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追憶(前編)

殺害現場に訪れたティアは、この事件がデュラハンの仕業であると結論付けると、激昂しダンジョンへ向かう。

しかし、ダンジョンのある森の中で意識を失い、そこをバンとアレンに救われる。

一方、シャノンはティアに言い放たれた言葉から、かつての記憶を思い起こす。

 ――20年前。

 シャノンは騎士の称号を持ち、恋人のリフィーとともに幸せな生活を送っていた。

 リフィーは幼い頃から未知の病に侵されており、そのことを引け目に感じつつも、彼女もまたシャノンとの生活を幸せに思っていた。



 だが、その幸せはある日の夜、突然崩れ去った。

 

 「誰だ? こんな夜中に」


 人のいる気配を感じたシャノンがドアに開けると、眼前に立ち尽くす異形に思わず尻餅をつく。

 

 ――なんだこいつは!? 首がない!? まさかこいつがデュラハン!?


 デュラハンの存在は噂でしか聞いたことはなかった。

 20年前には、まだ外見に関する情報さえも確かな情報はなく、憶測の域を出ていなかった。

 しかし、鳥肌の立つほどの圧倒的な存在感と、震え上がる自分自身の身体が、この魔物がデュラハンであるとシャノンに確信させる。


 「シャノン? どうしたの?」


 明らかに様子のおかしいシャノンに違和感を覚えたリフィーが彼に近づこうとする。

 彼女はまだシャノンの前にいる最悪の来客に気づいていないのだ。


 「来るなリフィー! くそっ!」

 

 震える足を必死に動かし、部屋の奥から短剣を手に取ったシャノン。

 そこでリフィーがようやくデュラハンに気付き、膝をガクガクと振るわせ、崩れ落ちる。

 リフィーはパニック状態に陥り、ハァハァと息を乱す


 「これ以上近づくな……!」


 デュラハンに剣を向け、脅しをかけるシャノン。

 それを無視するようにデュラハンの視線がリフィーに向くと、ゆっくりと彼女を指さす。

 

 「な、なに……? 何なの……?」


 困惑するリフィーと、短剣を構えるシャノンを無視して、背を向け彼らの家を後にしようとするデュラハン。


 ――今だ!


 シャノンはデュラハンに向かって走り出す。

 鋼鉄の鎧を纏ったデュラハン相手に短剣では分が悪いのは間違いないが、そんなことを考える余地はなかった。

 デュラハンがいなくなったことで閉まりかけるドアを左手で止め、勢いよく外へ飛び出すシャノン。

 

 「い、いない……!?」


 目の前にはデュラハンの姿はなく、けたたましい馬蹄の音だけが響いていた。


 「ハァ……ハァ……逃げられたか!」


 息を乱しながら周囲を見渡すシャノン。

 彼はデュラハンを倒すつもりで向かっていったものの、心の中では安堵していた。

 反撃されていれば恐らく自分は殺されていたと確信していたからだ。

 それに、結局シャノンもリフィーもデュラハンに手出しをされることはなかった。

 思い出すだけで身の毛のよだつ恐怖を味わったが、命があるだけ幸運と言える。


 「シャノン! 大丈夫!?」

 「あぁ、どうやら逃げていったみたいだよ」


 息を切らして駆けつけたリフィーに戻るように促すシャノン。


 ――本当に何もされなかったのか?


 心の中に一抹の不安が生まれる。

 だが、考えていても何も分かるわけもなく、シャノンは少しでも早くこの出来事を忘れようと思った。

 

 「今日はもう遅い。安心してゆっくり眠るといい」

 「えぇ、ありがとうシャノン」


 額に汗をかくリフィーからは疲れが見える。

 シャノンはベッドまで彼女を支えながら連れて行くと、自身もベッド横たわる。

 二人はデュラハンを目の当たりにした出来事を忘れ去ろうとするように眠りについた。



 ◇



 翌朝、目を覚ましたシャノンは静かな部屋の中で大きな欠伸をすると、リフィーの眠るベッドに目を向ける。

 まだ布団の中に潜っている彼女を見てフフッと笑うシャノン。


 「朝だぞリフィー! もしかして怖くて眠れなかったか?」


 声をかけながら布団を剥ぐと、そこには身動き一つなく眠るリフィー。寝息すらも聞こえない。

 この状況は何かおかしいと気付いたシャノンは、彼女に触れながら声をかけ続ける。


 「リフィー!? 大丈夫か!? 目を覚ませ!」


 いくら身体を揺らしても反応がない。シャノンはリフィーの口元へ耳を当ててみる。

 

 ――息がない!? 嘘だろ!?


 「……くそっ!」


 シャノンはリフィーを抱き抱えると近隣の医者の元へと駆け出した。

 ――しかし、騎士として人の生死に関わることも少なくなかったロイは、もう間に合わないということを確信してしまっていた。



 ◇



 医者からリフィーが息絶えたことを伝えられたシャノンは、家の中で一人頭を抱えていた。

 確かに彼女はいつ何が起きてもおかしくない病を患っていた。

 だが、デュラハンの現れた夜。あまりにもタイミングが良すぎる。

 

 「デュラハンだ……! 奴が何かしたんだ……!」


 この時、シャノンは決意した。デュラハンと再び対峙し、真相を知る。そして――。


 「奴を殺す……!」


 テーブルを力強く叩いて、絞り出すような声でそう言ったシャノン。

 この時、彼に復讐心という牙が生えた――。



 ◇



 デュラハンと戦うためにシャノンが取った行動はある団体との接触だった。

 『ダンジョン調査団』

 魔物に支配された街を奪還するために行動する調査団は、民間人の知らない魔物の情報を持ち、定期的にダンジョンの捜索に取り組んでいた。

 ダンジョンの発見が一向に出来ないことから、世間では無能な集団であるといわれることも少なくない。


 騎士として実績を持つシャノンは、貴重な戦力としてすんなり受け入れられた。

 そして、入団後始めての調査への同行を許可されることとなった。


 「それでは本日のダンジョン調査を始める!」

 

 今回の調査には十五人の人員が割かれた。

 そして、調査するのは、当時からダンジョンが隠れていることが有力視されていた森である。

 確かな情報こそないものの、狭い街の中に魔物の居場所として想定出来るのはこの森ぐらいしかないのだ。


 5人1組、計3組に分かれて森の捜索を始める調査団。

 一口に森の中といってもダンジョンは地下や崖の上にあってもおかしくない。捜索は難航を極めていた。


 「大分奥まで来たな」

 「この辺りを重点的に調査しよう。足場や木々の1本1本も注視しろよ!」


 シャノンと同じ組の男性が指示を出すと、五人は各々周辺の調査を始めた。


 「まさかこんなしらみつぶしの調査方法とはな……」


 呆れたように溜め息をつき、他の団員から少し離れ、森の中を歩き回るシャノン。

 すると、周囲の大樹と並んでいても浮くほど大きな木がそびえ立っていたため、導かれるようにその木に向かって歩みを進める。

 

 ――何だ? 頭がクラクラする……。


 シャノンは平衡感覚を失ったように足取りがおぼつかなくなると、大樹にもたれかかる。

 その様子を見た男性の団員が何かを叫んでいるが、返答することもできない。

 徐々に意識が薄くなっていくが、ひとりでに足が動き出すのに気付く。

 そして自分の置かれた状況を理解するより先にシャノンの意識は消えた。



 ◇



 シャノンが意識を取り戻すと目の前には簡素な洞窟があった。


 「……いつの間にこんなところに。これはまさかダンジョン!?」


 調査団の目的、そしてシャノン自身の復讐の相手が住まうというダンジョン。

 すぐにでも侵入したい気持ちを抑えて、報告のため他の団員を探す。

 しかし、先程まで近くで調査を共にしていた団員の気配もない。

 

 「くそっ! 何だこれは!」

 

 人工的に作られたのではないかと思うほど、ただ同じような大樹が並び立つ景色。

 周囲から感じ取ることが出来るものは、洞窟の中から放たれる異様な存在感だけだった。


 しばらく洞窟の前で呆然と立ち尽くしていたが、状況に変化はない。


 「デュラハンに復讐するためにここまで来たんだ。一人でだってやるしかない!」


 シャノンは決意を固めると、暗い洞窟へと歩み始めた。



 ◇



 ダンジョンと思われる洞窟には水の音だけが響き渡っていた。

 罠や魔物に注意を払いながら慎重に進んでいると、突如シャノンの目の前に白い布を全身に纏った小さな魔物が現れる。

 

 ――しまった! こうもあっさり魔物に見つかるとは!


 シャノンが構えると、魔物が慌てながら喋りだす。


 「あー! やめてやめて! 待ってください! 僕はただの案内役ですのでー!」


 その白い魔物は幼い少年のような声だった。

 

 「僕はダンジョンゴースト。 ここの主、デュラハン様の側近ですので!」


 警戒心を解くべきではないとは思いつつも、ダンジョンゴーストから殺気は感じられず、構えを解くシャノン。


 「案内? デュラハンを守るのがお前たちの仕事ではないのか?」

 「デュラハン様があなたを通すように言っていたので!」

 「ダンジョンに入ったことももうバレてるのか」


 デュラハンはどこまでこちらの行動を見通しているのだろうか。そんな疑問が出てきたが、この誘いには乗るしかない。

 

 ――いいだろう。真っ向から奴をぶっ倒してやろう。


 「というわけで僕が安全なルートを教えますので! ついてきてください!」

 

 この案内が罠である可能性は否定出来ないが、シャノンはダンジョンゴーストの後をついていくことにした。



 ◇



 ダンジョンゴーストの言うように道中は全くと言っていいほど危険はなかった。

 影から魔物の眼光がいくつも光っているが、迫ってくる様子はない。

 近くには周囲を照らすように浮遊する火の玉の魔物がいるだけであった。



 そして、最奥へ――。



 「ここがデュラハン様のお部屋ですので! あとはお好きにどうぞ」


 外観は何の変哲もない木の扉。この中にデュラハンがいるという。

 主の心配をまるでしていないダンジョンゴーストを不審に思いつつも、シャノンは背中に背負ったウォーハンマーを手に取る。

 彼は剣士としての才能に優れてはいたが、鎧の上からでも有効打を与えられると考えてハンマーを選んだのだ。


 ――いよいよだ。

 

 汗を拭い、鬼気迫る表情でドアを叩き壊した。


今回と次回に渡ってシャノン視点での過去編となっております。

明日の投稿には合わせて登場人物の紹介も予定しております。

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