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疑惑と激昂

デュラハンを討つための戦略を考えるティア。

行き詰っていたところ、シャノンの思い出したある記憶から活路を見出す。

二人は準備を進めるが、突如誰かの悲鳴が響き渡り、現場に向かうこととなった。

 ティアとシャノンが駆けつけると、既に民家の前に人だかりが出来ていた。

 

 「バン何があったんだ!?」

 

 シャノンが偶然近くにいたバンに声をかける。

 

 「シャノンか。あれ、今日もティアちゃんと一緒か」

 

 バンの隣には息子のアレンもいた。

 彼とティアの目が一瞬合ったが、すぐにアレンが目を逸らす。


 「そこの家に住んでた若い兄ちゃんが誰かに襲われて死んでたんだってよ。で、彼女さんが立ち寄って発見されたってわけ」

 「そうか……」


 周囲を見渡すティア。

 家の中には、座り込んで泣きじゃくる被害者の恋人。そしてティアの立つ位置からは全身は見えないものの亡くなった男性が倒れている。

 家の中には様々なものが散らばっており、荒らされた形跡が残っている。

 

 ――無難な線で考えると強盗か。


 だが、何故か胸騒ぎがしたティアは、更に近くで現場を見ようとする。


 「まさか……!?」


 人だかりの隙間から、ティアの視界に不自然なものが映り、目を見開く。

 白い花束だ。それも恐らくティアの家の前に置かれていたものと同じ花。

 弔花の種類が同じということは珍しいことではないだろう。

 しかし、遺体は今発見されたばかり。誰も花束を用意する時間などなかったはずだ。

 ティアは一つの結論にたどり着いた。



 ――デュラハン!



 鼓動が激しくなるのを感じる。息が荒くなる。


 

 ――まただ。またあいつに罪のない人が殺された! ……殺す! 絶対に殺す!



 ティアは湧き上がる気持ちを抑えられなくなっていく。

 肩は震え、爪が食い込むほど力強く拳を握り締める。

 

 「おい、ティア! 大丈夫か? あっちへ行こう」


 今にも噛み付きそうな表情のティアに気付いたシャノンは、人だかりからティアを離れさせる。

 

 「……ねぇ、シャノンさんの恋人がデュラハンに呪いをかけられた後、白い花が置いてなかった?」


 俯いたまま問うティア。

 質問をしながらも、彼女には返ってくる答えの予想はついていた。


 「何で今そんな話なんか……」

 「いいから答えて!」

 「あ、あぁ確かあったよ。それと何の関係が……。まさか!?」


 シャノンがティアの質問の意図を理解して言葉を失う。


 「気付いた? さっきの家にも遺体が発見された直後なのに白い花があった」

 「ということは君の家にも?」

 「えぇ。つまりデュラハンが殺害した人の家に花を添えてるってこと」

 「い、いや待て! デュラハンは死の呪いをかけるだけだろう? 今回は明らかに暴行されているし、部屋も荒れていた!」


 シャノンの言うとおり、デュラハンは直接人間に手を出すことはないとされている。

 人間の財産に興味もないはずであり、強盗まがいの行為に意味はない。


 「でも、あなたも言っていたでしょう。魔物は人間の理解を超えた存在。私達の信じていることが全てじゃない」

 「そ、それはそうだが……」

 「わざわざ自分が殺した人間に花を……! 人間を馬鹿にしてる! 嫌味でしかないじゃない!」

 

 声を荒げるティアにかける言葉も見つからず、沈黙するシャノン。

 デュラハンに父を殺される以前のティアのことを彼は知らない。出会ってまだたったの二日目だ。

 だが、その短い時間の中で彼女の心が徐々に深い憎しみに支配されていくのを確かに感じていた。


 「もう我慢出来ない! 今からでもダンジョンに乗り込んでやる!」

 「待てっ! 冷静になれ!」


 駆け出そうとするティアの手を掴むシャノン。


 「離してよ! あなたは何も感じないの!? あいつが憎いでしょう!?」

 

 その言葉で何か気付き、シャノンは絶句した。

 ティアを掴む手はブルブルと震えて、徐々に緩んでいく。

 何故か手を緩めたシャノンに、ティアは怪訝な表情を向けると、その手を振り払った。


 「何があっても私の復讐を止めない。そういう約束でしょう」


 ティアは呆然と立ち尽くすシャノンに冷たく言い放つと、デュラハンがいるという森に向かい走り出した。

 


 ◇



 ティアは無数の大樹が並び立つ森の入口の前に立っている。


 ――この森の中にダンジョンがある。奴がいる。


 緊張で生唾を飲み込む。

 ここからはデュラハンの領域。重圧で一歩目が中々踏み出せない。 

 

 「……大丈夫、私は強い」


 絞り出すように声を出してから、深呼吸をすると、日が落ちはじめた暗い森の中に足を踏み入れた。


 「ダンジョンの場所に確かな情報はない。悔しいけど奴に招かれるのに期待して歩くしかない……」

 

 木のざわめく音、野鳥の鳴き声、自身の足音でさえもティアを恐怖させる。

 まだ歩き始めたばかりだが、森まで走ってきたせいか呼吸も荒く、足元がふらついている。


 「何を今更怖気づいてるの私……。この時のために準備してきたじゃない」


 ぽつりと呟くと、あることに気付くティア。


 ――準備? そうだ! 武器がない!?


 シャノンから借りるはずだった槍や弓矢といった武器を持たずに来てしまったのだ。

 デュラハンが出たと思われる殺人現場から、気が動転して駆け出してしまったティアの頭からは、用意してきたあらゆる策が抜け落ちていた。

 

 「信じられない……。私のバカ! 一旦戻るしか……」


 頭を抱えるティア。

 自らの失態に気付くと、急に身体から力が抜けていく。

 視界はぼやけ、歩けなくなり、近くの一際大きな木に寄りかかる。


 「何……これ……前がよく見えない……」


 寄りかかった身体は次第に崩れ落ち、地面に横たわってしまう。


 ――もしかして、これがダンジョンへの誘導? それとも……。


 

 そこでティアの意識は潰えた――。



 ◇



 ティアが目を覚ますと、視界には木の天井が広がっていた。

 動こうとすると、額から湿った白い布が落ちる。

 

 「あれ……ここ、どこ?」


 日差しが目に入り、日付が変わっていることに気付く。

 頭を抑えながら起き上がると、見知った顔があった。


 「おー! 目が覚めたからティアちゃん!」


 ツンツン頭の中年男性、薬屋のバンだ。

 その後ろには彼の息子のアレンがあぐらをかいて座っている。


 「いやービックリしたよ。いなくなったって聞いて探し回ったら、森の前で寝てやがるもんだから」

 「……俺が運んだんだからな! 少しは感謝しろ!」

 「あ、ありがとう」

 「礼なんてやめろよ! 気持ちわりぃ!」

 「いやお前が言ったんだろバカ息子」


 ティアは状況が飲み込めていない。

 二人の会話を聞く限り、森の前で倒れているところをアレンに助けられたということだが。


 ――森の前? 


 意識を失う前のことを思い出すティア。


 「おじさん! どういうこと!? 何で森の前に!?」

 「そりゃあこっちが聞きてぇよ。あんなところに何しに行ったんだ」

 

 ――おかしい。私はダンジョンを探して森を彷徨ってたはず。何で入口で倒れたの?

 

 「ごめんなさい。自分でも何が何だか……」


 デュラハンへの復讐を悟られないようにティアは答える。


 「ティアちゃん、ここのところロクに寝てなかっただろ?」


 バンが目の下の隈を指差しながら問う。

 

 「あとは栄養失調だな。まぁ今日はドクターストップだ。大人しくしてな」

 「親父は医者じゃないだろ」

 

 ――そうか。私はダンジョンへ招かれて意識を失ったわけではないのか。


 ――でも、それでは森の前で倒れていたことの説明がつかない。


 「まぁとにかく飯食って寝てな! 何か買ってくるよ。アレン頼むぞ」

 

 バンはひらひらと手を振って外へ出ていく。

 家に残されたティアとアレンはお互い黙り込み、張り詰めた空気になる。

 二日前、アレンは身寄りのないティアに、この家に住むことを提案した。

 しかし、ティアはその厚意を突き放すように逃げてしまったからだ。


 「その、この間はごめんね」

 「……いや、別にいい。ていうか寝てろ!」

 

 何故か怒鳴るアレンに対し、申し訳なさそうに再び布団に身体を預けるティア。


 「ったく! あの金髪のおっさんが気付かなかったら大事だったぞホント」

 

 恐らくシャノンのことだ。


 ――シャノンさんが二人に私を探させたのか……。でも彼は私がダンジョンに行くって分かってたしもっと早く見つけられたはず。


 ――きっと復讐のことは黙ってくれたのね。


 ダンジョンに向かう際、シャノンの制止を無視して駆け出したことを思い出す。


 「謝らなくちゃ……」


 フラフラしながら立ち上がろうとするティア。

 その時、乱暴にドアが開き、パンの入った紙袋を抱えたバンがティアを睨む。


 「だーかーらー! ドクターストップだって言ったろ! ったくティアちゃんまで反抗期かよ!」

 「は、はい……」


 ティアは、外に出ることを諦め、大人しく布団に潜った。


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