別れ、そして
「それじゃ、そろそろ行くね」
朝。フィアラは荷物を背負って立ち上がる。腰には貰ったばかりの双剣を下げていた。
「本当にありがとう。このご恩は忘れません」
「ふふ、なんだい。急に改まって」
ぺこりと頭を下げる少女に商人は笑う。同じく荷物を纏めて立ち上がった商人も少女に向き直る。
「こちらこそありがとう。いい話が聞けて楽しかったよ。何度も言うようだけど、この道を行った先に城下町があるが近づかない方がいい。さっさと南陸を出た方が安心して旅ができるだろうな」
「うん、そーするね。商人さんも気をつけてね。話したけど森に変なのいたから」
「ああ、見たことない奴がいたら一目散に逃げるよ。またどこかで会おう…キミの行く末に、幸多からんことを」
そう言って商人は十字を切り、森の方へと歩き出した。入り口に差し掛かっても振り返ることなく森へ入っていき、すぐに見えなくなった。
フィアラもまた歩き出す。道の先を見据えて行くべき道を踏み出した。空を見上げると丸い雲同士が肩を並べるように浮かんでいた。
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歩き始めて1時間ほどだろうか。森周辺にあった木々は姿を消し、かわりに平原が広がっていた。草木が隙間なく生い茂り、大地に緑色の絨毯を敷いているようだった。前方には商人に聞いた城下町が鎮座しており、平原を続く街道は謁見の間に伸びる道のようだった。
フィアラは本を手にしながら歩いていた。戦いの心得と名付けた本を片手に広げながら、もともと持っていた剣をもう片方の手で振るっていた。
「片手素振りもだんだん慣れてきたかな?まずは片手で使えるようにしないと。でも踊るような動きかぁ。剣舞とか見てみたいなぁ」
そんなことをぼやきながら歩いていると、分かれ道に差し掛かる。看板も立っているが城下町はすぐそこにあり、道もそちらに続いているか別の方へ伸びているかであった。何が書かれているかは自明だろう。
「今はまだ入らないけど、いずれ入れたらなぁ。入れるようになるかな…」
別の方へ続く道へと進む。街がすぐそこなので、気持ち足早に歩き出す。ここで人と関わるのは良くないだろう。商人に言われたことであったが、フィアラもそう感じて急ぎ足でその場を去る。
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街が後方へ小さくなるにつれて、歩く速度も緩めた。ここまで街から離れれば大丈夫かな。平原には小鬼や半透明の液状の何かもちらほら見える。液状のものはスライムだ。獲物を見つけると包み込んで捕食し、その養分を吸収する。立派な魔物で危険には違いないが、その動きは非常に遅いため、対処は振り払うだけと非常に簡単だ。
しかし一般人にとっては小鬼もスライムも脅威で近寄ろうとはしない。ここにいる人といえば旅人くらいだろう。
そんな道を進んでくる姿が前方にあった。緑色の風景には目立つ赤い服。遠目でよくわからないが、風に揺れて揺らめいているように見える。マントかな?このまま進めば鉢合わせるが、こちらも真っ黒だ。向こうもこちらに気がついているだろう。隠れようにも平原が広がるばかりで何もない。フィアラはそのまますれ違うことにした。本と剣をしまって準備、何が起きても動けるように。
歩き続ける。相手との距離も近づく。近づくにつれて、相手の姿も見えてきた。顔もわかる距離で一旦立ち止まる。
揺らめいているのは長いスカートだった。白い上着に真っ赤なスカート。その長さは足首まで届いているが布がふんだんに使われているもののようで風に揺らめいて広がっている。風に揺れるものはもう一つあった。髪だ。大きな赤いリボンで結われているが、太ももまで届く長髪は衣服と連動するように風に揺れていた。整った顔立ち、しかし目元に力はなく眠そうな印象の少女は、こちらが立ち止まったのを見ると微笑み口を開く。
「こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇ね」




