないけどとりあえずは良しとしておこうか。
そして私はアキトと一緒に受付カウンターに向かっていった。
「こいつを新規登録で頼む」
アキトが受付の女の人にそう伝えた。
それに合わせるように私はカウンターの上に、シュタッ! と着地した。
「よ、よろしくー」
「え? ええ? えええええ? よ、妖精がしゃべったー!」
いや、そりゃしゃべりますよ?
ていうか、さっきまでの騒ぎに気付いてなかったの?
「か、可愛い! 妖精さん可愛い! なんで妖精さんがいるの? それになんで裸なの?」
そんな受付の人に対して、アキトが一言返した。
「ん? 妖精だから裸に決まってるじゃないか」
いや、だからね、アキト君?
妖精が現れたっていうことについての説明のほうが重要なんじゃないの? 違うの?
「そうね、妖精さんなら裸でも問題ないわね。可愛いし、裸じゃなきゃいけないよね!」
いや、ちょっと待ってよ。
私は好きで裸でいるんじゃないんだからね。
服があれば欲しいんだからね!
「そういうわけだから、登録を頼むよ」
うわぁ、アキトもそのまま流しちゃったよ。
「あ、はい、わかりましたアキトさん。えーと、妖精さん、お名前は?」
「私は神崎美咲。登録はミサキでお願いします」
「はい、わかりました。文字を書くのは無理そうですから、私が代筆しますね。名前はミサキ、種族は妖精っと」
うんうん。今の私にペンを持って書けと言われても無理だからね。
そういえば異世界転生のお約束として言葉は普通に分かるね。
文字を読むこともできるよ。
言葉の通じる世界観でよかった!
しかし、このちっちゃい体は普通に生活するうえでも色々と不便だね。
日用品とか揃えられるかな?
「使用武器とかありますか?」
「武器は使えないけど、魔法を使えるよ」
「あ、そうですね。こんなちっちゃな武器なんて無いですよね」
「ああ、ミサキの魔法能力は俺が保証するよ。結構強いぞ」
「わかりました。アキトさんが保証していただけるなら確実ですね。お二人はパーティを組むということでよろしいでしょうか」
「ああ、それで頼むよ」
「かしこまりました」
おお、アキトが随分と信用されているね。
冒険者ランクはBランクだっけ? それでかな?
「はい。ではこれで登録完了です。カードができるまで少々お待ちください」
「はーい」
ふぅ。これで私も冒険者だ、冒険者になってしまったよ。
冒険者って異世界もののテンプレ職業だよね。
最初は何の依頼を受けようかな。やっぱ薬草採取かな。それともゴブリン退治?
「あ、あの、ミサキさん。体に触ってもいいですか?」
んー、やっぱ妖精って珍しいんだろうね。
女の人だし、いいかな。
「いいよー。でも痛くしないでね」
「はい! ありがとうございます! あ、私はシンディと言います。よろしくお願いします」
シンディさんね、覚えた。
握手、は無理だけど、私が伸ばした手をシンディさんは指でつまむように受けとめた。
「ふわぁ、ちっちゃーい」
はわわ。
シンディさんの指がそのまま腕を伝って体のほうまで伸びてくる。
そしてそのままヒョイっと掴まれ持ち上げられてしまった。
「ふわぁ、かるーい。柔らかくてすべすべだぁ♪」
うひぃ。
シンディさんは私を目の前に持ってきて、全身をじっくりと見てる。
前から後ろから上から下から、ひっくり返したり、回したり、いろんな角度から見られてしまった。
恥ずかしー!
わひゃー。
そして私の体のあちこちを、触れたり、撫でたり、揉んだり、摘まんだり、引っ張ったり、いじり始めた。
くすぐったいってば! そこはダメ! ダメだってば! 同じ女の人ならわかるでしょ? そういう敏感なところは触らないで! 広げて見ないで! 裂ける!裂けちゃう!
「ぎょわー! やめてー! 私は人形じゃないのー!」
「あ、ご、ごめんなさい! つい、気になっちゃって、ほんとごめんね」
「はうう」
涙目になって体を隠そうとしている私に、ペコペコとシンディさんが謝っている。
そんなところに、声がかけられた。
「何を騒いでいるんだ? シンディ?」
「あ、ギルドマスター。あの、こちらに新規登録で妖精さんが現れたんです」
「何、妖精だと?」
奥から出てきたのは、目つきの鋭い40代くらいの男の人だった。
筋肉質でガッシリとしていて強そうだ。
うん、怖い。
「こ、これは、本当に妖精か! どこから現れた? なんで裸なんだ?」
そんなギルドマスターに対して、アキトが一言。
「ん? 妖精だから裸に決まってるじゃないか」
いや、もうわかったよ、アキト君。
君は私が裸でいることが一番重要だと判断しているんだね。
でもさすがにギルドマスターなら、そんなことより妖精のことについて聞いてくるよね?
「ん? そうか。まぁ妖精だから全裸でも仕方がないか」
ギルドマスターまで納得しちゃったよ!
もういいよ。
私の正体とかについては誰も気にしてないみたいだし、そのほうが面倒臭くなくていいし!
あとがきのネタがなくなった!
読んでいただきありがとうございます。
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