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【第5回】オーシャンズ8

『女の子だってスタイリッシュに暴れたいんじゃ!という映画』


六本木のTOHOシネマズで鑑賞してきましたので、軽くレビューを書きたいと思います。



【導入】

ジョージ・クルーニー主演のスタイリッシュ・ホモソーシャル・ムービーとして人気を博した『オーシャンズ・シリーズ』を、オール女性キャストでリブートしたのが『オーシャンズ8』です。


元々のオーシャンズ・シリーズが超人気豪華俳優陣をふんだんに使った映画ですから、本作もそれに負けず劣らずの、いかにもオーシャンズらしい豪華布陣で臨んでいます。


なにせ、主演が『リアル・リサリサ』と私が勝手に呼んでいるアカデミー女優のサンドラ・ブロックですよ。あれで50超えてるとか、ジョセフ・ジョースターじゃなくても驚きですよ。人体の神秘ってやつですよ。


そして脇を固めるのが、これまたアカデミー女優のケイト・ブランシェットに、そして極めつけはアン・ハサウェイですよ。


ほんと綺麗な方ですよねアン・ハサウェイ。なんかもう、同じ世界の人とは思えないくらいの美しさがあります。


監督は『ハンガー・ゲーム』のゲイリー・ロス。脚本もゲイリー・ロス。いやあこの人ホント頑張るな。『シービスケット』みたいな感動作も撮れるし、何やらせても及第点の作品を創ってくれる方ですね。



【あらすじ】

「オーシャンさん、仮釈放を希望しますか?」


どこかの刑務所。簡素な部屋で簡素な椅子に座るデビー・オーシャンに向かって、面接官は厳粛にそう尋ねた。


「とんでもない過ちを犯してしまいました」


神妙そうな表情で答える、痩身の中年女性。デビー・オーシャン。


「お兄さんと縁を切れますか?」


兄の名前――忘れるはずがない。


ダニー・オーシャン。ラスベガス・カジノからの現金強奪事件を始めとして、数多くの強奪事件に関与している凄腕の詐欺師として知られる男。


兄の面影が脳裡を過るも、デビーはそれでもなお落ち着いた声音で続ける。


「家族とは縁を切ります。まじめに生きます」


彼女の真摯な態度を更生の証と見て取った面接官は、仮出所手続きの書類に判を押す。


ここから、デビー・オーシャンの、寂しくも慎ましい独身生活が始まるのであった――






なんてことには、当然なりません!


出所早々にして鮮やかな手口で化粧品を万引きするデビー!


金も払わず、これまた実に巧妙な手口で高級ホテルの一室を借りてしまうデビー!


この女、魔性にして女狐。さすがはオーシャン一族の女である。


そんなデビーは、実は服役期間中に『とある計画』を企てていた。


年に一度、世界的に超有名な美術館・メトロポリタン美術館で開催される『服飾のアカデミー祭典』とも言われる『メット・ガラ』


そこでお披露目されるダイヤモンド・ネックレスの強奪作戦計画を練っていたのだ。


カルティエが地下金庫に保管しているそのネックレスは、時価総額一億五千ドルもする、垂涎を零さんばかりの眩さに覆われた超一級品の宝。


しかし、当然一人で決行できる作戦ではない。デビーは昔のつてを頼って、右腕的存在のルー・ミラーと落ち合う。


デビーから計画の全貌を聞かされたルーは、彼女が服役生活を経ても全く反省していない姿を見て、呆れ気味に尋ねる。


「なんのために宝石を奪うの?」


その、オーシャン一族の根源に触れているとも言える相棒からの質問に、さらりとデビーは答えてみせる。


「特技だから」


特技だから――これほどまでに簡潔で自信あふれる回答があるだろうか。


デビーの決意は固い。ルーは呆れつつ、しかし湧き上がる高揚感を抑えられなかったのか、けっこう乗り気でデビーの仲間第一号になる。


「作戦に必要な人数は『7人』よ」


その宣言通り、計画に必要な人材を次々にスカウティングしていくデビー。


作戦決行まであと一ヶ月も無い中、着々と強奪計画の前準備を進めていく。


しかし、まだ仲間たちは知らない。


デビーの目的が『宝石強奪』だけではないことに。


宝石強奪の裏に隠された『もう一つの目的』を達成することこそが、デビーが今回の計画を発動させた本当の理由なのだ。


果たして、デビーの真の目的とは何か。


そしてオーシャンズ8の面々は、無事にメット・ガラの会場からダイヤモンド・ネックレスを奪う事が出来るのか。




【レビュー】

映画における女性像ってのは、結構面白い変遷を辿っているように思います。


1986年に制作された『エイリアン2』では、シガニー・ウィーバー演じる『女性的なマッチョリズム』に溢れたリプリーがエイリアン・クイーンと直接対決する描写が話題を呼び、映画における『女性像』の一次革命が起こりました。


そして次の革命を起こした作品が、オリジナルビデオ乱造戦略に手を出してブランド価値がほとんど失墜してしまった「ディズニー」が名誉挽回をかけて製作した「プリンセスと魔法のキス」から「アナと雪の女王」にわたる一連の作品群です。


女の子がみんなプリンセスに憧れていると思ったら大間違いだぞ!と声高に叫ぶような、これらのディズニー作品は、まず間違いなくそれまでの保守的な女性観を叩き潰し、映画における『女性キャラクターの役割解放』を実現させました。


さて、オーシャンズ8の制作発表を知った時、正直言うと私は首を傾げました。


それまでオーシャンズ・シリーズは一作目しか見ていなかったこともあり、なんで今の時代にこいつをリブートさせるのだろうと、いまいちピンと来ませんでした。


ですが、映画を観てはっきりと分かりました。


なるほど確かに、こんなにスタイリッシュなクライム・ムービーをオール女性キャストで製作した映画ってなかったかも、ということです。


元々、オーシャンズ・シリーズというのは、絵的な『スタイリッシュ』と『豪華さ』にパラメーターを振り切っていて、それを何よりも持ち味として生かしている作品です。


フィルム・ノワール的な重々しい葛藤はほとんどありませんし、現代社会への痛烈なメッセージも皆無に等しい。


そこを理解せずに『オーシャンズ・シリーズ』はクライム・サスペンスとして失敗作だ、と仰る方を時々見かけますが、そいつはちょっと乱暴な意見であるように思います。映画の見方が間違っていると言わせていただきます。


過去に辛いことはあったし、今もあんまり現状は良くないけれど、でもまぁなんとかなるっしょ?という、実に『あっ軽い』と観客に言わせる要素を含んでいることが『オーシャンズ・シリーズ』であることの絶対条件であるわけです。


そういう観点から見ると、このオーシャンズ8は紛れもなくシリーズに名を連ねるに相応しい出来栄えであり、『ガールズ・ムービー』の中でも異色の作品です。


なにより、主人公のサンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャンというキャラの設定がいいんです。


この人は劇中では年齢明かされていませんが、演者の年齢的に考えて50歳くらいと見て妥当なんですが、この年齢設定がいい。


ネタバレになるので詳しくは言えませんが、デビーはその昔、とある男性と付き合っていて、ある犯罪に利用されてあっさりと捨てられてしまいます。


デビーはしかし、その男性のことを恨めしく思っていながらも、やっぱりどこか軽く見てるんですよねw


つまらない男だったし、もう相手にもしたくないけど、まぁちょっといじめてやろうか的な感じで接していくわけです。


もしもデビーが二十代とか三十代の女性キャラクターであるとすると、劇中における彼女の元カレに関する発言が『背伸びしている』とか『我慢して強がっている』という風に見られがちになると思うんです。


それが、もう全然まったく感じられない。そこに、年齢を重ねて酸いも甘いも知り尽くした域にある女性の強さや説得力を感じとれるようになっている。


もう一つ感じたのは、この映画は社会における女性の役割というものを、とても広い心で迎えているなという点です。


身も蓋もない話をすると、デビーたちのやってることは紛れもない犯罪なんです。


でも、彼女らが自分という存在を確立させるためには、その犯罪を成功させるしかない。


何故かって、それが彼女たちの、オーシャンズ8の面々の『資質』であるからです。


あらすじのところにも書きましたが、デビーが強奪を止めないのは(あるいは止められないとも言えますけど)それを労働として見ているからではありません。


特技であるから。自分が社会で生きていくにはこれしかないから。たとえそれが法に反していようと関係ないのです。


それをやることによって、デビーは生きている実感を得られるから、だから盗みから手を洗おうとはしない。


吉良吉影が息をするように人を殺すのと一緒です。それが生まれ持った資質にして『(さが)』であるなら、受け入れるしかないのです。


しかし、やはりそこはオーシャンズ8。ドラマが生まれそうなアイデンティティへの苦悩なんてものは素っ飛ばして、どこまでも自分のやりたいように生きることに前向きです。


自分のやりたいように生きる……多分、多くの女性がそれを根底では望んでいるんじゃないでしょうか。


でも、やりたいように生きようとするのは、口にするのは簡単だけれど行動に起こすのは難しい。


だからこそ多くの女性観客は自分達の思いや望みといったものをオーシャンズ8の面々に投影し、彼らに自らの欲を肩代わりしてもらっている傾向があるように思います。


劇中でのデビーの科白に、こんなものがあります。


「これからやることは私のためでも、仲間のためでもない。8歳の盗みに憧れる女の子のためにやろう」


これはまさしく、デビーが映画を観に来ている女性たちに向けて送った言葉です。8歳の盗みに憧れる女の子ってのは、全世界の女性のメタファーです。


私たちがあんたたちの代わりに、思う存分『スタイリッシュ』に男どもを見返してやるから、見届けていてくれよってね。もうまじかっけー!デビーに憧れる女性客はきっと多い事でしょう。


さて、この作品、全編を見渡してみると、実に女性が好きそうなものばかり。


きれいな宝石に豪奢な服飾の数々。そして『美術館』という、ある種の異世界めいた静謐な空間を舞台にした展覧会。


私なんかはもともと絵画が好きで、メトロポリタン美術館(とソフィア王立芸術センター)は死ぬまでに一度は行きたい美術館なわけですが、そこに飾られている絵画の見事なこと!


あ!モディリアーニ!ミレー!あぁ^~最高なんじゃぁ^~ あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~


そういう視覚的な高揚感を湧きたててくれるところも、この映画の好きなところです。


あとは、エンディング曲がいいですね。ここのところ毎日ヘビロテしてます。


劇中が派手派手しいぶん、エンディングはシックに納める。いいですね。粋ってやつですね。


纏めますと、この作品は完全に女性をターゲットにした作品で、もちろんオーシャンズ・シリーズの正しい見方を知っている男性客でも楽しめる作品であると思います。


逆に、自分の中で強固なモラルを持っている方や、女性に対してちょっと異常とも思えるほどの蔑視を抱いている人には、まったくおススメできません。


そんな作品です。

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