4話・妖精さんは魔法を練習するようです
魔法を使ってみよう! そうしよう!
「魔法ってどうやって使うの?」
「魔法は、意識を集中させて呪文を唱えることで発動するものだよ」
「え? 呪文? それ覚えなきゃいけないの? めんどくさいなぁ」
英単語帳みたいにして覚えなきゃだめかな?
自慢じゃないけど単純な暗記科目は苦手なのよ。
やっぱここは妖精の不思議パワーでいけないかな。
意識を集中ということは、魔力を感じればいいのよね?
自分の体に意識を集中させると、おなかの中に何か熱いものがあるのが感じられる。
それに集中しながら、目の前に火の玉が出るように念じてみる。
「ん~、とりゃ!」
シュボッ! と火の玉が現れた。
あ、出た。
なんだ簡単じゃん。
意識をそらすと消えてしまった。
「えいやっ!」
火の玉を川に向かって飛ばすようにイメージしてみた。
シュボッ! と現れたかと思うと、ヒュンッ! と川に向かって飛んでいき着水。
ドッパーン! と水しぶきが上がった。
おお、いけるね! 面白いよ!
もっと大きいのを出してみようか。
さっきのは私の手のひらに乗る程度だから、かなり小っちゃかった。
それでもソコソコの威力はありそうだったけど。
で、今度は少し時間をかけて火の玉を出現させてみた。
といっても3秒程度だけどね。
ギュイン! と現れたのは直径3メートルほどの巨大な火の玉。
危ないので目の前ではなく少し離れた空間に出現させた。
「えいやっ!」
さっきと同じく川に向かって飛ばすと着水と同時に、ズドーンッ! という重い響きとともに巨大な水柱が立ち上る。
ひえええー。
川底をえぐってクレーターができちゃってるよ。地形が変わっちゃってるよ!
やばい、やりすぎ?
「え? え? ミサキ! 今のって魔法?」
「うん、たぶん」
平静を装ってそれだけ答える。
よ、よし、今度は水を出してみよう。
コップに近づいて、空気中にある水分を凝縮するようにして、水を呼び出してみる。
コポッ。
やった! あっさりと水が出た。
でもこの方法だと問題があるよね。
砂漠みたいに水分のないところだと水が出せないじゃん?
きっと魔法って魔素とか魔力を基にしているんだよね。
だったらそれを直接変換しちゃえ。
それなら大丈夫でしょ。
コポッ。
やった! こっちも成功。
こっちの方法のほうが疲れるような気がするから、普段はやっぱり水分を集める方式だね。楽だから。
でもこれで水をどこでも出せるから生きていけるよ。
「その水って飲めるのか?」
「うん、たぶん」
コップをアキトに渡した。
大丈夫だと思うよ?
飲んでみてね。
あとは定番の魔法といえば、収納系だよね。
耳をかじられた青い猫さんの秘密道具をイメージしてみよう。
落ちていた石ころを、ひょいっとポケットの中に放り込むようにイメージしてみる。
お、消えた。
中にしまったものをイメージしてみると、石ころが思い浮かぶ。
で、それを取り出すようにイメージすると、手の上に現れた。
おお、出てきた。
「まさかそれ、収納魔法か?」
「うん、たぶん」
どれくらい入るかな?
目についた小石から大きめの岩まで、何でもかんでも取り込んでみた。
うん、大丈夫。
少し高めに飛んで川の上に移動した。
そしてそこから収納した石を落としてみた。
ボトボトボト。
ポチャ、ポチャ、ドパーン。
おお、うまくいった。
もっと高いところから魔獣の上とかに落とせば、攻撃になるんじゃないかな。
大きさの限界も試して見たいし、もっと大きな岩があったら取り込んでみよう。
「ミサキ、無茶するなぁ」
「え? そう?」
非力な私でもこれで物理攻撃できるよ。
高度を上げればちっちゃい私は見えにくそうだし、結構役に立つよ? たぶん。
でも魔法って便利だね。
こうしたい、って思ったことができちゃった。
何ができて何ができないかは、時間のある時に試してみよう。
「ミサキ、魔力不足にはなっていないのか? 結構魔法使っていただろ?」
「えーと、特に感じないけど」
「そっか、妖精はすごいんだな」
「ほんと、すごいんだね」
いやー、妖精初心者なもんで、よくわからんですよ。
そんなことを話しているうちに、すっかり暗くなってきた。
「ちょっと早いけどもう寝ようか」
「うん、私、疲れちゃった」
魔法のせいではなくて、異世界に転生してしまった(しかも妖精で)という、意味不明な状況に精神的に疲れてしまった。
これでも結構我慢してるよね、できてるよね、私。
家族のこととか、友達のこととか、きっとみんなショックを受けてるだろうな。
突然の事故死。
しかもあんな状態で。
あれが拡散されていたらどうしよう?
恥ずかしいよ!
戻りたくない!
いや、うそ、それでも戻りたい。
静様のグッズが見たい!
……。
はぁ、いい加減寝よう。
考え事してると変なことばかり考えて、グルグル回っていつまでも終わらない。
「ぐおおおおおーーーー」
「ずびびびびびーーーー」
「ふがががががーーーー」
ああ、うるさい!
アキトのいびきがうるさくて寝られないよ!
家のお父さんもいびきがひどかった。
1階で寝ているお父さんのいびきが、2階の私の部屋まで聞こえてきたからね。
「アキトーーーー! うるさーい! うるさくて眠れないよ!」
「んあ? ああ、ごめんよ」
「どうにかならないの?」
「うーん、あれを使ってみるか? さっき風呂に入った時の薬草。 ミサキがそれを飲めばぐっすり眠れると思うぞ」
「ああ、そっか! それいいね! あの薬草って爽やかですっきりできるから、私、好きだよ」
「じゃ、ちょっと用意するから待ってな」
ゴリゴリゴリ。
薬草をすりつぶして、お湯に溶かしてくれたのを用意してくれた。
それを受け取って、ゆっくりと飲み干した。
コクコクコク。
うーん、すっきり! 身体がポカポカしてきて、瞼が重くなってきて、意識が遠くなっていく。
それからお風呂の時と似たような感覚が襲ってきて、身体をあちこち撫でまわされたり揉まれたり擦られたり、身体の内側まで擦られたり掻き回されたり、そして一番奥で何かがビクビクって震えると熱いものが弾けるように溢れだしてきて、体がピーンってなっちゃって、そんな不思議で色々な感覚が全身を駆け巡って、あまりにも気持ちよくて頭が真っ白になって、完全に意識が飛んじゃった。
はふーん。
やばくないからね。