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リィトゥサ魔法店の異世界旅行譚  作者: 使い魔のジスト
1/1

『世界を渡れ』とベルは鳴る

 からんからんとベルが鳴り、木製のドアはギィと音を立てて開く。


「いらっしゃい、リィトゥサ魔法店へようこそ」


 出迎えたのは桃色の髪と紫色の眠たそうな目をした若い少女、名をリィト。ぶかぶかの寝間着姿でカウンターに立つ姿は、寝起きの子供と見まごうほど幼い。しかし、若い見た目とは裏腹に、都市の一角に古今東西の魔法具を扱う店の店主でもある。

ごちゃごちゃと物が陳列されたこの店で、今日も訪れる客に目配せをしながら、読書にふけっている。


「よぉ店主、随分暇そうじゃねぇか。不況の煽りでも受けたのか?」


「いいや、昨日も今日も平常運転さ。それとも、もしそうだったなら『おお可哀想に』と売り上げに貢献でもしてくれたかい?」


「お生憎。ここの所、作業場に閑古鳥が住み着いちまったらしい。おかげで今じゃ無一文だ。今日はそんな俺に日銭をくれる場所を探しに来たのさ」


 メガネを外し、リィトは客人を見やった。

ぼさぼさの茶髪、蓄えられた無精ひげ、オイルに汚れたブーツと分厚い手袋。その姿を見て彼女は、客人が物を買いに来たのでは無いことを察した。


「成る程、『売りたい』方の客人か。ウィン、出ておいで」


 リィトの声に応え、彼女の背後から現れたのは、若緑の髪をした少女だ。手のひらサイズの小さな体でふわふわと飛びながら、リィトの指示を待っている。


「ちょっと商談をしてくるから、店番を頼んだよ」


 リィトの言葉に対し、少女はこくこくとうなづいて、カウンターのテーブルにちょこんと座った。


「さて、こちらへどうぞ。キミの商品を出すのに、店先じゃあいけないだろう」


 そう言って、リィトはカウンターの奥にある扉へその男を案内する。


「そこのイスにかけてくれ、茶でも飲みながら商談しよう」


 リィトは棚からカップを取り出そうとする。しかし、客の男はそれを止めた。


「いや、いい。あんたに作品を買い取ってもらった後、すぐに工房に戻る予定でな。話は手早く済ませたいんだ」


「へぇ、まるで私がキミの作品を買うのが当然のように言ってくれるね……いいだろう、見せてくれ」


 男が出したのは、複雑な模様の刻み込まれた小型のベルだ。模様はベルの裏側にもびっしりと刻まれており、淡い光を放っている。リィトは椅子に座り、ベルを手に取って様々な角度から眺めた。


「道具を媒体にした魔法術式か、随分と出鱈目に書かれているようにも見えるけれど……この道具では一体何が出来るんだい?」


「異世界旅行……と言えば、あんたは笑うか?」


「……詳しく聞いてから答えよう」


 両者の表情は真剣になる。少しの沈黙の後、男の方が口を開いた。


「まずは仮定の話だ。この世界には今、この瞬間に『選ばれなかった』時の流れが存在するとしよう。たとえば、今日俺がここを訪れなかった世界、今日はこの店が閉まっていた世界、今日はあんたが体調を崩していた世界……キリがねぇからこんくらいにしとくか。

 その中でもとびきりの特例がある。世界の理そのものが違うって世界だ。この世界じゃ魔力が主なエネルギーだろ?火やら水やらをおこしたり、超人になりゃ国さえ滅ぼせちまうが、たとえば魔力がない世界があったら?その世界は一体どうやって豊かな生活をしていると思う?

どんなエネルギーを使っている、何にエネルギーを貯めて使う、どんな用途に使用する、どうやってエネルギーを発生させる……。

噂で聞いてるぜ、あんたは半ば趣味で魔法具をかき集めて研究しつつ、この店をやってるってな。そんなアンタにとっては興味が尽きないんじゃあないか?」


「……確かに、キミの言う通りだね。もし実在するなら、それはそれは素晴らしいことだ。この店を引き払ってだってその世界に行く方法を模索するさ。

 しかし、キミの作った魔法具で行けると言われても、私としてはイメージがつかない。こことは作りの異なる世界が存在すると言われても、現実味がない。……キミは、一体どうやって異世界の存在を証明してくれる?」


リィトのその言葉に男はニヤリと笑い、リィトが持っているベルを手に取って、応接室から店内に繋がるドアへと歩く。


「実演販売ってやつだ。このベルが設置された建物全体は一つの空間として扱われ、異世界へと移動するように術式を組んである。ただし、このベルは扉に取り付けて、初めて効果を発揮できる。今回はこの店全体を一つの空間として扱わせてもらうぜ」


そのまま入り口まで歩くと、扉にベルを取り付け始めた。リィトはカウンターまで歩くと、真剣な表情でその様子を眺める。


「さて、これでよし……と。それじゃ、始めるぜ」


「……念のために聞いておくが、実際にその魔法具を試したことはあるのかい?」


「いいや、これが初めての起動だ。なぁに、心配するな。『理論上は』上手くいくはずだからな」


「なっ!? ちょっと待——————————」


「さぁて行くぜ」


男がベルを弾くと、甲高い音でカランカランとベルが鳴る。それと同時に地面が揺れ、リィトは思わずしりもちをついた。

……こうして、リィトゥサ魔法店の異世界旅行は始まる。

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