その5・しおりと望み叶える魔法使い
しおりたちが広場にたどり着いたとき、春の王子様はまだ同じところで遊んでいました。
副大臣のふくろうは春の王子様に駆け寄って言いました。
「春の王子様。さきほど、冬の女王様が塔から出てこられましたので、あなたのお母様に塔に入っていただきたいのですが、お姿が見当たらないのです。心当たりはございませんか?」
それを聞いた春の王子様はぎくっとした様子を見せながら言いました。
「し、知らないよ」
そっぽを向く春の王子様を怪しいと思ったしおりは、
「本当に?」
と顔を近づけて言いました。
すると春の王子様はますます目をそらして、
「本当だよ!」
と言いました。
春の王子様の顔をじっと見ていたしおりは、ふと春の王子様が見ている方に目を向けると、ひらめきました。
「あっ!わたし、春の女王様がどこにいるのかわかるかも!」
「本当ですか!?春の女王様はどこにいるというのです?」
「あそこだよ。」
しおりが指さしたのは、カフェでした。
「あの人が春の女王様なんじゃないかな?」
その人は、窓際で外を見ていた、優しそうな女の人です。
「確かに、髪の毛は隠していますが、あの人は春の女王様です。」
そう言って、副大臣のふくろうは女の人に近づいていきました。
「春の女王様。冬の女王様が先ほど塔から出てこられました。一緒に来ていただけますね?」
春の女王様は、少し悲しそうな顔をしてうなずきました。
お城に戻ると、冬の女王様が待っていました。
「ああ、春の女王様が見つかったのですね。よかった……。いったい、なにがあったのですか?」
ほっとしたように問いかける冬の女王様に、春の女王様が頭を下げました。
「ごめんなさい、全て、お話します。」
そう言って、春の女王様はなぜこんな事になったのか話し始めました。
わたくし、塔に入るのが嫌だったのです。
塔に入っている間、息子の春の王子と会えなくなるんですもの。
息子もわたくしと会えないことを寂しく思っているようでした。
なので、何気なく言ってしまったのです。
冬が長く続けば、そのぶん息子と長く一緒にいられるのに、と。
それを聞いた息子が冬の女王様にお願いをしたようなのです。
3月に冬の女王様とお話ししたとき、それに気づきました。
その時思ったのです。わたくしが黙っていれば、その分長く息子といられるのではないかと。
そして、皆さんには申し訳ないとは思いながらも、この幸せな時間をもう少し、もう少しだけと今まで過ごさせていただいたのです。
改めて、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
そう言って、春の女王様は改めて頭を下げました。
冬の女王様は、そんな春の女王様の手を取って言いました。
「わたくしも長い冬が望まれていると聞いてうかれてしまい、自分からは塔を出なかったんですもの。わたくしの方こそ、申し訳ありませんでしたわ。」
その様子を見た副大臣のふくろうは、ほう、と息をついて言いました。
「女王様方がそう言うのであれば、そして、これからもきちんと季節を廻らせていただけるのであれば、私からは何も申しますまい。」
「わかっています。息子に会えない日々が続くと思うとため息がでますが、これ以上春を遅らせるわけにもいきませんものね。」
春の女王様がそう言ったところで、しおりは気になっていたことを聞くことにしました。
「ねえ、なんで春の女王様は王子様と会えなくなるの?」
「前にも言いましたが、塔には女王様以外入ってはいけないという決まりがあるからです。」
「うん、聞いたよ。なんでそんな決まりがあるんだっけ?」
「それも言いましたが、季節を司る者だけに……」
「春の王子様って、その季節をつかさどるものじゃないの?」
しおりの言葉に、女王様も、副大臣のふくろうも、きょとんとした顔になりました。
「わたくし、その決まりの理由までは存じませんでしたわ。もしかして、息子は塔に入ってもいいのかしら?」
「しかし、その理由も確かなものではありませんので、王子様ならよいとまで言えるかは……」
「それは王に聞いてみたらいいのではないでしょうか?」
女王様と副大臣のふくろうが話し合いを始めたところに、魔法使いが言いました。
「お話中のところ申し訳ありません。どちらにしてもこれから季節は廻るのでしょう?であれば、好きな褒美をいただけるということになっていたと思いますが……」
「い、今ですか……。いえ、そうでしたね。何を望まれるのですか?」
「王様にお伝えください。決まりに確たる理由が残っていないのであれば、季節を司る者と、その子供も塔に入ってよい事にしていただきたい、と。それが私の願いです。」
「それは……あなたには何の得にもならないではありませんか。あなたは褒美のためにご協力してくださったのではないのですか?」
「いえいえ、ちゃんと私の得にはなりますよ。」
「ほう、それはどういうことですか?」
副大臣のふくろうが驚くと、魔法使いは笑顔で言いました。
「私は『望み叶える魔法使い』。人の望みを叶えることが私の喜び。なので、春の女王様の望みを叶えるために褒美を使うのは、私のためでもある、ということです。」
「そうですか。いや、正直、あなたのような人がいることには驚ましたが……ここはお言葉に甘えるとしましょう。」
そして、今度こそ春の女王様が塔に入ることになりました。
「改めてお礼を言わせてください。色々と手を尽くしてくれて、ありがとうございます。」
春の女王様はお礼を言って、魔法使いの手を握りました。
次にしおりの手を握ったところで、思い出したかのように言いました。
「ところで、あなたはなぜ髪を隠しているのに、私が春の女王だとわかったのですか?」
「思い出してみたら、そっくりだったから。雰囲気も、言ってることも。」
「そうですか、そっくりでしたか。」
春の女王様はそう言って嬉しそうにほほえみました。
「ありがとう。それでは、行ってきます。」
そう言って、手を振って部屋を出て行きました。
「それでは私も失礼します。王様に報告しなければいけないことがたくさんありますので。」
副大臣のふくろうも一礼して部屋を出て行きました。
残った冬の女王様はしおりの手を取って、自分の手と重ねました。
仏の女王様が手を離すと、しおりの手に一輪の花が乗せられていました。
その花はたんぽぽのようにふわふわしていて、たんぽぽよりも透き通ったきれいな白い色をしていて、雪の結晶が集まって一つの花になっているようでした。
「それはこの国で1年に1度だけ咲く、雪の花。この国にしかない特別な花ですが、感謝の気持ちに差し上げましょう。」
「ありがとう、冬の女王様。また次の冬を楽しみにしています。」
「ええ、こちらこそ。」
そう言って、冬の女王様も部屋を出て行きました。
最後に、魔法使いがしおりに言いました。
「ありがとう、お嬢ちゃんのおかげでたくさんの人の望みを叶えることができたよ。」
「どういたしまして。でも、魔法使いなのに結局魔法使わなかったね。」
「いや、使ったよ。ここぞと言うときに、一度だけね。」
「えっ!?全然気づかなかった!いつ、どんな魔法を使ったの?」
「ちゃんと最初に言ったじゃない。お嬢ちゃんを呼び出したって。そうしたら他にもたくさんの望みが叶うと思ってね。」
「でも、魔法使いさんが使えるのは望みを叶える魔法なんじゃないの?わたしを呼び出すのは誰かの望みだったの?」
「何言ってるのさ。お嬢ちゃんが望んでたじゃないか。お話の中に入りたいって。」
その言葉にしおりははっとしました。
「そろそろ時間かな。もしかしたら、また会うことがあるかもしれない。そのときはよろしくね。」
しおりは返事をしようとしましたが、急に眠たくなってきて、返事ができませんでした。
気がつくと、しおりはいつもの布団で目が覚めました。
いい夢を見たな、と思って枕の下の本を取り出してみると、タイトルが変わっていました。
新しいタイトルは『しおりと望み叶える魔法使い』。
その本には、さっきまで夢の中で冒険した事が物語として書いてありました。
そして、最後のページに雪の花の栞が挟まっているのを見つけて、しおりは今までよりももっと本が好きになったのでした。
以上となります。
力不足でまだまだ粗も目立つので、もしかしたら改稿するかもしれません。
こんな短い作品でもかなりの試行錯誤と苦労をして、ほかの作者様の凄さを改めて感じました。
しばらくはまた読者としてありがたくほかの作品を読ませていただきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。