【第16回】★七つの会議
『過剰なデフォルメ演技は果たして映画の強度を保つのに必須なのかどうか首を傾げたくなる映画』
上野のTOHOシネマズで鑑賞してきましたので、軽くレビューを書きたいと思います。
……とかいいつつも、いつも5,000~7,000、時には10,000字近く書いているわけですから、単純に分量で計算してみると、軽いと言えるのかどうか分からんですね。
だから今回は軽めに書きます。というかとても困るんですよねこの映画。何についたら書けばいいんだろうか……うーん……
【導入】
企業クライムサスペンスを中心とした作品を手掛けることで知られている小説家・池井戸潤。
その池井戸潤の同名小説を映画化したのが本作『七つの会議』です。
監督は『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『陸王』『下町ロケット』などの池井戸潤の小説を映像化する専門家と化した福澤克雄。体育会系という言葉に嫌悪感すら抱いている私からしてみたら、ちょっと苦手な監督です。
主演は野村萬斎さん。『陰陽師』の頃の神秘的な演技が好きだけど、もうああいう演技は彼には求められていないんでしょうか。悲しいなぁ。
脇を固めるのは、すっかり“カマキリおじさん”と化してしまった香川照之を筆頭に、及川光博、片岡愛之助、立川談笑、オリラジ藤森、春風亭昇太、鹿賀丈史、北大路欣也などなど、まぁいわゆる『福澤組』の面々ですな。
【あらすじ】
巨大企業ゼロックスの子会社で中堅家電メーカーでもある東京建電。その営業二課で課長を務める原島万二は、毎週木曜日の午後二時から開かれる営業部定例会議が苦痛で苦痛で仕方なかった。
営業二課が取り扱う白物家電の売れ行きは低迷から抜け出せず、この日も月の売り上げノルマは未達成。営業部の絶対権力者にしてモーレツサラリーマンの北川部長からパワハラ紛いの激しい叱責を受けてしまう。
一方で、原島より七歳年下の営業一課の課長・坂戸は三十五ヶ月連続で売り上げノルマを達成し続け、北川からの寵愛も厚い有能サラリーマンだった。
だが、そんな坂戸率いる営業一課にはお荷物がいた。それが、坂戸の下で係長を務める八角民夫。通称“居眠り八角”であった。
定例会議の最中も平気で居眠りをし、ノルマも最低限しかこなさない。他の営業マンたちが靴底を擦り減らして取引先を駆けずり回っているというのに悪びれもせず平気で有給を申請する。
たしかにサラリーマンにとって有給申請は立派な権利であるから、それを提出する分には何も問題はないはずだ。しかし坂戸からしてみれば『権利は義務を果たした者がするべき』であり、最低限のノルマしかこなさなず、あまつさえ定例会議で居眠りをするような八角は、決して許していい存在ではなかった。
日に日に増していく坂戸の八角への圧力。それが人格批判にまで至ったところで、八角は機を狙っていたとばかりに、坂戸を“パワハラ”で社内懲罰委員会に訴えてしまう。
周囲の反応は薄かった。ぐうたら社員の八角と、有能サラリーマンの坂戸。どちらが会社にとって利益をもたらす存在であるかは一目瞭然であり、八角の敗北は目に見えていた。それは原島の目から見ても明らかだった。
だが、事態は原島の予想を越えてしまう。懲罰委員会は八角の訴えを受理し、坂戸の行為がパワハラであると認定。その後、坂戸は人事部に異動となってしまうが、どうしたことか出社を拒否してしまう。
突然空いた営業一課の課長ポスト。そこに収まったのは、あろうことか営業二課長の原島だった。
営業部が坂戸の異動で混乱に陥っている一方、営業部と仲の悪い経理部では、この隙に営業部を叩く材料を見つけようと躍起になっていた。
そんなある日、経理部課長代理の新田雄介は営業部の経費台帳をチェックしている時、八角が取引先への接待で10万もの金を使っていたことを突き止める。
しかもその取引先は、すでに東京建電との取引を打ち切られていたはずの町工場・ねじ六であったから、八角とねじ六に癒着の線があると見るのは、新田からすれば当然だった。
これは一体どういうことなのかと八角を追及する新田。だが八角は口を割らず、しかも普段の彼からは想像もつかないほどの威圧感を見せて、新田を追い返してしまう。
時を同じくして、カスタマーセンター室長の佐野健一郎は、客先からのクレーム処理に追われる中で、東京建電が取り扱っている製品に“ある欠陥″があることを突き止める。
だがそれを社内公表しようとした矢先、彼もまた八角の手によって小倉営業所への異動を命じられてしまう。
一体なぜ、会社上層部は八角を守り続けるのか。八角は、何かを隠しているのではないか――疑惑の目を向ける原島は、営業一課の社員・浜本優衣と共に彼の身辺を洗い出そうとする。
【レビュー】
基本的に私は映画のレビューを書く際に、他のサイトのレビューはあまり参考にしません。でも今回ばかりはちょっと余所様のレビューや紹介文を拝見いたしました。それだけ、この映画についてどう語ればいいのか分からなかった。
取り立てて悪い点があったらレビューなんか書く必要もないからなぁ。でも話は面白いんだよね。筋だけ追っていったらとても地味な話になりかねないのを、役者たちの過剰な演技で持たせているってのは、手法の一つとして効果的に生きていると思います。まぁ全然『映画的』ではないんだけどね。
私も似たような業界で働いていますから、営業部と経理部の仲の悪さとかは「ああ、あるある」と頷いてしまうんですね。でもこの東京建電の経理部はウチと比べたらまだ良心的よ。ウチは固定費削減の為に自腹切って接待が当たり前ですからね。ああ、あんなに金が使えて羨ましい。
あとはノルマの設定。ホントなんで、未達だっつってんのに次月や次年の売上高を前月や前年より上げるんでしょうね。まったく意味が分からないし、今後もたぶん分からない。
あと注目すべきは、現実的じゃない御前会議の様子。他のお客さんはシーンとしていましたが、私は逆に笑ってしまうくらいでした。この映画は役者の演技もそうですが、セットや装飾もかなり過剰なんですよね。漫画的と言っていいのかな。
及川演じる原島も探偵役みたいなことやってますが、課長の癖にそんなことしてていいのかよwと突っ込みたくなるのも、過剰な演出ポイントの一つですね。半沢直樹の時も感じたけど、ミッチーそんなことやってる暇あるの?wって突っ込みたくなるw
うーん、でも語ることって本当にこれぐらいしかないんだよなぁ。
なんかさ、巷では池井戸さんのドラマに〝サラリーマンあるある"を見出しているって言うけれど、それってたぶん年代によるんでしょうね。
いわゆる50~60代の高度経済成長を支えた世代からは、北川みたいなモーレツサラリーマン(死語)は懐かしいキャラとして見られているんでしょうが、20~30代の世代からしてみると、なんか現実離れして見えると思うんですよね。
だって、働き方改革が実現しつつあるこの時代で、こんな話をされてもねぇ。なんだか現代のサラリーマンの視座からは遠いように思うんですよね。
ロボティック・プロセス・オートメーションで単純な伝票処理とか受注フローがAI任せになりつつあり、EC通販で売り上げを伸ばす企業が増加して、GAFAが現代の四騎士として君臨している現在を見てみると、この映画が描いている営業の様子ってのがねーなんかねー古臭く見えるんですよねー。
それと、私はとある家庭事情から『労働』という行為に憎しみめいたものすら抱いていましてね。基本的に仕事ってのは、会社の為じゃなくて自分の為でもなくて「暇つぶし」の為にやってるっていうスタンスで生きているんです。だから北川とか坂戸の生き方にはまるで理解できなかったなぁ。
人間って会社の為に生きているんじゃないよ? え? 会社で出世すれば幸せになれるなんて、誰がそんなこと保証しましたか? 金があれば幸せですか? そうなんですか? そういう人は「ファイト・クラブ」を百回観てください。
仕事なんてのは死ぬまでの暇つぶしなんだから、そんなに肩ひじ張らなくていいじゃんか。ご飯食って少し貯蓄できて、映画観るだけの金があればいいじゃんってスタンスだから、野村萬斎演じる八角の姿勢が良く分からなかったんだよなぁ。
純粋なんだか間抜けなんだか分からないんですよね八角さんて。私だったら、トーメイテックのねじの欠陥が分かった時点でマスコミにリークして会社辞めるけどね。企業倫理? んなの知るかーいって感じですよ。他の社員が路頭に困るったって、転職すりゃあいいじゃないかよ。まぁ、家庭を抱えている人には申し訳ないけどさ……でも結局、大事なのは生きている自分だからなぁ。
いまやいろんな生き方が許されている時代です。幸せの価値観なんてのは人それぞれ。マイノリティが社会的に広く容認されつつある時代なんです。会社のために生きるなんて、そんなダサいことやってられません。私はそういう考えで生きてます。
全然話は変わりますが、「シン・ゴジラ」の泉ちゃんも『出世は男の本懐だ』って言ってましたが、あれも自分にはよくわからなかったんですよね。庵野監督も高度経済成長期の人だからねー。やっぱその時代の人はそういう価値観が絶対だって、根っこに刷り込まれているんでしょうか。
それと、この企業を舞台にしたクライムサスペンスってのがもう、ネタ切れに近いんじゃないかなとも私は思うんですよね。だって結局、不祥事の話に帰結しちゃうじゃない。それで社会における企業の在り方を問い直すってのも、正直食傷気味ですね。
この映画の営業部と経理部みたいに、各部署によってそれぞれの考え方が違うキャラクター同士を絡ませて、そこから何か新たな価値観を生み出すような企業小説が求められている時代になっているような気がするんですよね。
あと気になったのは、東京建電の社長役を演じていた橋爪さんが、怒鳴る時に少し呂律が回っていなかったんですよね。体調が悪かったのかな。大丈夫かな。
総合しますと、この映画は50~60代の方々におススメしますね。
「会社で骨身を削って働くなんてばかばかしい」と考えている人にはあまりおススメできません。