表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

思考を止めない力

ダンジョンを知るシャノンから多くの情報を得たティア。

対策を考えるために動き出そうとするが、ある人物に呼び止められる。

 走り出そうとするティアを呼び止めた少年の声。

 ティアが振り向くとそこには薬屋のバンの息子、アレンが立っていた。


 「お前のせいで店番任されたんだけど」

 「あ、ごめんね。おじさんにもお礼言っといて」

 「お、おう」


 不満そうな顔をしながら何か言いたげにしているアレンだが、中々言葉が出てこない。

 一方でティアはいち早くデュラハンへの対抗策を練りたいため時間が惜しい。


 「親父がやたら心配してたんだけど……お前何してたんだよ」

 「別に。大したことじゃないよ」

 「まぁ俺は興味ねぇし余計な詮索しねぇよ。その、色々大変そうだな……。だから……」


 言葉に詰まって二人の間に沈黙が流れる。

 

 「……俺の家族になれよ」

 「えっ!?」


 2人は思いがけない言葉に動揺して赤面する。発言したアレン自身もだ。

 

 「あっ違う違う! 違うから! そういうんじゃねーよ!」

 「……そういうのって?」

 「何でもいいじゃねーか! だからっ! 1人で色々抱え込んでるみたいだからうちに住めってこと!」

 

 赤面したまま妙に早口のアレン。

 ティアは彼の提案に思わず黙り込んでしまう。

 バンとアレンの親子には幼少期から付き合いがある。

 だからといって身寄りのない子供を引き取ることは簡単な話ではない。


 「で、どうなんだよ?」


 黙るティアの顔を、アレンが覗き込む。

 家族のいなくなる苦しみをこの数日で嫌というほど味わった。

 そして、これからもずっと1人――。

 そう思っていたティアにとっては、素直に嬉しい提案ではあった。

 しかし、今の彼女の心は溢れんばかりの復讐心に支配されている。


 ――復讐に2人を巻き込めない。


 ――それにもう私の心は普通じゃない。自分でも分かる。


 ――復讐を果たしても普通の生活には戻れる気がしない。


 「……無理」

 「えっ」

 「無理なの。ごめんなさい」

 「おいっ!」


 くるりと背を向け走り出すティア。

 アレンの呼び止めようとする声も一切聞こうとしない。

 人の優しさに触れて、復讐心が一瞬揺らいだことを悔やんでしまう。

 

 ――デュラハンへの憎しみを絶やすな! そうしなきゃ奴には勝てない!


 活を入れ、自分に向けられた優しさを振り払うように走り続けた。


 ◇


 無我夢中で家まで走りきったティアは、息を切らしながらドアに手をかける。

 そこであることに気付く。

 地面に置かれた白い花の束。

 既にしおれているため、ノアがなくなって間もないうちに置かれたものだろう。


 ――誰か来てくれてたんだ。全く気付かなかった。


 花束を広い上げ、家に入る。


 椅子に腰掛けると、ティアは自分の頬をパンパンと叩く。

 テーブルの上に置いてあったパンをかじり、近くに散乱していた適当な紙を乱暴に掴み取る。


 「ダンジョンを攻略して、デュラハンを討つために何が出来るか……!」


 復讐を果たすため、考えたことを全て書き出そうという意図だ。


 「奴は全身鎧に包まれている。それに首もない。刀や弓で殺すのはやはり難しい」


 頭の中で鎧の構造を思い浮かべるティア。

 デュラハンは、並みの人間では着ることも困難とされる重厚な漆黒の鎧に全身を包んでいると言われている。

 そこから推察すると、身体が顕になっているのは関節部くらいのものである。


 「切るなら関節部分……ただそこを狙うだけの隙を作るのは困難。やはり打撃が一番有効?」

 

 頭に浮かぶことを全て呟き、紙に書きなぐる。

 武器について考えていると、ふと何か思いついたように家の中を見渡す。

 ノアは採集家だった。

 鉱物を採集するハンマーやナイフ等、彼の残していったものの中には武器になりそうなものがいくらか見受けられる。

 

 「……どれも奴に決定打を与えるには物足りないか。明日シャノンさんに何か借りられないか聞いてみよう」


 武器について考えることを一旦やめて、状況を整理する。

 ティアはこの日に多くの情報を得た。

 しかし、まだ肝心なことを確認出来ていない。

 いくら思考を重ねてもどうしようもないかもしれない問題だ。


 ――ダンジョンの発見。まずそこが第一目標か。


 新しい紙を荒々しく掴むと、再び思いつくままに書き連ねながら思考を始める。


 「シャノンさんの仮説を信じるとしたら、デュラハンが私一人を招き入れるように誘導する」


 デュラハンが人間を招く条件は不明ではあるが、誘い込まれる前提でなければ話が進まない。

 

 「こうなったら一度ダンジョンの発見された森に行ってみるしか。でも、ダンジョンを発見出来たとして、私が侵入しなかったらどうなるの?」


 実際に試してみなければ不明確なことばかりで、思わず溜息をつくティア。

 試すといってもそれは命懸けだ。

 ダンジョンから帰れなくなる可能性や、デュラハンと対峙する可能性もある。

 仮にダンジョンから帰れたとしてシャノンのように二度目の侵入が許されないということも考えられる。

 

 「……こんなことで臆したらダメだ。もし逃げ道がないならその場で討つ……!」


 ティアはひたすらにダンジョンについての考察を続ける。

 彼女は時間の経過も疲れも忘れて、無我夢中に思考を加速させる。

 

 「……考えることをやめるな! 考えることをやめなければ勝機はある!」


 こうして夜明けまでティアの独り言とペンで書く音が止むことはなかった。


 ◇


 翌朝、ティアは真っ先にシャノンの家を訪ねた。


 「ティア!? 昨日の今日でどうしたの!?」


 早朝からの突然の来客に面食らうシャノン。


 「うわぁ……。目の隈すごいよ。休んでないのか?」


 軽く引いているシャノンに対し、ティアは紙束を無言で差し出す。

 疲れからか会話をする気力もない。


 「何だいこれは? 色々書きなぐってあるけど……」

 「ダンジョンの攻略と、デュラハンの討伐。私に考えられるパターンを全部書き出したの」


 フラフラとしているティアは、ちょっと座らせてとばかりに手でアピールし椅子に腰掛ける。


 「……ほんと、大した子だな。ちょっと読ませてくれるかい?」


 シャノンも椅子に腰掛けると、黙々と策が書きなぐられた紙を読み始める。

 その様子をティアは少し不安げに眺めている。


 「なるほどね。ダンジョンに入らずしてデュラハンを襲撃するか」

 「でも、その案はデュラハンに私がどこにいるか詳しく察知されているとしたら使えない」

 「あとは……弓矢で馬から落としその隙に仕留める。これも奴がダンジョンを出てくる前提ではあるが」

 「そう、そこが問題なの。デュラハンは度々人間を殺しに来るみたいだけど、ダンジョン周辺に私がいる状況化で出てくる可能性は……」

 「低いね。それどころかダンジョンに入らなければ追い出される可能性もある」

 「デュラハンの持つ異能がどこまで万能か分からないのが悩みどころね」


 厳しい表情でティアの考えた策を続けて読むシャノン。

 そこで彼は何かを思い出したように紙から目を離し顔を上げる。


 「そういえば私がダンジョンを調査に行った時、団員の一人が突然私の様子がおかしくなって気付いたらいなくなっていたと言っていたな……」

 「その時の記憶はないの?」

 「そうだ。突然ダンジョンの目の前にいた。そしてデュラハンに敗れたあとは気付いたら元の森の中に」

 「……!? 意識を乗っ取られていた……と考えるのが自然か」

 

 シャノンの持っていた紙を強引に横取りすると、余白に何かを書き出すティア。


 「シャノンさんが意識を乗っ取られたのはダンジョンの手前まで! そこからは奴の支配下にはなかったということ! これが間違っていなければいくつかの作戦が使える!」


 余白は見る見るうちになくなり、もはや何を書いているのか分からなくなる。

 その様子にシャノンは苦笑した。


 「活路が、見えてきたみたいだね」

 「えぇ。……そうだ。武器について考えていたんだけど、あなたなら何か持ってるんじゃないかって」

 「あぁ。ちょっと古びてるけど残ってるよ。見ていくかい?」

 「もちろん」


 シャノンに案内されて小さな倉庫へ二人は入る。

 扉を開けていても薄暗く、宙にはホコリが舞っているのが分かる。

 思わず口を抑えながら中を漁る二人。


 「はい。弓矢ね。馬を落とす策には必要って言ってただろ?」

 「えぇ。あと槍はある?」

 「槍? 君の身体じゃ持ち運ぶの大変じゃないか? あれだけ策があっても持てる武器は限られるだろう」

 「構わないわ」

 「そ、そうかい。木の槍の方が君が扱うにはちょうどいいか」

 

 必要な武器を一通り持ち出した2人は一息をつく。


 「じゃあ、私も運ぶの手伝うから君の家に行こう」

 「うん」


 その時――。

 

 「きゃああああああああ!」


 突然女性の金切り声が上がる。その声量からシャノンの家の近辺であることが分かる。

 

 「何だ!? とにかく行ってみよう!」


 ティアは頷いて、シャノンとともに走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ