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踏み入る

ティアの復讐を止めるべきだと考えたシャノン。

しかし、ティアの復讐の先にある未来を見たいという最初の気持ちを思い出し、二人は改めて決意を固めた。

 ティアとシャノンは、槍や弓矢といった武器を運び出していた。

 ダンジョンに向かう際に、ティアが忘れていったものだ。


 「もう忘れるんじゃないよ。生身一つで挑もうなんて無謀すぎる」

 「うっ! 仕方ないでしょ! あの時は頭に血が上って……」

 「あぁ分かる分かる。嫌というほどね。だが、君には復讐を果たしてもらわなくては」


 赤面しながら言い返すティアを微笑みながら見るシャノン。

 

 「もう血迷ったりなんかしない。最善を尽くして必ず復讐する」

 「あぁ。その意気だ」

 「といっても、もう出来ることなんてないんだけど。明日の夜ダンジョンに向かう」

 「自信はあるのか?」

 「大丈夫。私は、強い」

 

 根拠のない自信に見えるが、ティアはその自信を裏付けるだけの策を用意している。

 シャノンは、もう彼女を止めようとはしない。信じて送り出すと決断したからだ。


 「おい、お前ら!」


 乱暴な口調で二人を呼び止める声が後ろから響く。

 振り向くとそこにはバンが仁王立ちをしていた。


 「何となくお前らの様子を見てれば分かったんだが、デュラハンに復讐しようとか考えてるんじゃねぇだろうな」

 

 鋭い眼差しで二人を睨み据えるバン。

 

 「えぇ。私はデュラハンを殺す」


 これまで復讐をすることを悟られないように気を配っていたが、ティアはもう誤魔化せないと判断した。


 「くそっ! なぁシャノン! お前も何子供に復讐なんてさせようとしてんだ!」

 「……彼女なら復讐の先に何かを見出せる。そう思ってるんだ」

 「訳分かんねぇこといってんじゃねぇよ! なぁティアちゃんよぉ! お父さん悲しむぞ!」


 ティアは以前バンに父が悲しむようなことをするなと釘を刺されたことを思い出す。

 その時は、復讐のことを打ち明けることはしなかった。だが、今は正直に話すしかない。


 「おじさん。私ね。父さんを殺された日から時間が止まったの」

 「ティアちゃん……?」

 「生きたまま死んでいるような感覚。でもね、復讐を決意したとき時間が動き出した」

 

 俯きながら絞り出すように声を出すティア。

 バンは、何も口出しはせず、真剣な表情でティアを見つめている。


 「悪いことなのは分かっている! だけど前に進むために! アイツを殺させて!」


 バンは、困ったとばかりに頭を掻くと大きく溜め息をつく。


 「お前らの気持ちは全っ然分からん! ……だけど、今回は聞かなかったことにしてやる」

 「おじさん……」

 「俺を後悔させないでくれよ」


 2人に背を向けると、ひらひらと手を振って去っていくバン。

 

 「ありがとう。おじさん」


 ティアは微笑み、小さく呟いた。



 ◇



 次の日の夜、ティアは人目を避けるように森へ向かっていた。

 背中には槍を背負い、腰には亡き父の残した短剣を差し、手にはハンマーを持っている。

 目的は当然ダンジョンへの侵入である。


 夜の森は言うまでもなく危険だ。

 しかし、わざわざ夜を選んだことには理由がある。


 一つは単純に子どもが1人武器を持ち歩いていては、周りから不審に思われる可能性があること。

 もう一つは闇に紛れ奇襲を仕掛ける作戦の成功率を上げることだ。


 ティアにとっては、ダンジョンにたどり着いてからが勝負であり、その過程である夜の森など恐れる必要はなかった。


 「さぁ、どこからでも来なさい」


 ティアは気が付けば森の内部に足を踏み入れていた。

 以前、焦りや恐怖で重かった一歩が嘘のように黙々と森の奥へ突き進む。

 力尽きてたどり着くことも出来なかったダンジョンへ招かれることを求めて――。


 ティアには、以前の経験から、自身がデュラハンにダンジョンへ誘導される可能性を感じていた。

 森の内部で気を失ったはずが、森の入口で倒れていたとバンとアレンから聞いたあと、しばらく考えた結果、ティアの導き出した答え――。

 

 デュラハン、あるいはダンジョンの魔物に自分は助けられたのだと。

 この森の一部を支配下に置くデュラハンであれば、ティアの状況を把握出来るはず。

 それ故に、その可能性が一番高いということを、悔しいがティアは否定することが出来なかった。


「全てを知るためにも必ず奴のところへ……! そのうえで殺す!」


 真っ直ぐ森の中を進むティア。

 同じような高さ太さの木が立ち並ぶ、代わり映えのない景色だが、彼女は一つ、道しるべとなるものを記憶していた。

 自身が気を失い、もたれ掛かった大樹。一際大きく、長い歳月を感じさせる大樹だ。

 

 「あの時に私が倒れたのは睡眠不足と栄養失調だっておじさんは言っていた。だけど、きっとそれだけではない」


 意識を失おうとしていたティアは、その時、朦朧とする意識の中、何かに自分を操られかけたような違和感を覚えた。

 そして、その違和感の正体は、デュラハンによるダンジョンへの誘導ではないかと疑っている。

 

 ――デュラハンは、ここで私を乗っ取ろうとしたけど、私の意識がなくなったことで失敗したのかも。


 だが、今回は違う。ティアの意識ははっきりとしたままこの大樹の前にいる。

 予想が当たっているのなら、デュラハンに意識を乗っ取られるだろう。

 誰かに自分を操られるのは、恐ろしい気持ちもあるが、復讐を目論むティアにとって避けては通れないことでもある。


 意を決して歩みを進めるティア。

 

 そして、大樹の横を通り過ぎると、彼女の意識は徐々に消えていった――。



 ◇



 ティアは気付くと、先の見えない洞窟の前に立っていた。

 始めて見る場所だが、ここがどこであるか確信出来る。

 

 ――ダンジョンだ。


 「随分あっさり来れた。いや連れてこられたのか」


 意識をデュラハンに支配されていたせいか、ティアは突然時間が飛んだような感覚に襲われていた。



 ――さぁここからどうする? やっぱり待ち伏せして奇襲を仕掛けるか。……いや。



 ダンジョンの周辺を確認しながら歩き回るティア。

 彼女にはいくつもの作戦案がある。だが、実際に実行出来る数は当然限られる。

 

 ティアは頭の中で整理がついたのか、こくんと頷く。

 そして、生い茂っている草木の中に背負っていた槍を隠すように置く。


 「よし、本陣に突っ込んでやろうじゃない」



 ティアは、目をギラギラさせながら、不敵な笑みを浮かべた。

 そして、深く息を吸い、ダンジョンの暗闇へと足を踏み入れた。


 ――ここが、ダンジョン……。シャノンさんの言うことが本当なら、デュラハンは私をダンジョンの罠で仕留めるようなことはしないはず。


 ――分かってはいるけど……。


 暗闇に光る赤い魔物の眼と呻き声。

 そして、恐らくあるだろう罠の数々。

 命の危険があちこちに散らばった空間に緊張は隠しきれない。

 すると、白い布を被った幽霊を思わせる容姿の小さな魔物が迫ってくる。


 ――シャノンさんの言っていた魔物!?


 危険な魔物ではなく、ダンジョンの案内役と聞いてはいるが、ハンマーを構えるティア。


 「僕は案内役のダンジョンゴーストですので! どうか鈍器で撲殺は勘弁して欲しいので!」


 焦ってバタバタと暴れる白い幽霊。

 殺気をまるで感じられず、ティアは警戒を解く。


 「あなたを安全にデュラハン様の元へ送り届けますので!」

 「信用していいのね?」


 ティアはシャノンの経験を知っているため、安全だと考えているが、念を押して問い詰める。


 「はい! デュラハン様の大切なお客様ですので!」

 「……お客様、ね」


 ――完全に舐められている。


 思わず舌打ちするティアを見て、震えているダンジョンゴースト。

 ティアはそれに気付き、わざとらしくニコッと笑う。


 「何かこの女の子怖いです……」

 「何か言った?」

 「いえいえ! さぁ行きますので!」


 ティアの緊張感は、徐々に消えていく。

 これから戦いに赴く彼女にとって、それが良い事なのか悪いことないのかは分からない。


 ダンジョンゴーストとティアの前を照らすように火の玉の魔物が飛んでいる。

 しかし、足元は見えづらく、罠に警戒するティア。


 「あっそこの魔法陣を踏むと罠が発動するので! お気をつけて!」

 「そんな堂々とバラしてこの罠意味あるの?」

 「招かれざるお客様が侵入することもありますので!」


 話を聞きながら、慎重に足元の魔法陣を跨ぐ。


 何度か罠を避けながら、ダンジョンゴーストの後ろを歩き続けると、木の扉で閉ざされた部屋があった。

 ダンジョンはここで行き止まり。つまりここが終着点である。


 「デュラハン様のお部屋ですので! あとはお任せしますので!」

 「どうも」


 適当にお礼を言うと、大きく息を吸うティア。



 ――恐怖は、ない。何故か全て上手く行く気がする。



 ――真っ向から立ち向かう!



 ティアは、仇敵と討つべく扉をこじ開けた。

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