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2話・妖精さんはお風呂が気持ちいいそうです

 私はアキトの少し前のあたりをゆっくりと飛ぶことになった。


 道のわからない私のほうが後ろに付いていったほうがいいんじゃないかと思ったんだけど、前にいて見えていたほうが安心できるんだって。

 私が後ろだと、はぐれちゃっても気づかないから。

 確かに私、ちっちゃいしね。


 そんな感じで一緒に森の中を移動。

 魔獣に見つからないように、あまりしゃべったりしないで黙々と移動。


 私は体も小さいし飛んでいるから、草とかに邪魔されることはない。

 けど、アキトはちょっと苦労している。

 私が変な方向に行ってしまわないように、飛んでる私のこともよく見ながら足元にも注意しないといけないから。


 うん、じっくり見られてる。

 裸の私を、全部見られてる。


 エロい目線じゃなくて、私の安全を気にかけてくれているからってのはわかるんだけど、うう、やっぱ気になるよ。

 下手に意識してしまうと、どんどん気になってしまうから、特に隠したりしないで普通を装っている。


 落ち着こう。

 落ち着こう。


 ふぅ。


 うん! やっぱ飛べるのって楽ちんでいいね。


 切り替え、切り替え!


 でもね。


 うーんとね。


 飽きたのよ。


 どこまで進んでも景色は変わらないし、ひたすら似たような木の間を抜けていくだけという状況に、飽きたのよ。


 なので、飛び方を変えて遊んでみた。


 平泳ぎのように空気を大きくかき分けるようにしたり、あおむけになって背泳ぎしてみたり、ドリルみたいに回転してみたり。

 ……ドリルはちょっと酔った。


 ま、まぁ、そんな感じで 暇をつぶしながら? 森を移動していると木の数がまばらになりとうとう抜けることができた。


「やった! 森を抜けたよ!」


「なんとか魔獣に出会わずに済んだな」


「ねえ、魔獣ってそんなに危険なの?」


「いや、このあたりなら俺一人でも別に問題ないんだけどな。ミサキを守りながらだとちょっと厳しいと思ったんだ」


「あう。ごめんなさい」


「いや、気にしなくていいよ。それよりもう少し行けば小川に出るから、そこで野営の準備をしよう」


「うん」


 小川についたよー。

 川の水はきれいで、飲んでも大丈夫だって。


 流れの緩やかなところで自分の顔を映してみる。


 あれ?


 確かに自分の顔だ。

 ちゃんと自分だと認識できる。


 けどなんか違う。

 記憶の中にある見慣れた顔よりも可愛いのだ。

 いや、自意識過剰とか言わないでね。


 私の顔は自慢じゃないけど、普通だった。

 うん、普通。


 おかげで特別モテルということもなくて、告白なんてされたことは一度もなかった。

 だからと言ってブサイクとか言われたこともない、普通だったのだ。


 それがなんだか可愛くなってる。


 どうもちょっとずづ顔のパーツがいじられていて、印象が変わったみたい。

 目がちょっとだけ大きくなったとか、鼻がちょっとだけ高くなったとか、顔の輪郭がちょっとだけすっきりしたとか。


 あれだよ、あれ。

 写真を撮ると自動補正機能で可愛くなるってやつ。


 それがわざとらしさもなくて、自然に補正されているおかげで、違和感を全く感じないで可愛くなったように見えたんだ。


 なんかラッキー?


 例えば【異世界転生したら可愛い妖精ちゃんに変身してました】なんてタイトルが付いちゃうかも?


 でも身体のほうは全然変わっていないような気がする。


 ……どうせならもうちょっとおっぱい大きくなってほしかったな。


 いや、特に小さいってことはなかったんだけどね。

 なんとなくね、顔が変わったんなら、プロポーションも良くなってもいいんじゃないかと思っただけなのよ。

 まぁ、体形が変わっていないから、体を動かしたときに全く違和感を感じないのはいいことだと思うけど。

 ……揺れ具合とかもね。


「何やってんだ?」


「うわう!」


 水面に向かってわちゃわちゃしていたから、気になったみたい。


「な、何でもないよ!」


「そう? ああ、ミサキは結構かわいいと思うぞ。普通の人間だったら是非色々とお相手してもらいたいくらいにね。くくく」


「ふえ? お相手って? え? バカ! スケベ!」


「くくく。残念だなー。妖精はちっちゃいもんなー。ほんと残念だなー」


 こ、これは乙女の貞操の危機よ!

 なーんて、そんなこと起きるわけないんだよね。

 だって、サイズ合わないもんね。


 ま、棒読みだし、冗談だっていうのもわかるし、気にしないことにするよ。


「じゃあ夕飯の用意をするから、しばらく待っててくれ。遠くには行かないようにな」


「うん。何か手伝う……のは無理かな」


「気にしなくていいよ」


 そう言うとアキトは、その辺の石を組んでかまどっぽいものを作り、枯れ木を放り込んで火をつけた。

 そして荷物の中から鍋を取り出し、川の水を汲んできて湯を沸かし始めた。


 お湯。


 お湯だ。


 鍋の大きさは私よりも少し大きいくらい。

 そこにたっぷりのお湯が入ってる。

 つまり、お風呂だ。

 お風呂なのだ。


 ああ、入りたい。


 じーっと眺めていると、声がかかった。


「あー、えーとミサキ? 風呂に入りたいのか?」


「うん!」


「じゃあいいよ」


「いいの!?」


「いいよいいよ」


 そう言って鍋をかまどから外して、熱くなりすぎないようにしてくれた。

 指を突っ込むと「ふむ」とか言ってコップで川の水を継ぎ足した。


「ほら、入ってみな」


「わーい」


 ちょっとワクワクしながら鍋風呂に近づいた。


 まずはお湯を手ですくって、身体にかけていく。

 ああ、あったかい!


 全身に満遍なくお湯をかけて、簡単に汚れを洗い流してから、ゆっくりと鍋風呂に入っていった。


「ふわぁ~」


 すっごく気持ちよかった。


「ごくらくごくらく~♪」


「気持ちよさそうだね」


「うん、とっても気持ちいいよ~。ありがとね~」


 いやぁ、本当に気持ちいい。

 感謝しかないよ。


 こうなると、ちゃんと汚れを落としてきれいにさっぱりしたいよね。


「ねぇ、石鹸とかはないの?」

「石鹸か、ちょっと待ってて」


 アキトが荷物を漁って何かを持ってきてくれた。


「これでどうかな」


 そう言って出されたものは、液体の入った袋だった。


「それはどうやって使うの?」


「こうするんだよ」


 私を左手でつまみ上げて、右手で液体を掬うと、そのままゴシゴシと私の体を洗い始めた。


「ひえええーー」


 うきゃー! なんてことするのよ!


 くすぐったい! わきの下に指を入れないで!


 あ、背中、そこ弱いの! くすぐったいの! ゾワゾワするの! やめてー!


 ダメ! そこはダメ! 胸はダメ! 先端は敏感なの! イヤー!


 ええ? まさか、そっちはほんとにダメ! 足を広げちゃダメ! あ! んんっ! だめっ! そこはっダメッ! ああっ! イヤー!


 はぁはぁ、え? 後ろ? そこもダメなのっ! 汚いの! おおおう! だ、だ、だ、ダメー!


「はうー、もうダメー、死ぬー」


 全身を洗われたあと、石鹸の泡を洗い流されてきれいになった。

 でもね、もうぐったりだよ。へとへとだよ。


 確かにね、きれいになってさっぱりしたよ?

 でもね、乙女としては色々とイケナイことをされてしまったのよ?

 はうー、なのよ?


「そうだ、この薬草も入れてみようか? リラックスできるよ」


 薬草? この精神的な疲れも吹っ飛ぶかな?


「ほんと? 入れてー」


「よし」


 アキトは荷物の中から薬草の束を取り出すと、クシャクシャと揉んでから鍋の中に入れた。


「ほんとはすり潰してから入れるんだけど、これでも十分だと思う」


「ふーん、そっか」


 お湯に溶け込んだ薬草のエキスが爽やかな香りを放つ。

 その香りが心地よい。


「ふああぁ、本当にぃリラックスぅできるねぇ」


「おーい、寝ると危ないよ」


「ふえぇ?」


 疲れてたし、気持ち良すぎて寝ちゃいそうだよ。


 くぅ。


 すぴー。


 くかー。


 ほんと、気持ちいいよー。


 鍋風呂の中でふわふわ浮かびながら、身体を優しく撫でまわされるような、柔らかく揉み解されるような、身体の内側をかき回されるような、いろんな感覚を全身で内から外から感じまくって気持ちよくなって、身体がピーンってなったあと、頭がぽわっとなって、全身から力が抜けていった。


 はふーん。


ヤバイ薬じゃないです。

普通にリラックスできるハーブティーなんです。

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