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かわいい「あの子」

作者: 硴月 楸

久々の小説投稿!!!!!

この作品は大学のサークルで部誌に載せて頂いたものです!どうせなので、いろんな方に読んで頂こうかと思い、投稿させていただきました!!

ゆるっと読んでいただければ幸いです(*´꒳`*)

 時の流れとは早いもので、つい最近まで大学でバカ騒ぎしていた俺たちも今や立派な社会人である。


「お前は彼女できたのか、冴島?」


 ……だからこそ言いたい。その質問をそいつにしてほしくなかった。


 長い学生生活を終え、社会に出てからはそれはもうあっという間で、気づけば世間は大型連休。俺もこの機にゆっくりしたいものだったが、それほど休みがもらえるわけでもない。ならば、と俺は思い切って昔の仲間たちに声をかけ、同窓会ならぬイツメン飲み会を催すことにした。メンバーは大学時代に特に仲が良かった奴らで、俺、冴島、田所、矢吹の四人。最悪断られるのは覚悟していたが、皆一様に二つ返事で了承してくれた。

 かくして、そんな気の置けないメンバーが集まり、宴は始まった。すっかり舌に馴染んだ酒のせいもあって場が盛り上がるのにそう時間はかからなかった。学生時代の話から今の職場での話など…それはそれはいろんな話題を肴に酒の進むこと進むこと。そしてだいぶ場も落ち着いたころ、そのうち話題は「彼女がいるかどうか」という話になっていった。正直、野郎どもの恋バナとか誰得だよって感じだったが、冒頭の田所の一言で俺はそれどころではなくなった。


「冴島はこのメンツの中じゃ顔もいい方だし、彼女ぐらいいんじゃねーの?」

「たしかにぃ! 俺も気になるぅ!」


 冴島は俺たちの中では断トツで顔がいいやつだ。だが、あまり喋らず、表情も大きい変化が起きないためよく遠巻きにされる…などなど、残念なところの多い奴でもあったりする。

そんな残念な面を知ってるからこそ俺たちはこいつは早く彼女でも作って落ち着いてほしい思ってたりする。ならばこそ、普通なら俺も田所や矢吹のように同じノリで彼女の有無を追及するべきなのだろう。だが、現実はそうはいかない。俺はこの場で唯一こいつの「あれ」を知っているのだ。

そう……だからここは俺が何が何でも話をそらさなくてはいけない。この二人のためにも。こいつのためにも、だ。


「おいおい、そういうお前らはどうなんだ? 冴島よりお前らの方が心配だろ」

「は? いるわけねーだろ。お前には俺がどんなふうに映ってるわけ?」

「あ、えっと……すまん」

「なぜ謝る!? 逆に傷つくわ!!」

「ウケるww さすが須田っちwwwつか、そういう須田っちこそ彼女いたりして……?」

「俺は仕事が恋人だから」

「うっはー! 出ました、虚しい言い訳ベスト1位「仕事が恋人論」!!」

「うっせ」

「……んで、矢吹もいないとして」

「え、ちょ……俺、何気にいない設定にされたんだけど?」

「合ってるだろ?」

「合ってるけど!」

「……んで、冴島は?」


 なんとか話題を逸らそうとするも、結局着地点は変わらず、みんなの視線が未だ沈黙を守る冴島へと集まる。ここで冴島が適当にごまかしてくれれば一番有難いのだが…


「……彼女ならいるが?」


冴島のあっけらかんとした答えに俺はそっと息を吐いて額へと手を当てた。やはり現実はそううまくはいかないものだ……。そっと田所と矢吹へ視線を向けるとそんな俺とは反して、それはもう水を得た魚みたいに目を輝かせていた。


「まじか! うっわまじか! よくやったな!」

「え? え? ちな彼女って年上? 年下?」

「年下」

「FOOOOOO!! やるぅ~~~!!」


 ……こうなることはわかっていたが、やはりうるさい。特に矢吹の声はやたら頭に響いて腹立つ。こうなってはもう止めることはまず無理だな……残念なことに。


「お前ら、うるさい……」

「いいじゃねぇかよ! せっかく勝ち組見つけたんだから、ここはあやかっていろいろ聞いとくのがセオリーってなもんだろ」

「そーそー! サエマン先生にご教授願おうぜ!」

「聞いても何の得にもならないと思うけどなぁ……俺は」

「はいはい、そういうのいいから。……で? で? その子ってさ、顔は美人系? かわいい系?」

「かわいい系」

「おお! 年下でかわいいとか最高じゃねーか!」

「ああ、最高」

「ひゅ~ひゅ~! お熱いねぇ!」


 酒のせいか、俺の制止も聞かず三人はどんどん目に見えて盛り上がっていく。負け組の二人はともかく、勝ち組である冴島までもがノリノリだ。よく見ればわかるが、冴島の表情が若干緩んでいるのがその証だ。……まぁ、あの子のことを話しているんだから当然と言えば当然のことだが。


「じゃあ次は……ズバリ、出会いはいつどこで?」

「去年にショッピングセンターで。ガラス越しだったけど……俺が一目惚れした」

「うっはぁ! ご馳走様でーす!」

「お前、変なところで一目惚れしたなぁ」

「そうか?」

「まあいいけど。……で? デートは何回行ったんだ? つか、彼女の部屋とか行った?」

「デート……?そんなのはしたことない」

「「……え?」」

「それに彼女の部屋と言われても……そもそも一緒に住んでるからなぁ……」

「「……は?……はああああぁぁぁっ!?」」


 ああ、頭が痛い。冴島の発言に二人は今まで以上の叫びを上げ、鼓膜が破れてしまいそうだ。いくらここが個室とはいえ、もう少し周りの迷惑を考えてほしいものだ。

 ……いや、まぁ……気持ちは察するがな。


「同棲ってお前っ……いつからだよ?」

「出会ってすぐ」

「はっや!」

「最初はあいつも初めての環境のせいかなかなか心を開いてくれなくていろいろと大変だった……」

「え……いろいろって……」

「あ、でも今ではすっかりラブラブだから問題ない」

「問題ないって……それ問題あるやつの言い方じゃ……」

「問題ない」

「……なぁ田所。なんか危ない香りすんだけど。あの言い方で問題ないわけがないよね……俺こぇえよぉ」

「おい、ひっつくなよ……気持ちはわかっけどさぁ……」

「何やったんだよぉ! こえぇよサエマ~ン……」

「あ、すみません。会計お願いします」


 喜々として話を聞いていた二人は徐々にその表情を曇らせていき、やがておびえたように声を潜めはじめた。当然だ。今までの話を整理すると、ショッピングセンターで見かけた「彼女」をその日のうちに部屋に連れ込み、心を開いてもいないのに同棲を始め、「いろいろ」することでようやく彼女は心を開いてくれた、と。こんな感じだ。

 ……うん。監禁魔かな?

話を聞いただけなら正直、そう思われても仕方がない。というかそれ以外考えられないだろう。二人のおびえようがいい証拠だ。

 まぁ、今の俺には関係ないことだがな。


「な、なぁ冴島。……悩みがあんなら聞くぜ?」

「? 突然なんだ?」

「いや……その、な」

「ね……」

「?」


 どうやら二人は「悩みがあるせいで奇行に走っている」と判断したらしい。だがもちろんそんなわけはないので二人の心配の声に冴島は首をひねるばかりだ。冴島も冴島で二人の反応の悪さにさすがに違和感を感じ始めたらしい。わずかに表情が曇ってきているのがその証拠だ。

……だいぶ静かになってきたし、そろそろ頃合いだな。


「ほらお前ら、そろそろお開きにすんぞ」

「え……あ、ああ。そうだなそろそろ出るか」

「そ、そだね! あ、でもタンマ。俺、トイレ行きて」

「! お、俺も!」

「さっさと行ってこい」

「うい!」


 いそいそとトイレへ消えていく田所と矢吹を見送り、俺は大きく息を吐くと呆然とする冴島をにらみつけた。


「……おい、バカ冴島」

「な……っ!? バカって……」

「バカはバカだろ。自覚なしとかより救いようがねぇな」

「……なんか当たりが強くないか?」

「自業自得。……あのなぁ、またやらかしてんじゃねーよ。いくら「あの子」が可愛いからって大事なこと抜かしてさっさと話し進めやがって……おかげであの二人も俺同様とんだ勘違いをしたまんまだぞ」


 俺の言葉を受けて冴島は何か言いたげだったが、しばらく黙り込んだ後にようやっと思い至ったらしく、徐々に目に見えて顔色が悪くなっていった。


「……まさか」

「そのまさかだよ。おかげでお前は今後あの二人に監禁魔扱いされるだろうよ」

「……ちょっと、俺もトイレ」

「あいよ」


 あわただしく立ち上がると、冴島は顔を真っ青にして部屋を出ていった。これでとりあえずあの二人の誤解は解けるだろう。何せたった一言言うだけですべて解決するのだから。


……実は、「彼女」っていうのは人ではない。猫だ、と。


 とはいえ、この事実を聞いたところで猫を彼女と呼ぶなんてバカか、とだれもが思うだろう。俺も思った。しかし、思い出してほしい。


……冴島は、残念な男なのだ。


その要因の一つに「超が付くほどの猫好き」というものがある。ここまで言えば察する者も多いと思うが……つまりだ。

去年、ショッピングセンターの一角にあるペットショップである「猫」に一目ぼれしてしまった冴島は、溺愛するあまりいよいよその「猫」を「彼女」と呼ぶにまで至っってしまった……と、これが真実だ。

なんとも迷惑な話だが、これが事実なのだから実に残念としか言いようがない。

俺も冴島とは同じ職場のため、少し前にこの事実を話されたのだが……今回同様「彼女は猫である」という事実なしに話が進められた。おかげで俺も今の田所たちと同じくとんでもない勘違いをする結果となったのはいい思い出だ。無論、その後事実を知って思いっきり腹を殴ってやったのだが……


「バカかお前っ!!」


 唐突に、廊下の方からとんでもない怒号と鈍い音とともに何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 あ、またやられたなアイツ。音から察しておそらくまた腹を殴られたのだろう。ご愁傷様……と言いたいところだがまぁ、勘違いされたままよりはまだマシだろう。甘んじて罰を受け入れることだ、冴島くんよ。


「……胃腸薬でも買ってやるか」


 それでも一応、冴島は仮にも長きを共にした友人の一人。俺は盛大に息を吐きながらも冴島の腹の調子を案じつつ、静かにグラスに残った酒をのどに流し込んだ。

店のトイレを占拠していた男三人はその数分後戻ってくるのだが、約一名が腹を抱えていたのは言うまでもない。

久々に書いたので、やっぱりまだ感覚がしっかり掴めない感じです...(-A- ;)

少しずつまた書いていけたらなぁと思ってますので、改めてこれからもよろしくお願いします!!

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