ある日の夢
夢を見た。
仕事で疲れた体を引きずって、自室のベッドに倒れこんだその時だった。
気が付くと私は、10年以上前に私が通った高校の教室にいた
そこには当時の旧友たちが、高校3年生の時の姿でそこにいた
社長になったあいつも、先月子供を産んだあの子も、変わらない当時の姿で教室にいた
ただ一つ違ったのは、全員が10年以上先の現実から来たことを知っていた
皆、自分が一様に、元の世界からタイムスリップしたことを知っていた
自分たちはなぜこの世界に来たのか
どうしてこの教室に自分たち当時のままいるのか
皆、最初は頭を悩ませた
しかし悩んでも答えがわからない私たちは、「とりあえずこの高校生活を生きよう」という結論に至った
それからの皆は面白かった
当時の日々を懐かしむように、当時できなかったことを取り戻すように、格好をつけて漫然と過ごした日々を反省するように
私たちは毎日を精一杯過ごした
本当は30歳を過ぎたような男と女が
恥も外聞もなく高校生活を謳歌した
今度こそお前にはテストで負けない
今度こそインターハイに出場してやる
今度こそ文化祭でお前より目立つんだ
妻子持ちのお前には負けーよ
うるせー、痛風持ちが何言ってんだ
一つの教室で、皆で机を並べ授業を受け、皆で母が作った弁当を食べ、皆で思い思いの青春を過ごした
いつしか夏が過ぎ、秋を過ごして、冬になった
私たちは、卒業式も間近の高校にいた
窓の外が雪で覆われた教室に、石油ストーブの温かさ
暗い校舎に授業終了にチャイムが鳴り響く
ある子がぽつりとこう言った
「私たち、卒業したらどうなっちゃうんだろうね」
気が付くと私は自室のベッドの上にいた。
消し忘れか、電気が煌々とついた部屋の中で、私は一人スーツのままベッドに突っ伏していた。
教室のようなじんわりとした暑さが部屋を覆っている。
私たち、卒業したらどうなっちゃうんだろうね
あの子のぽつりと言ったその言葉が、まどろむ私の耳に木霊した。
(了)