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ダンジョンを知る男

父を殺したデュラハンへの復讐へ動き出したティア。

ダンジョンの手掛かりを探すティアは、かつてダンジョンの調査をしていた男性、シャノンの元にたどり着いた。

 ティアの前に紅茶を差し出すと、彼女の向かい側の椅子にシャノンは腰をかける。

 彼は一口紅茶を飲むと、一呼吸おいて話を切り出す。

 

 「さて、私に何が聞きたいのかな」

 「デュラハンのダンジョンについて調査していたときのことを……」


 ティアが途中まで話したところで、シャノンが手で話を制止する。

 彼はごめんごめんと笑いながら言うと、突如鋭い眼差しをティアに向ける。


 「その前に目的を確認しなきゃいけなかったね。ダンジョンのことは公言されてないことばかりだから」

 「目的……」


 目的はもちろん復讐だ。

 ただ、それを素直に伝えてしまうと、止められるどころか情報を聞き出すことも出来ないかもしれない。

 必死にごまかす言葉を探すティア。

 その様子を見て、フッと笑ったシャノンが先に口を開く。


 「復讐……だよね?」

 「あ……」


 見事に言い当てられてティアは言葉を失う。


 「表情を見れば分かるさ。私も同じだったからね」

 「同じって……?」

 「詳しい事情は知らないけどデュラハンに大事な人を殺された。違うかい?」

 「っ! ――父を奴に……!」


 もうごまかせないと悟ったティアは返答するが、その声には当時の状況を思い出しただけでデュラハンへの憎しみが篭る。

 テーブルで隠れているが、ティアが強く拳を握り締めていることに、シャノンは気付いているようだった。

 シャノンはカップに入った紅茶を眺めながら、静かに語りだす。


 「私も愛人がデュラハンに死の呪いをかけられたんだ」

 「えっ……」

 「それで奴に復讐するためにちょうど人員不足だった調査団に入れてもらったんだ」

 「でもあなたもデュラハンも生きている。ということはダンジョンに潜入も出来なかったということ……?」

 「おっと、これ以上は当時の調査団でも限られた人間しか知らない話だ」


 ティアは焦って椅子から立ち上がる。

 このままでは何も分からないまま終わってしまう。必死に打開する方法を探す。

 

 ――こうなったら脅してでも……!


 「おいおい、そんな怖い顔しないでよ。話さないなんて言ってない。君の聞きたいことには分かる限り答えよう」

 「えっ……な、なんで」

 「その燃えたぎるほどの復讐心を抱えたままじゃ、元の生活には戻れないからさ」


 シャノンは憂いを帯びた表情で答え、立ち上がると窓から外を眺める。

 

 ――私にはこの人は普通の生活をしているように見えるけど、もう復讐心はないっていうの?


 疑問が浮かぶが、シャノンに問おうとするより先に彼が切り出す。


 「まず、そうだね。ダンジョンが何で存在するか君は知ってるかい?」

 「最上級の魔物……魔王がいつでも襲撃出来るよう魔物を各地に配置することで人間を支配下に置いている……」

 「ただ、各地の魔物同士はお互い干渉しない。つまり、この地のダンジョンを攻略することで驚異を消し去ることができる」

 「でも、ダンジョンを見つけることも出来なかったんでしょ」

 「いや、違うよ。森で遭難してしまった一人が偶然にもダンジョンを見つけることは出来たんだ」

 「そ、その人は無事に戻ってきたの!? ならその人に聞けば!」

 

 ダンジョンを発見した事実を知っている人間がいるということは、その人間は無事生還したと考えるティア。

 外を眺めていたシャノンは、再び椅子に座り紅茶を一口飲む。


 「その一人が私だ」

 「ッ!?」


 ティアは動揺して一瞬言葉が出なくなるが、すぐに立ち上がりシャノンに詰め寄る。


 「あいつと、デュラハンと対峙したの!?」

 「そう、ダンジョンの奥に住まうデュラハンの元にたどり着いた」


 デュラハンと対峙した人間が目の前にいて、その経験を自分に話そうとしている。

 それを聞くのが目的ではあったが、思わず緊張で唾を飲むティア。


 「まぁたどり着いたといっても、ダンジョンの魔物に案内されて、デュラハンの元に連れてかれたんだ」

 

 シャノンは、溜め息をついて頭を抱えながら続けて語る。


 「結論を言うと手も足も出なかった。それに何故かその日の記憶も曖昧なんだ」


 シャノンは淡々と語っているが、彼の身体が僅かに震えていることにティアは気付く。

 

 ――あの残虐な魔物がダンジョンに侵入した人間を生かして帰した!?

 

 「気付いたら外に放り出され、ダンジョンは消えていたよ」

 「そのあとダンジョンは探したの?」

 「あぁ。そのあとの調査には目撃者として何度か同行した。でも見つけることは出来なかった」

 「それで結局ダンジョンは見つかることなく調査団の活動も終わったと……」

 「そのとおり。それにあの一件から私の復讐心も完全に潰えてしまったよ……」

 

 復讐心さえも上回る恐怖や絶望。

 デュラハンを目の当たりにし動くことも出来なかったことを思い出すティア。


 ――シャノンさんが味わったのはあの時の感情に近いものだろうか。いや奴と戦ったならそれよりも……。


 「さぁ、今度はこっちが質問する番だ」


 紅茶を飲み干し、少し疲れたような声でシャノン。


 「そもそも発見の出来ないダンジョン。侵入出来ても待つのは絶望。君はまだ復讐する気があるかい?」


 問いかけるシャノンの鋭い眼差し。

 目の前にいるシャノンは、どう見てもティアより強い。だが、手も足も出なかったという現実。

 そして、思い出すだけで身体が震える程の、実際に目にしたデュラハンの恐ろしさ。

 ティアの心は不安と恐怖に支配されつつあった。


 ――大丈夫、私は強い。私は強い。私は強い。私は強い。


 マイナスな感情を押しつぶすように、心の中で何度も唱える。

 

 ――父さんだけじゃない。あいつに何人も罪のない人達が殺されてきたんだ……! 絶対に……絶対に……!


 いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げ、デュラハンへの強い憎しみに満ちた眼差しを向けてティアは答える。

 

 「……奴に、復讐する!」

 「……そうかい」


 復讐に囚われた少女の目に思わず物怖じするシャノン。

 

 「さて、君の決意は嫌というほど伝わってきたが、問題はどうやってダンジョンに辿り着き、奴を討つかだ」

 「さっきダンジョンは消えたって……」

 

 先程までの会話を思い出すティア。

 シャノンはデュラハンに敗北したあと、一度もダンジョンを発見出来ていないのだ。

 

 「仮説ではあるが、何らかの方法でダンジョンを視認出来なくしているのではないかと私は考えているんだ」

 「でも実際に一度はダンジョンへ侵入出来たのでしょう?」

 「魔物は人間の理解を超えた存在。一度攻め込んだ人間……私の身体、もしくはダンジョンそのものに細工していても何ら不思議じゃないさ」

 「ということは、もう誰もダンジョンを見つけることが出来ないかもしれない……」


 必死に頭の中で考えてはみるものの、解決の糸口が見つからずうなだれるティア。


 「もう一つ、仮説があるんだ。これも根拠がないがそっちの可能性に賭けてみよう」


 ティアはバッと顔を上げると食い入るように話を聞こうとする。

 

 「デュラハン自身が狙った人間をダンジョンに招き入れている可能性だ」

 「招き入れる?」

 「人を喰らう魔物もいるって聞くからね。大勢で攻め込まれないように特定の人間だけを誘い込んで殺そうって魂胆かもしれない」


 人を喰らう――。

 思わずおぞましい光景を想像してしまいティアの顔が青ざめる。

 

 「でっでも、あなたは無事だったんでしょ!? その可能性は――」

 「殺す以外の目的があるとしたら?」


 言葉を遮るようにシャノンが新たな可能性を示す。

 彼は大きく溜息をつくと続けて語る。


 「魔物の考えてることなんか私達には到底理解出来ないさ。実際対峙した私もほとんど記憶がないだけで、奴にとって必要な何かをされていたのかもしれない」

 「……仮に奴に誘い込まれるのを狙ったとして、真っ向からぶつかったら勝ち目なんてないじゃない」

 「勝ち目がなければ君は復讐しないのか?」

 

 いくら復讐心を燃やしてもティアは特別な力などない14歳の少女だ。

 シャノンが手も足も出なかったデュラハン相手に何が出来るのか。

 シャノンの問いに目を伏せて黙ることしか出来ない。

 

 「意地悪な質問だったね。君の復讐の邪魔はしたくないが、ただ死にに行かせるのはとても気乗りしないからね」

 「……考える」

 

 ぽつりと呟くティア。

 

 「策がないなら新しく考える! 力がないなら力をつける! 勝つ自信がないなら自信をつける!」

 「……ほぅ」


 シャノンは目を丸くして驚くと、にやりと笑う。

 

 「まずは武器……アイツは全身鎧だから打撃が有効? それと……」


 笑うシャノンを無視して、ブツブツと声に出しながら策を練り始めるティア。

 シャノンはその様子を関心するように眺めると、手をパンパンと叩く。


 「そこまで。今日は解散しよう。一度落ち着いて整理した方がいい」

 「え……う、うん」

 「また何か思いついたら私のところに来なさい。こっちでも考えてみよう」

 

 椅子から立ち上がり、ティアに帰るよう促す。

 

 「本当はこんなことに手を貸すべきじゃないんだろうけど、君があのデュラハンを倒すのに賭けてみたくなったよ」

 「そう。じゃあ何があっても私の復讐を止めないって約束してくれる?」


 ティアの赤い瞳は、真剣そのものだった。

 シャノンは、やれやれといった表情を浮かべる。


 「分かった。約束しよう。またいらっしゃい」


 ドアを開けて、シャノンの家を後にするティア。

 

 ――大丈夫、私は強い。


 強い決意を新たに、彼女は心の中でまた唱えた。

 

 「おい!」


 日が落ち、薄暗くなった街を走り出そうとしたティアを、突如ある少年が呼び止めた。

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