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番外編 ムービー・アラカルト

お盆休みの前後にかけて結構色々な映画を観てまいりました。


しかしながら、一つ一つ懇切丁寧にレビューするには時間がそれなりに経ち過ぎていて、私の文章作成能力を明らかにオーバーする量になってしまったので、今回はサラッと触れるだけにしておきます。





①ゴールデン・リバー(監督:ジャック・オーディアール)


『預言者』を製作したオーディアール監督がハリウッド体制で挑んだのは『西部劇』。なかなか見応えがあるというか、着地点がいい映画です。


無法者たちの消滅を描いた『ワイルドバンチ』とは真逆の内容になっているし、個人的に『最後の西部劇』であると感じている『許されざる者』に、どちらかと近い印象があります。


それはつまり、サスペンス的な部分ですね。『凄腕の殺し屋兄弟』って設定のシスターズ兄弟(ジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックス)を主人公に据えた追跡劇なんですけど、特に兄貴が一見して頼りない。しかし、「こんな奴らで大丈夫?」というこちらの心配をよそに無双の銃撃を見せる兄貴の姿ってのは、『許されざる者』で描かれていた、老いさばらえてもなお腕の落ちないクリント・イーストウッドを彷彿とさせます。


舞台はゴールドラッシュ時代のアメリカ。ボスからの命令でシスターズ兄弟が狙うのは、黄金を判別する化学式を発見した科学者。しかし化学者を発見する役割を負ったはずの連絡係は彼の唱える理想の社会建築論に感化されて組織を裏切ってしまい……という話。


あるがままをあるがままに撮る、というコンセプトの本作は、時代の遷移を丁寧に描いています。無法から法治へ移行しつつあるアメリカ。現象の解明に数式を活用し、自然科学の礎が勃興を迎えた時代に翻弄される殺し屋兄弟。


新しい時代に馴染もうとする兄。そんな兄を腰抜けと断じて、いつまでも無法の世界に浸っていたい弟。不器用ながらも互いを思いやる兄弟の行く末に待ち受けるのは、無慈悲で乾いた血と硝煙の世界だけなのかと思いきや、意外や意外、実に『優しい』結末に帰着するのです。


無法の世界で生きる術すら奪われた者は、滅びの美学に身を預けるしかないのか。そうではないというのがこの映画。地味な内容の映画ですが個人的には好きです。


ジョン・C・ライリーが歯磨きするシーンは必見です。





②よこがお(監督:深田晃司)


カンヌで評判になった『淵に立つ』の監督というのもあって、実にイヤーな雰囲気が画面全体を支配しています(笑)。そういうのが好きな方は楽しめるでしょう。私は好きですよ、こういうサスペンス映画。


主人公を演じる筒井真理子さんの表情の演技、見応えがありますねぇ。『直接的な加害者』ではないからこそ、甘い方向へ流れていきがちな主人公の心。しかし、その選択がどんどん主人公の首を真綿で締めるように苦しめ、いよいよのっぴきならならいところまで来たなぁとなる展開。筒井さんの表情がどんどん強張り、やつれていくのにつれて、ヒリヒリとした心地よい緊張感を抱くことでしょう。


ヒロイン(?)役を演じる市川実日子さんも『シン・ゴジラ』の時には見せなかった「禁断の恋に悩み苦しむニート女」という難しい役どころを、とても冷静に演じていたと思います。この人けっこう肩幅があるんですが、それがこの映画では映えるんですね。


この映画の特徴は、とにかく『何か越し』の演出が多い事ですね。ガラス窓越しに人物を映し、テレビ越しに聞こえる音声を流し、ドア越しに聞こえるマスコミの声を流し、そして車のフロントガラス越しに映る憎き人。サイドミラー越しに映る、彼女の「よこがお」。


社会のいたるところに見えない情報偏光のフィルターが貼られているせいで、『何か越し』でしか、我々は物事の一面を認識できない。


そう、我々は物事の一面だけを――誰かの「よこがお」を見ただけで、その人の全てを知った気になる危険性を孕んでいる。それなのに、意識的に気を付けようとする人は極めて少ない。


そんな自分を省みれるかどうかは、その人の心構え次第なんだなぁとなる映画。


ヒッチコックの『裏窓』やタランティーノの『パルプ・フィクション』から抽出したのかなと思う要素がちりばめられつつ、それが単なるオマージュの域を超えて、しっかりと映画の中で息づいているのは、やっぱりすげぇなと感心しました。





③守護教師(監督:イム・ジンスン)


久々の韓国映画。久々のマ・ドンソク。そしてマジで久々のキム・セロン。


『アジョシ』以来の鑑賞だったので、キム・セロンの成長具合をみて「大きくなったなぁ」と、親戚のおっさんみたいな心境になっちゃいました(笑)。すっかり美人になってしまったから少し寂しかったんですが、あのアヒルっぽい口元は健在でしたね。


んで、主役がマ・ドンソクですから、当然観客は期待するわけですわ。ボクシングスタイルのパワーファイトを。でもそんなに期待してると肩透かしくらいますよ。素手でドア破壊するシーンとかあって視覚的には楽しいんですが、今回の彼はおとなしめです。


なんせ演じる役柄が、元東洋チャンピオンボクサーという経歴を持つ、女子高に赴任してきた教師役ですから。道徳や倫理を大事にする立場だから、やたらめったら好き放題できないわけですね。


そういうわけで、本作は女子高生の失踪事件をメインとしたサスペンス映画なんですけど、パワーで解決する物語ではありません。


嘘や隠蔽にはもう辟易としているんだよ!ってつくりは、現在話題を呼んでいる『新聞記者』と似ているところがあると思います。そうは言っても、テレビドラマでいいんじゃないのかと思うくらい、内容はごくごく普通です。


しかしながら、こういう題材でコメディに走らず、武骨ながらもしっかりサスペンスに仕上げてくる韓国映画界の生真面目さが私は好きです。


マ・ドンソクとキム・セロンのファンなら見て損はないと思います。





④イソップの思うツボ(監督:浅沼直也 上田慎一郎 中泉裕矢)


『カメラを止めるな!』のスタッフが再結集して製作しましたという割には、宣伝が足りないのかあまり話題に上っていない感じがします。


実際、品川の映画館で観てきたんですけど、お客さんが私含めて三人しかいませんでした。どういうことなのと。あの時『カメ止め』に夢中になってたお客さんはどこいっちゃったのと。


それで映画の中身なんですけど、最初の30分は素晴らしい出来です。キャラクターの演出が私の好みでした。「こういう人いそうだなぁ」という感触をお客さんに持たせてきた時点で、この映画はもしや傑作なのではと感じたのですが、やってることが『カメ止め』の二番煎じなんですよね。


そりゃ同じスタッフが集まってるからそうなる可能性というのは大いにあったわけなんですが、しかしあの『兎』と『亀』の対比からいくらでも、どんな方向にも伸ばせそうな話が、結果としては都合の良い物語に収まってしまったのが残念です。


とにかく最初の30分はたまらなく良かったので、そこだけ切り取るといい映画だと思います。

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